西条家には縁遠いもの
会話文多めです。
「うわっ! キスしたよ、キス! しかもいきなり!」
一愛と十佳は恋愛ドラマを見ていた。
「こういうのってさ、相手が全然自分のこと好きじゃなかったら普通に犯罪だと思うんだけど」
「でも相手に自分の好意を気づいてもらうためにキスするとかよくあるよ」
「へー、一姉そういうのよく見てるんだ」
「たまたまだよ、たまたま! 手に取ったのが偶然、ラブコメだったの! 友達から無理矢理貸し出されて読まされたりとかもあるし!」
「ふーん」
一愛は意外とラブコメ、少女漫画を読む。それは今までスポーツ一筋のため恋愛してこなかったことの反動なのか、それとも元々そういう性分なのか分からないが、耳年増であるのは定かだ。
「なんかこういうのってさ」
「うん」
「自分のキスに価値があるって思っちゃってるのかな」
「エンターテイメントにそんな考察するのは滑稽だよ」
一愛は色んなものを読みすぎていて評論家気取りであった。
「でもそうじゃないとしないでしょ? 自分のキスが他人を好きにさせる要因になり得るってくらいには考えてるってことでしょ? キスってもっと深まった仲でする特別な愛情表現じゃない? もっと切り札というかさ、大事にするべきだと思うんだよね!」
「フィクションをフィクションとして見れない人はこの先苦労するよ。まあ深まった仲で、ってのは共感できるけど」
「でしょ?! なんか軽々しく見られてるよね!」
「……それを今までキスしたことない言い訳にするんじゃないでしょうね」
「うっ、てか十佳もでしょ!」
「そうだよ。だって私に釣り合う男がいないし」
「自信家だね、ホントに……」
十佳は今まで特に熱心に取り組むというものがなく、一愛とは違って部活やその他のイベントについても消極的である。なので今まで時間は余るほどあった。しかし忙しいことは恋愛ができない言い訳になるかもしれないが、逆に忙しくなければ出会いもなくロマンチックな現象も起こり得るはずがない。そもそも十佳は恋愛というものに興味を見いだせず、またフィクションの方にも傾注することはなかった。それは周りに同性しかいないという環境の弊害かもしれない。
一方、一愛は色々出会いというのはあるものの、フィクションの恋愛を見すぎているため、自分の中で勝手にハードルが上がってしまっているようで思うように駆け引きなどできず、耳年増っぷりに拍車がかかってしまっていた。
つまり2人はそれぞれ違うベクトルで恋愛ができない体質にあった。
「てか小さい子がこういうの見て真似しちゃったらどうすんだろね」
「小さい子ならまだ許されるんじゃない?」
「それはまだ知能が低いからってこと?それとも小さい子は無条件で可愛いから?」
「まだ少年法が適用されるから」
「あんたはなんか……一生恋愛できなそう」
「できなくて結構。1人で逞しく生きてみせるよ」
「そう言う人に限って姉妹の誰かが結婚したらめっちゃ羨ましがって『私も結婚したぁーい』って言い始めるんだよ」
他人の幸せを近くで見ていると、自分もそうなりたいという欲望が芽生えるのは人間の本能だ。それは先人の遺した、「隣の芝生は青く見える」という言葉に帰結する。
「ないね、絶対ない。というか……」
2人は顔を見合わせ、示し合わせたかのように同時に苦笑した。
「多分、あたしも同じこと思った」
百祢は中二病で近寄りがたく、千那は自己中心的で色んなものに無関心。
一愛と十佳はこんな4人がどこかの誰かに嫁としてもらわれるということの試算が出来なかった。




