表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スローライフは叶うのでしょうか ~天才幼女に絆されて学園に入学することになるようです~  作者: ぴの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

第2話:赤ん坊の特権、それは一日中寝ていても怒られないこと

転生してから数日がった。  僕の生活は、前世とは比べものにならないほど充実(じゅうじつ)している。


 朝、目が覚めると母さんのミルクがある。  おなかがいっぱいになったら、ふかふかのベビーベッドで二度寝にどねをする。  生理現象せいりげんしょうでおむつがよごれても、泣けばすぐに誰かが取りえてくれる。


 最初は、大人の意識を持ったまま下の世話をされることに屈辱(くつじょく)を感じた。  けれど、三回目くらいでさとった。 「はじてれば、これほど楽なことはない」と。


「テオ~! あそびましょ~!」


 ……まあ、天国にも多少の試練(しれん)はあるけれど。


 ドタドタと足音をひびかせて部屋に入ってきたのは、姉のゼナだ。  今日も今日とて、元気いっぱいである。


「こら、ゼナ。テオはまだ寝ている時間ですよ」


 その後ろから、おだやかな声がした。  五つ上の兄、レオンだ。  彼は本を小脇こわきかかえ、暴走機関車ぼうそうきかんしゃのような姉の襟首えりくびをひょいとつかまえて止めている。さすが、扱いれている。


「むー。だってレオンお兄様、テオはずーっとねてるんだもん。つまんない」 「赤ん坊は寝るのが仕事なんだよ。それに、無理に起こすと……」


 兄が視線しせんとびらの方へ向けた。  そこには、仁王立におうだちをした母・マリアの姿があった。笑顔だが、目が笑っていない。


「ゼナ? 廊下ろうかは走らないと約束しましたよね?」 「ひぃっ! ご、ごめんなさいお母様!」


 姉は脱兎だっとのごとく逃げ出した。  強い姉も、母には勝てない。この家の食物連鎖(しょくもつれんさ)頂点ちょうてんは間違いなく母さんだ。


「やれやれ……。おさわがせしてごめんね、テオ」


 あらしが去った後、兄のレオンがベッドの横に椅子いすを置いて座った。  彼は僕が起きていることに気づくと、優しく微笑ほほえみかけてくれる。


ひまだろう? 本を読んであげようか」


 兄はそう言って、手元の分厚ぶあつい本を開いた。  まだ言葉がわからないと思っているのだろう。彼は難しい歴史書や、物語を読み聞かせてくれる。その声は心地よく、最高の子守唄こもりうただった。


 けれど、今日の僕は少しちがった。  兄が読んでいた一節いっせつが、僕の耳にまったからだ。


『――かつての大賢者だいけんじゃは、膨大ぼうだい魔力まりょくを用いて山を動かし、海をったという』


(魔力……!)


 その単語を聞いた瞬間、僕の眠気ねむけが吹き飛んだ。  やはり、この世界には魔法があるのか。


 山を動かすとか、海を割るとか、そんな大層たいそうなことはどうでもいい。  僕が気になったのは、もっと身近で、切実せつじつな可能性だ。


 もし魔法が使えるなら。  遠くにあるお菓子かしを手元に引き寄せたり(サイコキネシス)。  トイレに行かずに汚れだけを消し去ったり(浄化魔法)。  歩かずに目的地へ移動したり(転移魔法)。


 そんな「夢の怠惰たいだ生活」が実現できるのではないか?


(……やらねば)


 僕は決意した。  一生楽をして暮らすために、今だけは本気を出そう。


 兄が読書を続けている横で、僕はそっと目を閉じた。  前世の知識――サブカルチャーで得たあやふやな知識――を総動員そうどういんして、自分の体の中をさぐる。


 へその下あたり。いわゆる丹田たんでんと呼ばれる場所に、意識を集中する。  するとどうだろう。  ポカポカとした、カイロをったような温かさを感じた。


(これだ……!)


 血液とも、体温とも違う。  確かなエネルギーのかたまり。  僕はそれを、意識の力でゆっくりと動かしてみる。


 最初は、重たい泥水どろみずをかき回すような感覚だった。  けれど、赤ん坊の体は純粋じゅんすいだ。余計な不純物(ふじゅんぶつ)がないせいか、少しずつ、その温かい流れは僕の言うことを聞き始めた。


 右手に集まれ、と念じれば、右手がじんわりと熱くなる。  頭にめぐれ、と念じれば、視界がクリアになる。


(楽しい……)


 それはまるで、体を使ったパズルのようだった。  しかも、魔力を循環じゅんかんさせていると、なんだか体が軽くなり、心地よい疲労感ひろうかんに包まれていく。


 これはいい。  魔力の操作は、最高のひまつぶしであり、安眠への近道だ。


「すー……すー……」 「おや、もう寝てしまったかい? おやすみ、テオ」


 兄が優しく毛布もうふを掛け直してくれる。  僕は温かい魔力をいたまま、将来の楽隠居らくいんきょを夢見て、深い眠りへと落ちていった。


 この時の僕はまだ知らない。  赤ん坊のころから、呼吸をするように魔力を練り続けた結果――数年後、とんでもない質と量の魔力を持つことになってしまうなんて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