第二話 キャラメイク
その部屋は、見たことのない機械と酸素カプセルのようなものが置かれた白い部屋だった。
「説明を始めます。まず、あなたにはこのカプセルに全裸で入ってもらい、LSOの世界にログインしていただきます。その後の説明はLSO内にいるナビゲーターから説明がありますので、準備ができましたら呼んでください」
「ちちち、ちょっと待ってください! 裸になるんですか!?」
「ええ。男性の方も女性の方も裸でカプセルに入っていただかないと、生命維持が正しくできないので」
淡々と答える案内の女性だが、俺は女性の前で素っ裸になるのは今まで一度もないし、とてつもなく恥ずかしい。
服を脱いでカプセルに入るまでは、出て行ってくれたので恥ずかしさは和らいだ。
籠の中に服をたたんで、カプセルに入ると、顔周辺のガラス以外はスモークがかかっており、顔しか見えない仕組みになっていた。俺は、カプセルの中で寝転び、案内の女性を呼ぶと、部屋の外で待機していたのかすぐに中へ入って来た。
「この部屋は二十四時間監視されているので、何かトラブルがあるとすぐに助けが来ますので安心してプレイしてください。では、いってらっしゃいませ」
「え、もう?」
案内の女性がお辞儀をするのを確認したら、俺の意識は一瞬消えた。
次に目を覚ました時には、自分の体がなかった。意識だけが存在し、目がないのに明るい場所にいることがわかった。
「ここは……」
「目が覚めましたか? ようこそLSOの世界へ。私はナビゲーターのシオンです。よろしく」
突如現れた一人のメイド服を着ている赤毛の少女が話しかけてきた。
「ここがLSO?」
「詳しくは、キャラメイクする為の現実とLSOの間に存在する空間と言った方が正しいかしら」
「そうか。じゃあ、早速キャラメイクに移りたいんだが」
「わかったわ。男性と女性どちらがいい?」
「男性で。名前を決めることはできるか?」
「もちろんよ。十文字以内で記号なしという条件が付くけどね」
「じゃあ、キュウという名前は使えるか?」
「えっと……うん。大丈夫のようだわ」
「ではそれで。あとはこの世界に対て答えられる範囲で教えてほしいのだが」
LSOの情報は発売前も、発売した後も解禁されてなかった。
にもかかわらず、あれだけの人が買ったというのだから、ゲーマーって奴は俺と同じでネジが緩んでいる奴なんだと思う。
「LSOの世界は、英雄が滅んでから約百年後の魔物で溢れる世界が舞台となっているわ。プレイヤーは、この世界を魔物から奪還し、全フィールド解放、すなわち迷宮を七十二個クリアするとこのゲームをクリアすることができる。迷宮にはそれぞれボスがおり、そのボス戦で最も活躍した者に贈られるレジェンド武器はオンリーワンで、優れた能力を持つものになっているので、是非ともボス戦には参加するのよ」
どうやら、ゲームクリアで現実に帰ることができるようだ。
「また質問をするが、この世界で死んだらどうなるんだ? まさか現実でも死ぬって言わないだろうな」
「大丈夫。死んでもこの空間に戻ってきて、レベル1からまた始めてもらう。しかし、所持アイテムは消えないから安心していいわよ。あともう一つ、重要なデメリットを言わないといけないことがあるわ。そもそも、この世界はプレイヤーだけではない。むしろ、私のように人口AIが搭載されたNPCの方がプレイヤーよりも多いいの」
初耳だ。
「そうなのか。で、そのデメリットは?」
「プレイヤーとの間には問題がないんだけど、NPCには一度死んだ人間と新たにキャラメイクした人間がたとえ、同じ容姿していても同一人物とは判断できないの。でも、私はわかるけどね」
「なんだ、そんなことか。俺には関係ないな。一人で頑張るからな」
「……今は何も言わないでおくわ」
意味深な表情をするシオンだが、そのデメリットの重要さがわからない。
