そういうとこが好きなんだよな
最初の生命というものについて妄想する。
なんで一番最初に生まれた生き物は、生き物になろうと思ったんだろう。
栄養あふれる豊かな海に抱かれて、初めての生命は生まれた。
なぜ、彼もしくは彼女は、そこに生まれようと思ったのだろうか。
海に抱かれて、ただの炭素と窒素と水素の塊でいることを選ばなかったのだろうか。
「どう思う?」
俺が問いかけた相手はこう答える。
「反抗期だったんじゃない」
彼女の言葉の意味がつかみ切れずに、俺は問い返す。
「どういうこと?」
寝転がりながら、雑誌をめくるのをやめずに、彼女は答える。
「母なる海に反発したかったんでしょうよ。膜を作って引きこもって、一人になって。それで一人で生きられるなんて吠えてみたりして」
彼女は雑誌をめくる手も止めずに話し続ける。
「その実、海の栄養に依存しないと生きられない。まるっきり反抗期の子供じゃない?」
彼女のそんな言い方が、何故だか面白くなってくる。少しずつ混みあがってくる笑いをこらえながら、俺は言う。
「それじゃあ今生きてる、俺たちも含めた全部の生き物は、反抗期真っ最中?」
彼女は目線をこちらに向けもせず、
「そうね」
と返した。その空気がおかしくて、何故だか爆笑してしまう。
「うっさい!」
彼女は怒気を含めてこちらをにらんでくるが、それでも俺の笑いは止まらない。
「なによ、ばかみたいに笑って!! あたし、なんかおかしいこと言った!?」
不機嫌そうに彼女は言う。
「いや、言ってない。言ってないけどさ」
ようやくおさまってきた笑いを押し込めて、俺は言う。
「なんていうか、そういうとこが好きなんだよなって」
俺一人じゃ思いつかないようなセンスや言葉選び。そういうのがいちいちツボだ。
「は!? いきなり何言っちゃってんのあんた!? わけわかんないし!!」
彼女は不意打ちのような告白を食らって、少しあわてた様子。
「うん。わけわかんなくていいよ」
そう言って俺は彼女の近くにより、頭をなでる。
センスが合わないほど面白い。突拍子もない意見が出てくるところが面白い。
あわてた様子がかわいい。ふてくされた様子もかわいい。文句を言いながら、結局なでられているところもかわいい。そんな彼女。
「そういうとこが好きなんだよな」
今度の呟きには返事は帰ってこなかった。