第三話 初めての戦闘
そこで見たものは、モンスターに殺されたプレイヤーが青い粒子なるところだった。
背丈が二mほどあるモンスターはオークと名が頭上に半透明な字で書かれ、三体でプレイヤーを囲んで倒したようだ。レベルがモンスター名の横に7と表示され、そのうちの一匹のHPが五分の一ほ削られていた。
おそらく、さっき死んだプレイヤーは俺と同じ救助隊のメンバーの一人だろう。突然現れた醜い姿のモンスターに恐怖し、錯乱してきちんと攻撃できずに死んでしまったと思われる。
だが、俺は目の前にいる本物のモンスターだろうが、画面上で見えるモンスターだろうが関係ない。敵は敵。思いっきり打ちのめすだけだ。
腰には短剣。服装はつぎはぎだらけの薄汚れた服と半ズボン。見るからにレベル一の初心者冒険者の俺だが、勝算はある。
オークといえば、どんな冒険ゲームでも初期に見ることができるザコモンスター。いくらレベル1だとしても、勝てないわけがない。ましてや、あらゆるゲームをソロで極めてきた俺だ。大丈夫に決まっている。
青い粒子がすべて消えると、俺の方に振り返るオークたち。敵だと判断したオークたちは棍棒を構え、俺に迫る。
「じゃあ行くぜ、ザコども!」
オークたちはご丁寧に一列に並んで、突撃する。まるで、横腹を一気に斬りつけろと言っているかのようだ。
「お望み通りやってやる」
腰から短剣を抜き、オークの横を駆け抜けながらそれぞれの腹に一筋の赤い傷を与える。HPは二割ほどは減ったと予想し、オークの方を振り返ってHPを余裕の表情で確認する。
だが、予想を反してオークは一切ダメージを受けていなかった。あまりの理不尽さに呆然とするしかない。
「確かに手ごたえがあったはず、おそらくダメージ表記の赤い粒子も確認した。なのに、どうしてだ! なんでダメージを喰らっていないんだよ! ヘルプ出てこい!」
「もう?」
出てきたのは先ほどと同じ格好のシオンだった。しかし、先ほどとは大きさが異なり、十㎝ほどの身長で羽が生えていた。おそらく、妖精のつもりなんだろう。
「どうして、ダメージが喰らわない。説明しろ!」
「LSOでは、無茶なレベル上げ防止のため、自分のレベルよりも五レベル上のモンスターにはダメージが無効になるシステムがあるのよ。一部の例外を除くけどね」
「じゃあ、どうしたら倒せる?」
「気づいていると思うけど、今のあなたはレベル1。絶対にあのオークたちに勝てないわ」
「じゃあ死ぬしかないか……」
まずい。まずい。まずい。
俺の月十万円がこんなに簡単に消えていいのか? よくない!
自分の力を過信しすぎた。未知のゲームなのにどうして、過信できたのか少し前の自分に問い質したい。
そうこうしている内にもオークは俺に迫る。
そんな中、感情が籠もっていない音声が脳に響く。
『特別クエスト《ユニークスキル習得》を受注しました。レベル七のオークを三体倒してください』
こんな時にクエストを受注するな!
「どうやらシステムは、君はこのピンチを乗り越えることができないと判断したようだね」
「何?」
「特別クエスト《ユニークスキル習得》はプレイヤーが死んでしまうと予想した時はお情けで特別クエストを受注してくれる。まあ要するに、近くに応援を呼ぶこともできなければ、自力でのオーク退治はできないっていうことだね」
「俺は、こんなところで死ぬわけねぇ! 絶対にクリアしてやる」
「期待させてもらうよ」
とはいえ、方法がない。絶体絶命。死ぬイメージしかない。どうすればいい。必死に脳を働かせる。
俺の攻撃はレベル三にならないと喰らわない。おそらく、近くに俺がレベルアップできるモンスターはいない。ましてや、逃げることもできないのだろう。
試しにやってみて、背後から攻撃を喰らうとおそらく死ぬので、試そうにも試せない。
だが、本当にお情けで特別クエストを発行したのだろうか? 突破できるからこそ特別クエストを受注できたようにも感じられる。
もう少しで何か閃きそうなのに、オークたちは待ってくれない。
「「「ヴォーーー!」」」
俺を囲み、奇声を上げて迫る彼らの攻撃をかわしつつ必死に攻撃するが、ダメージはゼロ。
しかし、俺は掠るだけで視界の左上にある緑のHPバーから二割を奪われる。ジリ貧だ。もう無理だ。ユニークスキルは諦めるしか……
「っんなことできるか! いい加減食らいやがれ!」
俺は頭に血が上り、リーダー格のオーク一匹の懐に飛び込む。その間にも、一発ギリギリ避けたと思われたものが当たり判定を受け、残り六割。まともに喰らえばおそらく一発。掠っても三発これが俺の限界だ。
策はない。でもこうするしかない。懐だと、オークの大きな体が壁になってくれて、俺はダメージを受けない。
しかし、懐に入られたオークも黙ってはいない。仲間か振り下ろされた棍棒がリーダー格のオークに当たるのだ。怒っているはずだ。
だが、決まった攻撃しかできない部下のオークたちは、再び棍棒をリーダーにぶつける。鈍い振動が俺にも伝わり、背中に嫌な汗をかく。
もうダメだ。限界。
そろそろ、リーダー格のオークからダメージを喰らってもおかしくないころだ。策は浮かばない。
おしまいだ。
そう決め込んで、懐から飛び出すと、リーダー格のオークがタイミングを見計らったかのように、これまでにない大きなモーションで、棍棒を振りおろそうとする。
終わったな。世界がスローモーションで見えるが、体は動かない。死というのはこんなものなんだろう。
次は絶対に負けない。そう誓って俺は目を閉じた。
一度目の死を受け入れようとしたキュウ。でもゲームの神はキュウを見放さない。
次回 第四話 キュウは理を知る
お楽しみに