今日も世界はバグってる
やば!遅刻する!
目が覚めて慌てて窓を開けて外に出た。
ここはなんやかんやで謎にバグってる世界。色々発展する世の中は中々に便利になったものである。
窓から出たことにより位置情報がずれて2階の高さが地面に設定され、今日は空中散歩気分だ。ちなみに歩けるのは自宅と道路の上のみである。
パジャマのはずの服は体を見下ろすと制服になっている。
特定の時間帯に通学路で体を見下ろすと、制服姿になって、洗顔や歯磨きなどの身だしなみも整えられているので活用している人も多い。
「あ!おばさん、おはようございます!」
「あら里美ちゃん、由美子は先に待ってるって。気をつけて行くのよ。にしてもゴミが多くて困っちゃうわぁ〜」
今上を飛び越えたおばさんは近所に住んでる親友、由美子のお母さん。
この時間はゴミ捨て場にいて、増殖バグにより増え続けるゴミを捨て続けているのだ。
ちなみにゴミ回収の車が来る時間になると止まるので、それまでずっとノンストップである。
「ワン!ワン!」
「あ、わんこ!今日も相変わらず壁を突き破ってるなぁ」
あの家の犬は外飼いで庭に犬小屋があり、鎖で繋がれている。
塀に囲まれた家だが鎖に繋がれることによって、鎖の長さが犬の行動範囲となり、鎖の長さが許す限りどんな障害物もすり抜ける。それは塀も例外ではない。
「ワン!ワン!」
「ギャアアアア!こ、この犬畜生!放せえ!」
「アウ?……ワン!」
「ひぎぃいいい!」
「あ、誰か噛まれた」
あの犬がいる家(に近い道)はこの街に住んでる人なら誰しも知ってる激ヤバスポットその①だ。油断してなくても壁から奇襲されるので誰もが通りたがらない。ということは被害者は街の外から来た人だろう。
にしてもこんな何もない田舎町に来るだなんて、何の用だろう?不審者も多い世の中だし、なんか怖いなあ。叫び声を後にして由美子との待ち合わせ場所に急ぐ。あそこは階段がいい感じの高さにあるのでそこから地面に降りることができ、まさに待ち合わせには打ってつけの場所なのである。
「里美、おはよー!って、アンタまたバグ技で着替えたやろ。校章とリボンがドット絵になっとるで」
今挨拶したのは由美子だ。この子は街では珍しいバグ技を使わずに登校するこだわり屋さんである。まあ、使わない理由もわからないわけじゃないんだけどね。
「え、やだ!はっずー!!」
由美子に言われた場所をはたいてドット絵になっている場所を直していく。バグ技着替えの欠点、時々服の一部がバグってドット絵状態になることだ。ドット絵になっている所は叩けば元に戻るとはいえ、女の子だもん。ちょっぴり恥ずかしい。
そんなこんなで色々おしゃべりしているうちに信号のない交差点に差し掛かり、すぐ手前で一時停止した。
何故ならここは激やばスポットその②。時間帯限定のうえ食パン一枚あれば解決する簡単な対策方法があるとはいえ、面倒には変わりないのだ。
「やば、食パン忘れた。由美子持ってる?」
「もぉ、また忘れたの?今日はアイスおごってよね」
由美子がカバンから食パンを出し勢いよくパンを投げたその瞬間、突然残像が横切りパンと衝突した。
「いてTETEて。おい、KYUうに飛びDASUな!ちゃんTO前見てあwせrty・・・パンツ!」
残像の正体は男子だ。パンツという絶叫と共に消えるバケモン。どこの学校の制服かもわからないが顔はフツメン系イケメンなのは確か。クラスの男子はこれをギャルゲの主人公って言ってた。
此処の交差点では迂闊に通ると謎の男子と衝突した挙句にパンツを見られるのだ。誰が言ったか『ラブコメ交差点(偽)』
女子だってスカートの下は当然ながら短パンを履いている。今時パンツそのままの女子なんていない。なのにこいつにぶつかると強制的に短パンが消えてパンツが丸見えになるのだ。それは男子も同じ。むしろパンツ丸出しで登校する男子は悲惨の一言である。
だがそれも数日前まで。小学生が夏休みの研究として張り込んだ結果、食パンを投げれば回避可能なことを突き止めたのである。
『奇襲犬』か『ラブコメ交差点(偽)』か。毎朝どちらかの地獄を選ばされていた学生や会社員は拍手喝采でその研究を褒めたたえた。
「ここ通れるようになってよかったー。わんこは空中歩いてても襲い掛かってくるから大変なんだよね・・・」
「飼い主と保健所の人の前ではプルプルしててただの老犬なのが謎だし」
そして辿り着いた学校の中でもバグが・・・ない。昔はクラス替えバグとか下駄箱ワープとか色々あったけど学校だって日々バグについて研究している。その集大成がこれだ。
「フンッ!フンッ!フンッ!」
校門の左右でお坊さんたちが汗だくでスクワットをしている。この『坊主スクワット』はただスクワットをすればいいなんてものではない。子どもぐらいある大きさの仏像を上に掲げてのオーバーヘッドスクワットのみ。
「フンッ!フンッ!フンッ!」
冬休み明けとはいえ、水分補給のため水の入ったタンク(ストロー付き)を担いでのスクワットをしているお坊さんたちは汗だくである。
だがこれも必要なこと。朝の5時から8時30分までの間、学校をぐるりと囲むようにお坊さん達がスクワットするとその日一日校内でバグが起きないのだ。
お坊さんたちの汗と涙にまみれたその献身に畏敬の念が堪えない生徒たちは登校時に自然と会釈をするのが新たな習慣となった。
そして朝のホームルームの時間。
「あれ?今日ヤバセン遅くね?」
「本当だ。いつもなら気が付いたらいるのに」
ヤバセンとはこのクラスの担任の名前である。
名前は 矢場谷 円 なにかと影も頭も薄い先生だ。
そうこうざわざわしていると、隣のクラスの担任が顔だけにょきっと入り口から出す
「あー。お前ら全員そろってるな。矢場谷先生だが出勤中にアクシデントに遭遇したので、今日一日は代理の先生が来る。まあ先生以外はいつも通りだから」
そういって去っていった。
「え?ヤバセンどしたん?」
「犬にもスルーされるぐらい影も頭も薄いのに!」
そうこうざわざわしていると、生徒の一人が何かに気が付いたのか、窓の外を見て「あ!」と大声を上げた
「ヤバセンが大変なことに!」
生徒たちが窓際に集まって外に目をやると、学校まであと少しの道で人だかりができていた。まるで渦のようにうごめいている。その中心にはヤバセンが呆然と佇んでいた。
「あれは、板前タイフーンだ!新幹線の駅が開通したからこの町にも来たんだ!」
「え?でも板前タイフーンは京都のバグだろ?この町の人間は一見扱いで相手にもしないはず。一体全体なんで?」
そうこうしている間も板前タイフーンの回転速度は上がり、ついには空へと遠ざかっていった。中心のヤバセンと共に。
「ヤバセーン!!」
「ヤバセンの影が薄いから、板前たちも一見さんお断りが出来ずにグルグルしちゃったんだね。システムの敗北だよ」
生徒たちが空へ合掌していると、チャイムが鳴った。
自分たちの席に戻り、各自授業の準備を始める。今日も平和な一日が始まった。




