タイトル未定2026/11/05 06:57
貧乏農家の朝は忙しい。
食事もせずにます起きてする仕事は開墾につぐ開墾。
オラのような農家の三男生まれが、村から分けてもらえるのは猫の額ほどの農地しかないのだ。
だから腹が減っていても水やりの出来ない暗い時間を使って食い扶持を稼ぐために自力で畑を広げるしかないのだ。
もっと楽できる所に生まれたかったよなぁなんて嘆きと愚痴を鼻唄に。いつものように荒れ地を掘り起こし土をならしていくとしよう。
しかし寝起きとはいえ録な食生活を送っていないし日頃の疲れで注意力が散漫になっていたのだろう。
雑に振り下ろしたクワで弾いた小石が頭に当たった。
「イッテー!」
それはもう頭が割れたんじゃないかというほどの痛みで涙が溢れ地面を転がり回ったほどだ。
と同時に前世の記憶が蘇ってしまった。
あぁ俺は毎日遅くまで働きづめで、通りがかったトラックにひかれ、四十半ばにして童貞で人生を終えていたのかあ。
なんてしょうもない前世なんだろうと記憶を振り代える。
そして女神に会い「不憫だ。善行に報いよう。」だのと宣いご褒美で異世界であるここに飛ばされたことまで思い出した。
「ここからかぁ」
特別に貰ったスキルは異次元空間と勇者の能力。
異次元空間は所謂なんでも入れて運べる
勇者の能力は鍛えれば鍛えるほど魔王をワンパンで倒せるくらい強くなれるらしい。
しかして俺の今現在の年齢は前世で死んだのと同じ四十半ば。
若さは溢れておらんし最強を目指そうなんて夢を持つにはちと遅い気がする。
「ここからかぁ」
ついでに言えば魔王はもういないらしい。
滅多にこない旅商人が語ってくれてた。勇者のスキルも持っていない村人が頑張って倒したそうだ。
「とおちゃん」
振り向くと幼い俺の息子がいた。
「母ちゃんが飯だって」
半ば諦めかけてた結婚も、はずみでやって出来たこの子を切っ掛けに実った。
童貞は捨てられて良かったが、今さら隠されていた力を使ってここからハーレムを目指すって選択肢はあるのか?
いや、ないだろうなあ、
この年齢だし今さら……。
「ここからかぁ」
前世の知識もなぁ。
この力でせめて生活の向上を図ろうとは思うが、ここは王都からはるかはるか離れた辺境の地。
魔王討伐の話だって数ヶ月かかって流れて来るくらいの田舎だ。
仮に異世界人ムーブかまして何かを作り出したとしてよ。
どうなる。
貴族の権益抗争に巻き込まれて解決出来るほどの人脈はないし、サボってた訳じゃないが畑を耕すのさえ苦労する能力値の低さよ。
守るモノに嫁と子供が当然入っているし、二人の安全を抱えたまま立ちまわれるほど、俺の器用さは今も昔も持っているように思えん。
だいたいこれ以上何を望むって話だ。
……よし、前世は忘れて、残りの人生を無難に生きるべ。
終




