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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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破綻

 35


「何を言っているのっ?」

「お主、自分が場外になったのは予想外の出来事だったと思っているでござろう? しかしそれは違うのでござる。お主も気がついてござろうが拙者は今、男でござる。この姿、見せるのは初めてでござったな?」

「だから何よ?」

「お主は力の加減を見誤ったでござる。拙者、男の姿なれば女の姿の時よりも筋肉がつくでござる」

 とはいえ、それを見抜かれないように、肉付きさえも変え、あまり筋肉がないように見せかけている。

「お主は拙者なら投げられると過信したのでござろう? 基本的に忍士は素早い分、体重は軽いでござるからな。だから拙者を捕まえ場外に投げようとした。しかしそれこそが罠でござる。だからお主は投げられた。ただそれだけでござる」

「それでもっ、ふたりで何とかなるとは思えない!」

「シュキア殿にはそう見えるでござるか。拙者にはそうは見えないでござる」

 コジロウは不敵に笑う。

 シュキアが確実に勝とうと思うのならコジロウではなくアリーかレシュリーを場外に落とすべきだった。三人の実力は確かに大差ないが、アリーとレシュリーの連携は、アリーとコジロウの連携の上をいく。

「まあそれはともかく、もうひとつ。首謀者オジャマーロは場内にいる冒険者が六人になった時点でお主がいない側に賭けるそうでござるな。本来、その行為は禁止されているらしいでござるが、まあ特権というやつでござろうな」

「何が言いたいのさっ?」

「こちらが勝てば計画が台無しでござる」

「そんなことない。あちきがいる組に賭ける人間なんて誰も……だってあちきが見張っていたし」

「そうでござるな。見張っていることもエリマ殿に聞いたでござる。ならば遠方からの、しかも時間ぎりぎりで賭けたお金に対してはどう対処したでござるか?」

 そんなバカな……とシュキアは絶句する。

 遠方からならともかく時間ぎりぎりに賭けることなんてできるはずがない。

「およよ! 六人になったね、なったね。それじゃ賭けるのはここでシューリョー!」

 タイミングよくテンテンの声が聞こえる。

 掛け金の集計がようやく終わり、それを観衆の前で発表するらしい。

「で賭け金の発表ーだよん! 観客だけ耳をすましておけ。それでオーケー。対戦してる冒険者は耳をすまして死んでも自己責任だよー!」

 テンテンがたんたんと言う間もレシュリーたちは戦っていた。

「ほいじゃ、アエイウ組。こっちは賭けた人が十万四千二百三十六人で賭け金はなんと! ざっと三千万イェン!! つーか一イェンとか賭けんな。鬱陶しいから切捨てたよん!」

 その言葉に一イェンを賭けた男が項垂れる。

「でレシュリー組。まあこっちは悲しいよね……って賭けたの六人もいるのかよっ! 残念無念、賭け金無駄になりそうだよね。レシュリー組は今人数ふたりだよ? バカっだねー。しかも六人全員が時間ギリギリに賭けてやんの。ついてねー、ついてねーってのん。まその賭け金だけど……えっと」

 テンテンの言葉が止まる。

「うっそ……これ……マジで?」

 その言葉に観衆がざわめく。

「どうしたのでおじゃるか!」

 決勝戦だけを見に来ていたオジャマーロが特等席で騒ぐ。

「えっと失礼しました。呆然唖然、賭けた人の中に阿呆がひとり混じっていた感じですぅ。賭け金はですね、えっと聞いて驚け野郎ども……なんと一億百二十五万イェン!」

 観客がどよめく。

 これは出来レースだ。シュキアがいる側が負けてしまうという出来レース。なのにそれに気づかず賭けた馬鹿が六人もいる。しかも総賭け金が一億百二十五万イェン。

 となればそれがアエイウ組に賭けた十万四千二百三十六人は賭け金に応じて分配される。

 両方合わせた掛け金の総額は一億三千百二十五万一イェン。一イェンを賭けた男にですら約千二百六十イェンの配当がある。

 それを考えると喜ばないものなどいない。


 ***


「何よっ……その金額……」

「拙者も驚きでござるな」

 場外のふたりが予想外の額に驚き、

「レシュ、あんたもしかして特許四つ分。全部つぎ込んだの?」

 僕の隣にいるアリーですら呆れていた。

「まあそんなところだよ」

 ともかくジネーゼの合図がうまくいって良かった。シュキアが落ちる瞬間なんてタイミング、曖昧すぎるにもほどがあるのだけどなんとかうまくやってくれたらしい。

「ってか一億越えってふざけてるわ。頑張って六十万賭けたのにむしろ恥ずかしいじゃない」

「いやいやありがたいよ。ろくに話合えなかったけど同じ方法を取ってくれて」

「ってかどうやって賭けたの?」

「私とコジロウはエリマさんに代理を頼んだわ。代理は同じ人でもいいらしいから」

「ということはそれで三人だね。あと三人は誰だろ?」

「エリマさん自身も賭けてるからあとふたりよ」


 ***


「吃驚じゃん……」

「何を驚いているの?」

「いや賭け金の額じゃん」

「どっちに賭けたの、ジネーゼは。あー、ごめん当然金魚のフンのほうだよね」

「否定はしないじゃんよ。つーか頼まれごとしたんだし、作戦は成功するらしいからそれに乗ったまでじゃん」

「でレシュリーにいくら賭けたの?」

「誰も大した額を賭けないだろうと思って奮発して八万じゃん」

「ちょっと見栄張り過ぎじゃない?」

「むしろ張れてなくてちょっと恥ずかしいじゃん」


 ***


「そこで何をしてるの?」

 ルルルカは賭金申込場に立たずむエリマを見て怪しみ話しかけていた。いやむしろ、自分の尊敬するレシュリーの試合を見ていないのが許せなかったから話しかけていた。

「なるほど。そういうことなの」

 ただ話を聞けば戦闘の技場(バトルコロシアム)の賭博は前からイカサマが横行していて、それをレシュリーが潰そうとしていることを知った。

 さらに詳細を話そうとしたエリマだったが、ルルルカにはもう十分だった。レシュリーが一枚噛んでいる。それだけで良かった。

「それに乗ったの。まあ任せるの。あたしもお金なら多少はあるの」

 そう言ってエリマが申し込むのと同時にルルルカは申し込んだ。

 しかし賭け金を見て唖然。たった二万しか賭けなかった自分が恥ずかしくなった。少しでも役に立とうと思い、貯金まではたいて奮発した額が、掛け金を見れば小遣いのようにしか思えない額だった。

「これは驚いたね」

「あなたも知らなかったの?」

「ええ、てっきりレシュリーは大胆な賭けなんてしないのかと思っていたのに。すごいわね、あの子」

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