第五話 ユニークスキル
「何だこのバッジ?」
ピンクの箱から弁護士バッジのような形をした金のバッジを取り出すとアイテムの情報が拡大される。
『ユニークスキルバッジ:このバッジを服の右胸に装備して、望むユニークスキルを思い浮かべれば、そのイメージに近いアクティブユニークスキルが習得できる(装備してから、五秒後に思い浮かべるものがユニークスキルになる)。一度使うと効果はなくなるが、アバターアイテムとして使うことはできる』
アクティブユニークスキル? アクティブスキルとパッシブスキルがあるのか?
「スキルはアクティブとパッシブの二種類で合っているか?」
「合っているわ。パッシブが常時効果が働いて、アクティブはHPバーの下にある青のMPバーを消費することで使うことができる。当たり前だけど、MPバーがなくなればアクティブスキルが使えなくなるわ」
「他のゲームと同じだな。一つ気になることがあるんだが、もしかしてプレイヤーの考えていることは筒抜けなのか?」
もし、俺がいかがわしいことを考えていることがわかったら、モニタリングしている奴らの肴になってしまうからな。
「わからない。でも、筒抜けだとしても私たちにはわからないし、LSO運営を任されているオールクリエイトシステムだけしかわからないと思うわ。たとえば、先ほどの戦闘でわかると思うけど、プレイヤーの動きはあなたの思考どうりに動いたでしょ? そういうゲームとしてのサポートをするために、考えを読むシステムがあると予想されているわ」
「そういうことか。でも、このユニークスキル習得は難しいことに変わりはない」
つまりこういうことだ。俺がユニークスキルを考えようとしている間に、魔が差して思いもしないユニークスキルになってしまう可能性があるかもしれないっていうことだ。
「そう深く考えなくていいと思うわ。それに、キュウはまだ職業決めていないでしょ?」
「やっぱりあるのか。なんで言ってくれなかったんだよ」
「聞かれなかったからね」
「俺の聞いてないけど、求める情報を教えてくれるから凄いなと思っていたのに、これだからAIは」
「じゃあ今後教えな「すみませんでした!」わかればいいのよ」
柄にもなく土下座をしてしまった。
情報は俺の生命線だ。教えてもらえない=死につながる。
「基本職業は、全てで六種類。体力と攻撃力に特化した《戦士》。素早い動きと手数の多さで敵を圧倒する《盗賊》。様々な魔法の使える《魔法師》。遠距離攻撃の得意な《狩人》。仲間を回復できる《僧侶》。武器や防具のアイテムを作ることのできる《鍛冶屋》。以上よ」
結構多いいな。
「質問だが、簡単なアイテムなら誰でも作れるよな」
「もちろんよ。《鍛冶屋》は他の職業より作れるアイテムが多いだけよ。もっとも、《召喚士》や《政治家》など特殊な上位職業に就きたいなら、《鍛冶屋》しかないけどね」
《政治家》とか何をするんだよ! と思わず突っ込みたいが、ぐっと堪える。
「上位職業になる条件は? 種類はいくつあるんだ?」
「条件はレベル50になると、なりたい上位職業の特別クエストを受注できるようになって、クリアすれば町の役場から就職できるわ。種類は測定不能。最初は各基本職業につき三種類が確認されていたけど、例のシステムが次々と特殊条件を付けた上位職業を作り始めて、詳しい数がわからないのよ」
なんだよ、それ。
上位職によって基本職業決める奴とかいっぱいいるっていうのに。LSOは人情ってもんがないのか。
「まったく恐ろしいシステムだな。聞き忘れるところだったが転職はできるのか?」
「上位職業はできるけど、基本職業は無理よ。ちなみに、職業はここから3㎞ほど南にあるシュタルという町で、就くことができるわ」
「流石はシオンだな。アドバイス感謝するよ」
「もっと褒めてもいいよ」
シオンのドヤ顔は無視して、職業をどれにするか迷う。
さっきのように戦えるなら、《戦士》や《盗賊》もいいかもしれないが、おそらくステータスで行動の制限がかかるはず。さっきも、攻撃を避けたと思ったけど、掠ってしまった。
LSOでは一刻も早くクリアするために死ぬことは許されない。
なら、近接戦向きで死ぬ確率が高い《戦士》と《盗賊》は候補から外す。他にも、戦闘向きではない《鍛冶屋》は論外だし、ソロプレイ向きだけではなく、カッコよくない《僧侶》も外す。
残るは、《魔法師》と《狩人》。
魔法ってカッコイイのかな。
「魔法ってどんな感じだ? 派手か? カッコイイか?」
「ユニークスキルを魔法系にして、確認してみれば? 凄いしか言いようがないから、体験してないとわからないと思う」
「その手があったか!」
どうして思いつかなかったんだ。
ユニークスキルで、遠距離魔法を習得すれば、《戦士》か《盗賊》に就職して、オールラウンダーとして活躍できるではないか!
