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【第一章】空模様

今日も空は快晴。それはもう見事なまでに晴れ渡っていた。

最近ではもう少し太陽も休んでも良いんじゃないかとか思っているが、どうやら俺の心遣いは遥か上空で地上を照らす彼には届かなかったらしい。

何とも働き者な天体である。

後数日で梅雨に入り、職場の監督を雨雲に奪われる為に5月中にやれるだけやるつもりなのだろうか?

どうせ一ヶ月くらいでまた夏の空の主役になるというのに。


「晴れ続きというのも実は問題なんじゃないかと思うんだ」

「…まぁ、確かに雨が降らないと困る事はあるが」


突然の俺の振りに弘一は一瞬遅れながらも答える。

澄み渡る空の下、現在二人で登校中である。

昨日の、とっておきの場所での志野さんとの出来事。そのあとに思った俺の感想やこの後にやろうと思っていることなどを弘一に話し、聞いてもらう。

俺が話している間、弘一は黙って聞いてくれた。


「…という訳で、とりあえず志野さんと積極的に話してみようと思う」

「そうか、まぁ、いいんじゃないか?」

「そうか?」

「あぁ、何をするにもまず相手の事を知らないと何もできんしな」


確かにその通りだ。

当たり前だけど、俺は志野さんの事はほとんど知らない。

だからまず話をしてみるのが一番だと思う訳で。


「それに、お前にとっても何かに対して積極的に行動するのは良い事だと思うしな」

「ん、どういうこと?」

「いや、気にしなくてもいい」


良くはわからないが弘一曰く俺の為にもなるらしい。

というか最初から俺がやりたいからやる事な訳で、いまいち弘一の言っている意味がわからなかった。

なんだか最近わからない事だらけだ、と隣に零すと。


「…そうだな、だがそれが当たり前の事なんだ」


と、やっぱり弘一は良くわからない事を言ってくる訳で。

とりあえずは二人で今後の計画を立てながら学校を目指すのであった。




休み時間。

授業が終わると直ぐ志野さんはどこかに行ってしまう。

俺はそれをやや速足で追いかけて話しかけた。


「志野さん!」

「……何よ」


こちらを向き話しかけたのが俺だとわかると、志野さんは露骨に嫌そうな顔をした。

いや、まぁ実際嫌いだって言われた訳だし、嫌なんだろうけどね。


「いや、ちょっと話でもしようかと」

「嫌」


そう言って前を向き歩いて行ってしまう。

あわててそれを追いかけて話しかける。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「嫌」

「話くらい良いじゃんか」

「嫌」


さっきから嫌しか言っていない…。

昨日までは自分から話しかけてきた癖に。


「待ってよ!」

「ついてこないで!」


なんだかまるで俺が嫌がらせしているみたいじゃないか。

勘弁してもらいたいものだ。

結局女子トイレに逃げ込まれ、それ以上ついていく事は出来なかった。




昼休み。


「志野さん」

「……」


無言で席を立つ志野さん。そこまで嫌か?嫌なんだろうなぁ…。


「まぁ、待ってよ」

「…何なのよさっきから」


あからさまに不機嫌オーラを漂わせ此方を睨んでくる志野さん。

だがココで引く訳にはいかない。


「いやさ、お昼一緒にどうかな?」

「絶対に嫌」


絶対がついた。

おぉ、絶対がついたよ、天国のおかあさん。

ワンランクアップだよ仕事場の親父。

だが、引けない。引く訳には行かない。


「なんでさ?別にいいじゃん、お昼くらい」

「私はあなたとそこまで仲良くなった覚えはないわ」

「……人の事下の名前で呼ぶ癖に」

「うるさいわよ夕姫」


……正直心が折れそうだ。

それにしてもこの人はどうしてこうも上から目線なのだろう。

やっぱり性格が悪いようにしか思えない。


「…何か失礼なこと考えているでしょう」

「しまった!そういえばエスパーだった!」

「…はぁ」


溜息つかれた。

そうしたいのはこっちだって…。


「もう行くから、絶ッッッ対についてこないで」


絶対を酷く強調したセリフを残して志野さんは教室から出て行ってしまった。

何かもう疲れてきた。




放課後。

ホームルーム終了と同時に急いで志野さんは教室を出て行ってしまった。

俺はそれを急いで追いかける。


「すまん弘一、行ってくる!」

「ん、あぁ、まぁ頑張れ」


教室を出て廊下を見てみると志野さんはかなり遠くに行ってしまっていた。

それを急いで追いかける。


「志野さん!」

「…ッ!?何なのよさっきから!!」

「まぁ、待ってくれよ!てか歩くの早いよ!」

「知らないわよ!廊下を走らないで!」

「早歩きで追いついたから大丈夫」

「…気持ち悪い」


…かなり傷ついた。

いや、まあ俺も全力の早歩きで女の子を追いかける男何か見かけたら気持ち悪いと思うけどね。


「ついてこないで!」

「いや、少し待とうよ!」

「嫌!何なの、ストーカー!?」

「ちょ、違うっつの!」

「やめて来ないで、痴漢、変態!!」

「やめんかバカモノッ!!」


二人で騒ぎながら校門までついてしまった。

志野さんはそのままダッシュで逃げ出す。

俺も追いかけるが信号のところで結局撒かれてしまった。

なんだかどんどん嫌われっぷりがエスカレートしている様な、そんな一日だった。




「何がいけなかったんだろうか?」

「…確実にやり方だろうな」