「最後の質問だ。この一ヶ月の調査で政府はどれだけこのことをわかっている?」
俺たち救助隊の安全を確保するために、LSOが外部からの侵入を受け付ける一ヶ月という長いようで短い時間を費やして、政府の方で調査をしたと報道されていた。
そのため、今後のサポートはあまり望めないとも意味するが。
「わかっていることは、ゲームクリアで現実への帰還。現実の体には肉体的限界があり、戦闘で死ぬ以外で現実での脳を使いすぎると二つの世界からログアウトしてしまうこと。いくらかはこのゲームの設定をいじれるようになったこと。最初にログインしたプレイヤーは残り一万人を切ったこと。そして……」
「そして?」
「最初にログインしてからすでに、LSOでは百年の時が過ぎているにもかかわらず、まだ、四つしか迷宮をクリアすることができていないことよ」
「……は? 待て待て。何の冗談だ? 現実ではまだ一ヶ月と数日しか経っていないんだぞ? それが百年も経っているとか、ありえねえだろ!」
これが事実だと、俺たちは嵌められたも同然だ。
認めたくないが、
「残念ながら事実だよ。LSOでは、現実の一日の時間はLSOでは千日分に相当するように設定されている。こんなことが外部にわかれば、悪用されるに決まっているから、一部の人間以外知らないけどね」
じゃあ中身は成人していても、現実に帰るとまだ体は成人していないこととかありえる。恐ろしいシステムだ。作り出したのはきっと俺の予想を超える天才なんだろうな。
クソッ。騙された。
「じゃあそろそろ、最後の設定をしてもらおうかしら」
「まだ設定することがあるのか?」
「ええ。通常ではそんなシステムないんだけど、ユニークスキルの習得ができるのよ」
「ま、まじか!」
ユニークスキル。その世界にたった一つのスキルであり、どのゲームでも最強の能力が設定されている。そんなものがタダで手に入ると思うと俺の落ち込んでいたテンションは復活する。
「ただし、条件があるの」
「どんな条件でも飲んでやる」
「一つは、成功報酬の毎月十万円を廃止すること。さらに、初期から所得する場合は、報酬をすべて取り消す必要がある」
「タダ働きしろって言うのか!」
「あくまでも、人命救助だし、あなたみたいに報酬狙いにやって来た人だけじゃないもの。そういう人にはよりがんばってほしいと思って作られたシステムだからね」
社会不適合者の俺たちが報酬を捨てることができるか?
否、それは贅沢をしたいか、贅沢はいいけど普通の生活が送りたいの二択に別かれるだろう。
斯く言う俺は後者だ。
「……っち。成功報酬の毎月十万はいらない。っで、初期以外だとどうやってユニークスキルを習得できるんだ?」
「来るべき時に特別クエストが配布されてクリアするものと、迷宮のボスを五体MVPで倒すといった元々LSOの運営が決めていたものがある。ちなみに、ユニークスキルはいくらでも習得できる代わりに、一度でも死ぬと、所持しているユニークスキルが消滅するし、特別クエストも受けられなくなるわ」
「なんだと! そんな殺生なことがあっていいのか!?」
「NPCの時とはえらく反応が違うわね」
透明の俺をジト目で見てくるシオン。調子に乗り過ぎたな。
「ゴホン、ゴホン。俺は、初期からはいらない」
「わかったわ。設定はこれで終了よ。あとは、ゲーム内にヘルプがあるので、わからないことがあれば、そこからいつでも私を呼んでね」
「最初から言えよ!」
「では、いってらっしゃい、キュウ」
まだ言いたいことも聞きたいこともあるが、光に包まれた俺は強引にLSOへ飛ばされた。
そこで俺が見たものは……
キャラメイクを終え、LSOの世界にログインするキュウ。だが、LSOの世界は今までのMMORPGよりも理不尽なものだった。
次回 第三話 初めての戦闘
お楽しみに