「ナイスだ、シオン。これで俺は最強プレイヤーになれる!」
「よくわかんないけど、キュウの為に役立ってよかったわ」
「じゃあ善は急げってことで、ユニークスキルを習得だ」
俺はメニューのアイテム欄からバッジを選択、装備をする。
だが、俺はまだどんなスキルにするか決めてない。
派手な雷落とし、全てを吹き飛ばす大竜巻、一気に凍らせる氷魔法、跡形もなく燃えつくす灼熱魔法、どれも今までプレイしてきたゲームお気に入りの魔法だが、どれか一つとなると凄く悩む。
あ、再使用時間を短く且つ魔法詠唱の硬直も少ないものがいいな。
ミスった装備する前に考えないといけなかった。 残り二秒どうする!
ガサッ
その時、草木を分けて、一人の少女が現れた。
歳は俺と同じくらいで、背丈は160㎝ぐらいで、栗色のショートカットが似合っている少女。整った顔立ちで俺と同じツギハギの服の上からだが、胸も標準ぐらいはあると思う。
しかし、より一層目を引くのが、彼女の目だ。
赤く、炎のように燃え盛って輝いていたのだ。まるで、この世のものではないかのように。
あ、ゲームではありえるのかも。
能力をルール無視で底上げしたりとか、過去に見てきたしな。
そんな中でも、常時使える強い魔法とか夢のまた夢だ。ありえないから元からっていう線も……
『ユニークスキル読み込み完了しました。抽出単語は《美しい女性》《赤い》《扱いやすくて強力な魔法》です。検索します』
「は?」
知らない間に、ユニークスキルの設定が終わってしまった。
不味すぎる。嫌な予感しかしない。抽出単語が酷過ぎる。
「やり直しだ! やり直し! おい、聞いているのか? おい!」
「無駄だよ。一度しか使えないって書いてあっただろ。運のある奴かと思えば、なんて運のない奴なんだ! アハハ。お腹痛い。アハハ」
「笑うな!」
嘘だ……嘘だと言ってくれ!
『検索終了。キュウ様のユニークスキルは、《女体化:紅蓮の魔法使い》です』
『《女体化:紅蓮の魔法使い》スキルレベル1:発動すると三分間赤毛の少女になる。攻撃力、移動力、支持力が+50。変身が解けると、逆に攻撃力と移動力が-20、支持力は平常時に戻る。特殊魔法が使える。スキルのレベルアップにより、使用できる魔法が増加する。
第一の魔法 《紅の一撃》
第二の魔法 《紅蓮の竜巻》
第三の魔法 《降り注ぐ火炎》』
隠しステータスは、レベルが1上がるたびに1振れる。
つまり、これがどれだけぶっ壊れたユニークスキルかがわかるだろうか。
だが、
「女体化……女になれっていうのか!」
「アハハ、アハハ」
この状況を生み出したすべての原因は、
「そこのお前、どうしてくれるんだよ! せっかくのユニークスキルなのに、無駄になってしまったじゃないか!」
「私、何かしちゃったの?」
キョトンと首を傾げる少女。
こいつが悪くないのは、本当はわかっている。
だが、怒りをぶつけられずにはいられなかったのだ。
どうしてこうなるんだ! 俺は頭を抱えてうずくまった。
灼眼の少女の出会い。それは、キュウの将来を大きく変える。
次回 第六話 それは呪い
お楽しみに