掌編小説「モミジ」 山下 雅夫
※この作品はフィクションです。実在の人物などとは関係ありません。
「モミジ」山下 雅夫
春に嫁がこの世を去って、私の胸にはぽっかりと大きな穴が空いた。
仏壇の嫁の写真は一向に変わらない。
嫁がどれだけ大切な存在か、嫁を十分に愛せていたか、
そんなことを考える心の余裕もないほど私は消沈していた。
まるで水を失った植物のように。いつもは優しさを感じる夏の木漏れ日さえも私には無情に感じた。当たり前の日々が続きすぎていて、いつまでも続くと思っていた。
自分の愚かさを、誰よりも自分で責めていた。食卓に愛のこもった飯はもうない。
からだはげっそりと痩せて、笑うことも無くなった。切れかけた電球、溜まった洗濯物、人との接し方もまともにできなくなって、
飯も、スーパーの安い惣菜、パウチご飯、レトルトの味噌汁。
それでも、生きていくために、仕事は続けなくてはいけない。職場に行く道のモミジの葉は、私の気持ちを知らないかのように、いつものように風に揺られて。
ふとモミジを見るたびにゆっくりゆっくり色づいていく。あっという間に秋がきてしまった。真っ赤に色づいたモミジや真っ黄色のイチョウの葉。若い時の自分たちの姿がよみがえる。付き合い始めてから半年くらい経った時の秋、満面の笑みに染まった顔を私に見せてくれる姿がよみがえる。心にともりがつくことは、もうないかもしれない。それでも、君の色を見つめるたびに、胸の奥が少しだけ温かくなる。




