【百祢】運の悪い女
我は自分が不運だと思うことがよくある。
1番の不運は、三女として生まれたこと。最初と最後というのは特に分かりやすい。2というのも、素数の1番最初の数だったり、2進数というのも有名だったりする。しかし3というのは中途半端なのだ。さらに1、2、4というのは4の約数だし、我だけ仲間外れだ。何故お母さんは我の前にもう1人産んでくれなかったのかとつくづく思う。
なんなら三姉妹だったら……とはまったくもって思わない。なぜなら千那は我にとってみれば可愛い妹なのだ。喧嘩することもあるけど、それも仲の良さを表す刻印であろう?
「百祢」
「なに、千那」
「冷蔵庫に入っていた”我の”って書いてあるアイス、非常に美味。今すぐもう1個買ってこい」
「”我の”って書いてあるのにー!」
喧嘩というか……このように火種はほぼ千那から持ってくる。我から持ってきたことなど1度もない。これでも姉として、唯一の妹に大人げないことはしない、と心に固く誓っている。
寛容こそが理解への道筋なのだ。
「あと」
「ま、まだなんかあるの……?」
千那の発言はいちいち我の肝を冷やす。
「録画の容量がいっぱいだったから百祢の見てるドラマ消しといた」
「宣言ぐらいしてよ!」
おっといかんいかん。襲いかかりそうになってしまった。千那はまだ小学4年生、我と4歳も年が離れている。まだまだ頭が成長中なのだ。暖かい目で見守ってやろう。
「なに、その目」
「暖かい目」
そう、年長者として我はこの子を導く使命がある。こんなふてぶてしく、傍若無人かつ自己中心的な性格は、人間社会に放り込まれる前に家族の誰かが矯正してやらねばなるまい。
一愛はそういう性格、あるいは個性であると認めてしまっているようだし、十佳に関してはもう諦観の域に達している。なので我しかいないのだ。
「早く買ってこい、アイス」
「ねえ、千那」
「ん?」
「そもそもね?あのアイスは我が自分のお小遣いで買ってきて大事にとっておいたやつなの。だからさ、食べちゃったのはまあ……仕方ないとして、人間ならば誰にでも過ちはあるからね?でもそれを謝りもせず、なんなら被害者の我にもう1個買わせるのは道義的におかしいことだと思うぞ」
我の言葉が心に響いたのか千那は黙りこんだ。姉として威厳を見せることができたというところだろう。
「お前に弱肉強食という言葉を授ける」
「便利な言葉だなぁ!」
小学生のくせに意外と色んなことを知ってしまっているから困る。ませているというやつだ。口調もなんか横暴で傲慢で変な感じだし。
「我はこの世界に堕天してまだ14年だが分かることがある。人間社会は魔界と違い、強いものが弱いものを助けなければいけないという仕組みになっているのだ。ほら、電車で腰の悪いおばあちゃんに席譲ったり、段ボールに捨てられた猫を拾ったりさ!どうやら千那はまだ魔界での習慣が抜けきってないようだな!」
「お前と一緒にするな」
「つまり! そういった人間社会での習慣を身につけないと、ちゃんと潜伏できないぞ! 浮くぞ! 虐げられるぞ!」
そうして大人な我は、ある天才的な案を思いついてしまう。
ふっふっふ……これで千那も正しい道へ戻ってくれるであろう……。
「そうだ!じゃあ一緒に買いに行こうよ!」
「外に出るのがめんどくさいから頼んでいるんだ」
「図々しすぎだよっ!」
まだまだ千那の矯正には時間がかかりそうだ。




