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純惑―ジュンワク―  作者: 白月
2/11

壱■性分

 大きな邸宅が幾つも聳え立っている高級住宅街。内の一軒。

 その僕の家に七年前、新しい母とひとりの妹が来て一緒に住み始めた。

 義母は当時三〇近かったのに、育ちの良いお嬢さんぽさの抜けない平和ボケした人だった。

 義妹は、というと……。

 初めはただの「おとなしい子」だと思っていた。

 彼女は花のように美しく成長したが、性格は幼い頃のまま変わらなかった。

 これといった掴み所がなく、ひとりでいる事が多かったが、義妹はその方が楽しそうだった。

 ひとりきりで何をして遊んでいるのかと思えば、人形を壊したり、ぬいぐるみの腹を裂いて中綿を引き摺りだしたり、虫を殺してみたり……。いつだったか、僕の飼っていた昆虫達が犠牲になっていた事もあった。義妹を問い詰めると、

「だって“中身”がどうなっているのか知りたかったのだもの。義兄さんは気にならないの?」

 と、いつもこうだった。

 義妹の性格を知るにつれ、僕は彼女を気味悪がるようになった。

 思えば義妹の異常性について、最初に気が付いたのは僕だったのだろう。



 ある日、用事があって義妹の部屋を訪ねると、チェストの上に置かれた二つの小さな水槽が目に付いた。

 「いつの時代のロマンチストだ」と僕が辟易している白と桜色で統一されたこの部屋で、それは明らかに異彩を放っている。

 近付いて交互に覗いてみるが、中に何が潜んでいるのかさっぱり判らない。

「私のペットよ。最近、飼い始めたの」

 得意気な表情の義妹に対して、僕は不満も顕に鼻を鳴らした。

「何もいないじゃないか」

「いるわよぅ。もう、義兄さんたら目が悪いんだから。ほら、此処と此処」

 義妹が二ヶ所、指を差す。目を凝らしてみると、ひとつは小さな黒っぽい蜘蛛だった。

「そのコはまだ子供なのよ」

 そして、もうひとつ。

「……なんだ、これ?」

 なんとも珍妙な生き物だ。小さい“何か”がくねくねと蠢いている。得体の知れない“それ”に、僕は眉を潜めた。

「プラナリアよ。知らないの?」

「……プラナリア?」

 体長は約二センチほどだろうか。薄茶褐色をしていて、ちらりと見えたその顔はなんとも間抜けだ。

「可愛いと思わない?」

「……そうかな?」

 僕には不気味なだけだ。

「こんな物を飼って、どうする気だ?」

 訊ねると、義妹は一冊のノートを掲げて見せた。

「観察して、生態を調べているのよ」

 義妹は強かな微笑みを浮かべた。

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