俺の問いに弘一はいつもの様に返してくる。声は何か呆れてるみたいだけど。

しかし、昨日は『志野さんともっと話をしよう作戦』を実行した訳だけど、悉く失敗、というか前よりも印象が悪くなった気しかしない。


「…お前は不器用だな」

「中々失礼な事を言うね、親友」

「事実だろう?」


弘一曰く、俺は不器用らしい。

いやまぁ、確かに自分で器用だとか思った事はないが、人に言われるほど不器用だとは思っていなかった。

若干、へこんだ…。


「まっ直ぐすぎるんだ、もう少し落ち着いて行かなければ警戒されるのは仕方がないだろ?」

「積極的に話した方がいいと思って…」

「タイミングを計れと言っているんだ」


何だかんだで協力してくれる弘一のアドバイスを聞きながら今日こそはと決意を固めながら学校への道を歩いて行く。

空今日も快晴だ。





まいった。

朝の弘一との会話を参考に話しかけるタイミングを計っているんだが…。

全くわからない。

元々此処まで積極的に誰かと話そうとは思った事がなかった訳で。

いつ頃話しかければいいかが全く分からないという。


「こ、弘一ぃ~」

「…どうした?」

「いつ行けばいい!?」

「まったく…」


何だか最近弘一に頼ってばかりな気がしてきた。

いや、コレでも自分でしっかり考えてんだよ?

でも人には得手・不得手というものが有ってですね、はい、すいません、僕が悪いです。


「弘一、どうすればいい?」

「そうだな・・・」


弘一は少し考えてから答えてくれた。


「何も、相手のタイミングに合わせなくてもいいんじゃないか?」

「どういうこと?」

「あぁ、少し言い方が悪かったな。つまり、相手に合わせるんじゃなくて、自分で話せるタイミングを作ればいいんだ」

「…難しいな」

「まぁ、そこはお前次第だ」


でもなんとなくは解った気がした。

よく思い出してみよう。前までは志野さんとある程度は話せていたんだ。

どういう状況で?


「……ありがとな弘一、とりあえずやってみるわ」

「あぁ、頑張ってこい」


頭の中で言葉を並べながら、俺は志野さんを探しに出た。




放課後。

志野さんを見つけたとき、彼女は既に校門の近くに居た。

慌てて近づいて話しかける。


「志野さん!」

「……またあなたなの」


振り向いたその表情はかなり嫌そうだ。

まぁ、予想はしていたけれどさ。


「話がしたいんだ」

「私はしたくないわ」


取り付く島もないってこういうことを言うんだろうか。

こちらは昨日から何故か必死だというのに、当の志野さんは聞く耳持たず。

だが、そんな事は気にせず俺も話を続ける。


「別に今此処でって訳じゃない」

「何処でも嫌なものは嫌」

「明日、あの場所で、さ!」

「…あの場所って何処よ?」


表情は不機嫌の色を貼り付けたまま志野さんが聞いてくる。


「俺らが初めて会った場所。海岸の、ほら、岩に囲まれた…」

「……行かないわよ」

「明日そこで待ってるからさ」

「だから行かないわよ」


志野さんが俺の提案を拒否するけれど、そんなの知ったこっちゃ無い。

俺の提案は今回ばかりは受け取り拒否出来ないのさ。


「朝から居るから、来てよ?」

「だから!私は行かないのっ!」


志野さんの声を無視して追い抜き、自宅への帰路を急ぐ。

若干早足で。


「明日は休みだしさ、一日待ってられるよ!」

「人の話を聞きなさいっ!夕姫!」


後ろで何か言っているが気にしない。

人の名前を大声で叫ぶような人の言う事なんか聞きません。


「じゃ、また明日!」


そのまま俺は走り出した。


「ちょっと夕姫!明日雨降るわよっ!?」


志野さんの若干焦った様な声を聞きながら、謎の高揚感を抱いて家へと走りぬけた。

やはり空は晴れ渡っていた。




目を覚ます。

カーテンを開け窓の外を覗いてみると、昨日あれ程自己主張をしていた太陽は厚く覆われた雲によって隠れ、空は一面のグレーで埋め尽くされていた。

爽やかな目覚めとは行かなかったみたいだ。

二階の自室から身支度を整えて一階に降りる。

時間は午前7時半。

休日の朝にしては早すぎるくらいだ。

普段仕事で忙しい親父はまだ寝ている。

料理、と胸を張って言える様なモノじゃないが、適当に朝食を作り消費する。

少し多めに作ったので、余った分をラップで包んで冷蔵庫に。

ほっとけば後で親父が勝手に食べるだろう。

そういえば休日にこんなに早起きしたのも久しぶりだ。

ボクシングをやっていた頃は早朝の走りこみやストレッチなどで早く起きるのは当たり前の事だった。

今では昼まで寝てるのが殆どだったし、起きても特にする事無く時間を無駄にしている気がする。

前は嫌でも目が覚めたというのに、今では起きるのが辛くて仕方が無い。

馴れとは本当に怖いものだ。今日は良く起きられたな。

親父に書置きを残して家を出る。

戸締りの確認もしたし、後は約束、と言っても一方的だが、約束の場所に向かうだけ。

前を向くと強い風が前髪を攫い閉じたままの右瞼を刺激する。

さて行きますかね。

親父は書置きに気が付くだろうか?


『親父へ、来るか解らない待ち人に会いに行きます。ユウ』


見上げた空は鈍い色に曇っていた。

今回は少し短かったでしょうか?そんな事無いかな?


そろそろ第一章も終わりに近づいてきている…といいなぁ。


次回もなるべく早めに投稿できるように頑張ります!


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