虚仮
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「どうしてあちきの邪魔をするのっ!」
シュキアはコジロウに怒りを露にする。
「むしろお主を救おうとしているでござるよ。これがレシュのやり方でござるからな」
「おかしいよっ! だったら素直に負けるだけでいいよっ! 負けてさえくれたらあちきは救われるんだからっ!」
「それは救いではない、とレシュリーは言いそうでござるな。結局、ここで拙者らが負けても、いろいろといちゃもんをつけられていつまでも弟とやらを返してもらえない。そうではござらんか?」
「そうだとしてもあちきはやらなきゃならないっ!」
長二叉捕縛棒〔支配者ドロップウィップ〕を再び握り締めたシュキアはそれに捕まったままのコジロウを投げ飛ばす。
「こうやってあんたの命を脅かせば負けてくれるでしょう?」
「力技で脅してくるのは予測済みでござる」
そう呟くコジロウは既に長二叉捕縛棒に捕縛などされていない。代わりに捕縛されていたのはコジロウの浴衣を羽織った木材。【変木術】によって自らを木材とすり替えていた。
「正当防衛ということで全力でお相手するでござる」
おとなしく待ってなどくれないシュキアに向かってコジロウは疾走する。
***
「どういうつもりか知らないが、オレ様はなんであれ勝つぞ」
長大剣〔多妻と多才のオーデイン〕を振り回しながらアエイウが叫ぶ。
大振りの剣がぶつかる瞬間【転移球】で移動するも、そこにはミキヨシの姿。ある程度予測して僕を待ち構えていたらしい。
がそのミキヨシが僕へと近づく前にミキヨシへと強風が吹く。
アリーが解放した【風膨】がミキヨシの攻撃を阻害し、僕の逃げる隙を与える。と思えばアリーへとアリーンが迫っている。【毒霧球】で接近を防ぎ、【転移球】でアリーを引き寄せる。
「レシュ、なんかとっておきの秘策があったら出し惜しみはやめなさいよ」
いつもと僕の動きが違うことから何かを企んでいると分かったアリーが僕に囁いた。
「それじゃ、反撃と行くよ」
無事に賭け金も適用され、さらにシュキアも退場している。ちょうどいいタイミングだった。
僕は爆弾のような形をした球を【造型】。そしてその爆弾のような球には表面には「3」という文字が書かれていた。
「さーて、これなーんだ?」
問題を出すようにアエイウに問いかけ、その爆弾のようなものをエミリーへと投げる。エミリーは筒を構うのに手一杯で気づいてない。
エミリーのもとへと向かうさなか、球に書かれた「3」という文字が「2」に変化する。
「エミリーさんっ!!」
危機的状況だと気づいたミキヨシがエミリーの下へ駆け出し、
「馬鹿者めがっ!」
怒鳴りアエイウも後退していく。アリーンも同じく後退していた。
僕とアリーはむしろその逆。その爆弾のような球へと走り出していた。
ようやくエミリーがその爆弾のような球に気づいたときには、球の文字が「2」から「1」へと変化していた。
「はわわわわわっ!」
一瞬にしてそれが何であるか気づいたエミリーは慌てふためき、耳をふさいでしゃがみ込んだ。
「間に合って!」
祈るような声を出してミキヨシがエミリーに近づく。その瞬間、「1」から「0」へと文字が変化。
そして……
アエイウが耳を塞ぎ目を閉じる。アリーンも耳を塞ぎ目を閉じる。エミリーは既に耳を塞ぎ、目を閉じしゃがみ込んでいた。ミキヨシは最悪の事態を想像しながらもしゃがみ込むエミリーを庇うように飛び込んでいた。
「ジリリリリリリリ……」
「0」へと文字が変化した途端、そんな音が爆弾のような球から発せられる。が爆発はしない。
僕が投げたのは一発逆転の島へ行く途中で作ったくだらない球。【三秒球】。
ただ三秒を計って教えてくれるというただそれだけの効果。
ただし形状は爆弾にとてつもなく似ているから、時限爆弾だと錯覚する可能性はあった。
「しまった、はったりかっ!」
音が鳴るだけだと気づいた頃にはもう遅い。
僕たちはカウント時から走り出していたのだ。それが見抜く機会でもあった。あれが爆弾であるのならば僕たちは走り出していない。
それに気づかなかった時点で、成功は確信していた。
「ごめんね」
震えるエミリーに呟き、【戻自在球】で場外に吹き飛ばす。
エミリーを庇いきれずに悔やんでいたミキヨシが体勢を立て直そうとしていたけれど、狙いを定めていたのは僕だけじゃない。
「吹き荒べ。レヴェンティ!」
レヴェンティから解放された【風膨】がミキヨシの身体を場外へと吹き飛ばす。
はったりからわずか数秒。それだけでふたりを倒し、人数の差を僕たちはなくしていた。
「ちぃ、小賢しい真似をっ……」
アエイウが歯噛みする。
***
「大丈夫?」
自分の怪我など気にもせずミキヨシはエミリーに近寄った。
「ミキヨシさんこそ大丈夫ですか? あわわ……血が出ておられます」
「これぐらいは平気。それよりキミは殴打されたんだ。痣とかになってない」
「それは大丈夫です」
「大丈夫なもんか。きっと痣ができてる」
「レシュリーさんが私を攻撃した後、確かに痣が出来たんですけど……今消えちゃってるんです」
「どういうこと?」
ミキヨシが首を捻る。
「あの……レシュリーさんが私を攻撃した時、攻撃した球が【回復球】に変化したんです……」
「え? な、なんでそんなことしたんだろう?」
「分かりません」
エミリーにその意図が分かるはずがなかった。当然ミキヨシにも。
「でも、いい人だね」
けれどそれだけをふたりは理解していた。




