第六話 それは呪い
「すまない。恥ずかしい姿を見せたな」
「気にしないで。私も同じような思いをしたから」
どういうことだ?
「そんなことより、自己紹介がまだよね。私はセナ。救助隊の一人よ」
「同じく救助隊のキュウだ。よろしく」
「よろしく、キュウ」
いきなり呼び捨てかよ。ちょっとこういうタイプの人苦手だな。でも、ここはゲームの世界だしそんなものなのかもしれない。
「セナさんはどうして、ここに?」
「セナでいいよ。マップでプレイヤーの反応があったから。私も始めたばかりだし、一人だと心細いの。それに、私MMORPG系のゲーム初めてで、要領がわかんないから、教えてもらおうと思って」
「そうか。じゃあ本当に人助けをしたくてLSOに来たんだな」
「うん。お兄ちゃんを助けに来たんだ。私のたった一人の肉親だから、どうしても助けたかったの」
虚ろな表情をするセナにはまだ他の事情があるように感じられた。あくまで、カンだが。
「じゃあ、俺もあまり詳しくないけど、しばらくの間サポートしてやるよ」
「よろしくお願いします」
律儀に頭を下げるセナ。本当はいい奴なんだろうな。
「ヘルプから出せる妖精のことは、知っているか?」
「うん。ムオンっていう少年の妖精さんよね。ここに来るまでに、戦闘方法や職業、スキルやメニューのことを色々と優しく教えてくれたの。出てきてムオン」
「ぼくの名前はムオン。妖精ヘルパーだよ」
プレイヤーの性別、もしくは各プレイヤーごとにヘルパーは違うのかもしれない。
俺の妖精のことも説明し、お互いに挨拶をする。
ヘルパーは、他の個体のことを直接知らないらしい。
そこで、俺はさっきから気になることを訊ねる。
「失礼かもしれないが、その赤い眼は生まれつきか? それとも、ユニークスキルなどの影響か?」
「キュウだから教えるけど、他の人には言わないでね。この眼はパッシブユニークスキル《パンドラ》の影響なの」
「じ、じゃあ報酬はすべてキャンセルしたのか!?」
「うん。私には必要ないから。はやくお兄ちゃんを助けられたらそれでいいの」
それほどにまで兄のことを救いたいのか。これは下手な指導はできないな。
「その《パンドラ》って最後に希望が残るパンドラだよね。どんな効果があるんだ?」
「統率力と支持力が-20。アイテムドロップ率20%ダウン。あと、不幸が起こりやすくなるの」
ゴミユニークスキル。脳内にその言葉が過る。
俺はパッシブスキルじゃなくて良かったと安心しつつも、セナの第一印象が悪かったことを思い出す。
支持力の効果が本当だとこれで確認できたのだ。
それにしても、《パンドラ》はどうにかならないものなのか。
「このパッシブスキルを変更することはできないのか?」
俺の質問に答えたのムオンだった。
「変更できないんだ。パッシブスキルはプレイヤーの意思に関係なく発動される。でも、この《パンドラ》は特別クエスト《外に飛び出した者たち》をクリアすることで、上位スキル《パンドラ・希望》になれる。《パンドラ・希望》はとてつもなく凄いスニークスキルだけど、《外に飛び出した者たち》のクリア適正レベルは70。現在のプレイヤーの最高レベルでも60代だから、長い間は、この不幸なスキルと付き合わないといけない」
もしかしたら、レベル70までに死んでしまうかもしれないし、ずっと一緒にプレイできる保証なんてない。
たとえ、俺が一緒にいたとしても、二人だけでは効率が悪い。
LSOにもギルドがあればな……ギルド?
「おい、ギルドってこの世界にあるのか?」
「あるに決まっているじゃない。このゲームはVRMMOよ。MMO系のゲームでギルドがないとかMMOですらないわ」
よし。俺は心の中でガッツポーズをする。
ギルドがあるなら、わざわざ俺が手伝う必要がないし、安全にレベル上げができるだろう。セナを受け入れるギルドがあればだが。
「ギルド作成条件はあるか?」
「適正レベル10のギルド作成クエストを達成すれば、町の役場で誰でも作れるわよ」
「わかった。セナ、取り敢えず近くのシュタルという町に行く。そこで職業に就き、セナの気に入るギルドに入団するところまでは手伝ってやる」
「ありがとう。なんとお礼を言っていいのか」
「気にするな。困ったときはお互い様だ」
「はい!」
その後、俺はセナの知っているマップの見方を教えてもらい、フレンド登録とパーティー登録をした。
フレンドを登録すると、フレンドの現在いるエリアとレベルと職業がわかるようになる。まだ、お互いに無職のままだが。
登録人数に限界はない。
パーティー登録をすると、自分のHPとMPのバーの下にパーティーメンバーのバーが表示され、レベルの差が15以上離れていなかったら、経験値が自動で均等割りになる。だが、アイテムはドロップさせた人の物。この時の経験値は敵にダメージを多く与えたプレイヤーの方で計算される。
たとえば、レベル1のオークをレベル1のセナだけで倒すとしよう。その時の経験値はモンスター自体の経験値をパーティーメンバーの人数分で割った分が配布される。それが通常ではレベル6で経験値にマイナス補正のかかる俺だとしても。
つまり、LSOでは高レベル者はサポート。低レベル者は攻撃。と上手くできればレベルアップも速くなるのだ。
パーティーメンバーは最大で七人と少し変則である。
俺たちはその方法を利用してレベルアップしつつ、シュタルに向かう。
ーーー
シュタルまでの道のりは、日本で見られる雑木林のように感じる。
そこで戦うレベル1のセナとレベル6の俺のレベルは鰻上りに上がっていった。
初めての戦闘にガタガタと震えるセナだが、10レベルを超えた辺りから、積極的に攻撃をするようになった。
しかし、順調だったのは、シュタルからおよそ1㎞の辺りまで。
どういうわけか、高レベルのモンスターが集まるのだ。
ここら一帯はオークしかおらず、オークはどの群れも三体で行動していた。
俺のレベルは15。
セナのレベルは13。
シオン曰く、このフィールドの平均レベルは5。だが、俺たちに集まるのは平均レベル13。
これも《パンドラ》の効果なのか。
一気に狩ることもできないので、少しづつ数を減らすが、最終的にオークに囲まれてしまった。
数は十二体。一気にボコられたら、HPバーはあっという間にダメージを示す黒色に染まってしまい、ゲームオーバーになってしまうだろう。
セナも涙目で、俺の服の端を力強く握る。
くそ。使うしかないのか? この場面で使っても大丈夫なのか?
「「「グフォー!」」」
オークたちは統率がとれているかのように、一斉に襲いかかる。
「っち、迷う暇を与えないってか! いいぜ、望み通り使ってやる! 《女体化:紅蓮の魔法使い》!」
そして、火柱が二人を包み込んだんだ。
ユニークスキルを使うキュウ。だが、それは男性が女性になる悪魔の秘術。
キュウの体は《女体化》に耐えられることができるのか?
次回 第七話 シュタルの町
お楽しみに