壱■性分
大きな邸宅が幾つも聳え立っている高級住宅街。内の一軒。
その僕の家に七年前、新しい母とひとりの妹が来て一緒に住み始めた。
義母は当時三〇近かったのに、育ちの良いお嬢さんぽさの抜けない平和ボケした人だった。
義妹は、というと……。
初めはただの「おとなしい子」だと思っていた。
彼女は花のように美しく成長したが、性格は幼い頃のまま変わらなかった。
これといった掴み所がなく、ひとりでいる事が多かったが、義妹はその方が楽しそうだった。
ひとりきりで何をして遊んでいるのかと思えば、人形を壊したり、ぬいぐるみの腹を裂いて中綿を引き摺りだしたり、虫を殺してみたり……。いつだったか、僕の飼っていた昆虫達が犠牲になっていた事もあった。義妹を問い詰めると、
「だって“中身”がどうなっているのか知りたかったのだもの。義兄さんは気にならないの?」
と、いつもこうだった。
義妹の性格を知るにつれ、僕は彼女を気味悪がるようになった。
思えば義妹の異常性について、最初に気が付いたのは僕だったのだろう。
ある日、用事があって義妹の部屋を訪ねると、チェストの上に置かれた二つの小さな水槽が目に付いた。
「いつの時代のロマンチストだ」と僕が辟易している白と桜色で統一されたこの部屋で、それは明らかに異彩を放っている。
近付いて交互に覗いてみるが、中に何が潜んでいるのかさっぱり判らない。
「私のペットよ。最近、飼い始めたの」
得意気な表情の義妹に対して、僕は不満も顕に鼻を鳴らした。
「何もいないじゃないか」
「いるわよぅ。もう、義兄さんたら目が悪いんだから。ほら、此処と此処」
義妹が二ヶ所、指を差す。目を凝らしてみると、ひとつは小さな黒っぽい蜘蛛だった。
「そのコはまだ子供なのよ」
そして、もうひとつ。
「……なんだ、これ?」
なんとも珍妙な生き物だ。小さい“何か”がくねくねと蠢いている。得体の知れない“それ”に、僕は眉を潜めた。
「プラナリアよ。知らないの?」
「……プラナリア?」
体長は約二センチほどだろうか。薄茶褐色をしていて、ちらりと見えたその顔はなんとも間抜けだ。
「可愛いと思わない?」
「……そうかな?」
僕には不気味なだけだ。
「こんな物を飼って、どうする気だ?」
訊ねると、義妹は一冊のノートを掲げて見せた。
「観察して、生態を調べているのよ」
義妹は強かな微笑みを浮かべた。