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ドライヤーファイターズ

ここまではもともと短編だったものです。

「ババ抜きで勝ったのにプリンが食べれないなんて……次の戦いはあたし免除でいいよね?」


「プリンが奪われるってリスクヘッジしなかった一姉が悪い。ウチにはとことんマイペースなやつがいるんだから」


「……もういいや。早く寝よっと。明日も朝練あるし」


 そう言ってリビングから出ようとした一愛の手を十佳が掴んだ。


「……なにさ」


「ドライヤー使おうとしてる?」


「もちろん」


「私が先に使うから」


「なんでよ」


「私の方が髪長くて乾かすのに時間かかるし。そもそもそんな一姉の短い髪なら乾かさなくてもいいでしょ」


「いやいや、乾かすのすぐ終わるから。すぐの辛抱だから。ちょっとくらい待っててよ」


「……」


 十佳は言葉での説得は不可能だと感じたのか洗面所へと駆け出していった。一愛はスポーツマンで、十佳は帰宅部。運動量の差は歴然で一愛はすぐに追いつくことができた。しかし追い越すと服を引っ張られたり、ドロップキックをされたりなど妨害されるのが目に見えているので注意して進む。

 慣例的に先に到着した方が使うことになるのだが審判はいないため、良心の問われるセルフジャッジであるのでそこでもまた争いは起こる。

 2人が廊下を踏み鳴らす音が聞こえると、近くで爆弾の落ちたのを察知したアナウサギのように百祢が部屋から出てきた。


「我も! 我も使う!」


「中学生はまだ使わなくていいの!」


 ドライヤー争奪戦への闖入者(ちんにゅうしゃ)は先頭を走る。そして妨害されないためか小賢しくも奇妙なステップを踏んでいる。2人は狙いが定まらないため、何も仕掛けることが出来ずにいた。

 そうして、最初に洗面所のドアノブへ手をかけたのは、


「ふっふっふ、今回は誰がなんと言おうと我の勝ちだな!」


「もー! なんでよー! 割り込みだよ!」


「でも2番は私。ゴールテープに身体で先に触れてた」


「凹凸の差じゃん!」


「それでは、勝者のための灼熱の息吹(フレイムブレス)を……」


 百祢がドライヤーのスイッチをつけた途端、照明が消えた。


「な、なんだ! この暗黒世界は!」


「停電……かな?」


「千那は?! どっちかスマホ持ってたりする?」


「私持ってる」


 一行は十佳のスマホのライトを頼りに進んでいく。


「千那ぁー? いるかー?」


 百祢の声に応答するようにリビングの方からうめき声が聞こえてきた。


「ひゃっ?! 幽霊?!」


「この家に曰くがついてるなんて聞いたことないけど……」


 十佳が恐る恐るリビングのドアを開けると、


「おわあああああ!」


 一愛はするっと出現したそれに驚いて大声を出したが、すぐにちゃんと足がついていることに気づいた。

 一方の年下2人に驚いた様子はなく、年長者を冷めた目で見つめていた。


「なんだ。千那かぁ……」


 真っ暗闇の中、すぐ前に千那が佇んでいた。


「なんだとはなんだ。それよりも……」


「急に停電するなんてね……」


「いや、窓の外は家々が夜の街を照らしている。それよりも……」


「ええ?! てことはウチだけ?!」


「……ちょうどいいところだったのにテレビが消えて困っている。それにインスタント食品を電子レンジにかけていたのに、何分経ったか分からなくなった。あとエアコンから風がこなくなったから暑い。あと……」


「おい、ちょっと待て」


「これって停電なんかじゃなくて……」


「千那が電気を使いすぎてブレーカーが落ちたんじゃん!」


「ブレーカーってなんだ」


 四姉妹の戦い(日常)は続く。

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