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第九話 ジェヌスと職業

「「すいませんでした」」

「気にすることはない。若者が故の暴走は私にもあったからな」


 すっかり辺りも暗くなり、ジェヌスさんの家に着くと、ジェヌスさんはご飯まで用意してくれていた。

 申し訳なく感じるも、俺とセナは食料など持っていないため、ありがたく頂いてしまう。


「本当にすいません。この恩は絶対に返しますので」

「じゃあ、体で払ってもらおうかな」

「ブフッ! ななな、なに言ってるんですか! そもそも、その……あの……そんなこと、できませんよ!」

「そんなこととはどんなことかな? お姉さんに教えてごらん?」


 悪戯っぽく笑って、猫のような動きで俺の体に迫るジェヌスさん。

 ひぃー勘弁してくれ。そんなに近づかれると、女性の免疫のない俺はどうにかなってしまいそうだ。

 それにセナも同じ部屋にいるんだから、多少の配慮をしてほしい。


「からかわないでくださいよ! そんなことより、ジェヌスさんはどうしてここにいるんですか? 見たところ、結構いい服も着てますし」

「ここは、いわば私の故郷というものでね。私もここで君たちのように助けられたのだ。でだ、たまたまこの村に帰ってきたら、役場の近くでずっと《ヒール》をするセナくんに会ってね。泊まる場所もないし、お金もないが、病人にだけでもどうにかしたいと言われてね。お姉さんも何泊かするつもりで帰って来たから、家の掃除を手伝ってくれるならとこの家をタダで貸してあげたというわけだ。もっとも、本当の家はここではないのだがな」


 セナにはマジで感謝しないといけないな。

 ジェヌスさんもプレイヤーなのかな? いや、いきなり聞くのも無粋だし、俺たちと変わらないように食事をし、会話もする。そして、彼女は冒険者なのだろう。ジェヌスさんの口振りから、どうもここには度々帰ってきているわけでもなさそうだし。


「ありがとうございます。ジェヌスさんはいつまでここに滞在するんですか?」

「そう、それだ。この際だから、セナくんにも言っておく。ちゃんと聞くんだぞ」


 何やら神妙な顔つきになるジェヌスさん。

 その表情から俺たちはただ事ではないことを察して、箸を置く。

 

「私のことをお姉さんと呼びたまえ。そして、敬語も禁止。わかったかな」

「「へ?」」

「わかったかと聞いている!」

「「わかりました」」

「うん。よろしい」


 満足顔のジェヌスさんとは対照的に、困惑の表情をする俺とセナ。

 

「あの……そんなことよりも、滞在期間の方はどうなのですか?」

「そんなこと? セナ、今そんなことと言ったな?」

「え、は? い、いえ。言ってません」

「言った、言った。お姉さんはちゃんと聞いていたんだぞ。今から、お姉さんの偉大さと若者の可愛さに対てみっちりと教えてやる。勿論、少年も聞くんだろうな?」

「はい……」


 こうして、朝になるまでジェヌスさんの趣味が語られた。

 俺にはまったく共感するところがなく、時々寝てしまっていたが、セナには少しだけだがあったようだ。

 

 ジェヌスさん改め、姉ちゃんとセナは一睡もすることなく、朝食を作ってくれた。

 この日は待ちに待ったシュタルの町を探索する。

 その目玉は言わずもがな、役場での就職活動である。

 ハローワークに行くような言い方だが、実際に俺はまだ無職のまま。はやく就職したいものだ。

 姉ちゃんの家から町までは、三十分ほど歩くと着き、役場までなら合計四十分ほどで着いた。

 

「最初に役場に来るのはいいが、少年は職業決まっているのか? 決まってないなら先に他の場所に行きたいのだが」

「決まっているけど、参考までに姉ちゃんの職業教えてくれよ」

「姉ちゃん……いい響きだ」


 どこかうっとりとしたした表情をする姉ちゃんは、ここにくる道中でもこんな感じだったので、いい加減に慣れた。


「ゴホン、ゴホン。お姉ちゃん、はやく教えてあげて」

「私、もう死んでもいい……」


 身長の差もあるので姉ちゃんからセナを見ると、ナチュラル上目遣いになってますます萌えるそうだ。


「すまん、すまん。私の職業だったな。私は《戦士》だ。レベルはまだ37だがな」

「37!? 凄いな、姉ちゃん」

「お姉ちゃんってやっぱり頼りになるね」

「そんなに褒めても何も出んぞ。ハハハ」


 まあ初期プレイヤーならそんなものだと思う。


「……使い心地は?」 

「最高だ。素早い動きはできないが、圧倒的な防御の前では避ける必要もないし、高い攻撃力のスキルも豊富で初心者でも使いやすい」

「情報ありがとう、姉ちゃん」

「笑顔が眩しすぎる!」


 そんなに眩しいのか? 姉ちゃんの感性は理解できない。


「じゃあ、俺は《盗賊》にするよ。素早く動きたいし」

「ふむ。お姉さん的にはこのパーティーに遠距離攻撃を使える者が欲しかったがな」

「ごめん。もう決めたんだ。それに、セナとは、もうすぐしたらお別れだしな」

「そうなのか?」

「それはキュウが勝手に言ってるだけ。お姉ちゃんがいいのなら三人で居たいな」

「ほんと、セナは泣かせてくれるね」


 何か感極まっている姉ちゃんはほっといて、役場に入る。

 役場はこの町と同じように木造の建物で、中は田舎の銀行みたいな感じだった。

 役場は基本どの町も同じ外観で、内装もほとんど変わりがないらしい。もしかしたら、毎日のように通うかもなと思いながら、職業案内部の受付で担当者が資料を持ってくるのを待っていた。


「遅れてすいませんね。これ契約書ですので、なりたい職業に丸を付けてサインだけしてください」

 

 担当者から契約書とサインペンを借りて、《盗賊》に丸をし、キュウとサインすると、担当者に返却する。


「ふむ。不備はないですな。以上で契約終了です。ありがとうございました」


 頭も下げずにぶっきらぼうに担当者が言い放つと、俺は役場の外にワープしていた。

 セナと姉ちゃんが目の前に居て、セナは俺の姿を見て驚くが、お姉ちゃんは驚きもせずにまだ余韻に浸っていた。

 もしかして、就職できてないのかもと、慌てて職業欄を確認すると、そこには《盗賊》と確かに書いてあった。

 そう、俺は晴れて職持ちになったのだ。

 

 ようやく《盗賊》に就職したキュウ。

 そして、クエスト嬢との出会いが彼を待ち受けていた。

 次回 第十話 盗賊

 お楽しみに

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