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第6章 ― 真実の果て、新たなる影

勇輝が気づいた共通点により、長らく停滞していた事件がようやく動き出した。警視庁は、20年前の横領事件で事情聴取を受けた元社員2人に改めて聞き込みを行った。しかし、2人の口からは有益な情報は得られなかった。どこか歯切れの悪い態度に、刑事たちは彼らが何かを隠していると直感する。


 一方、過去の事件を蒸し返すことに対して、福岡県警は強く反発していた。捜査方針を巡って警視庁との間に摩擦が生じ、協力体制は揺らぎ始める。ようやく事件が前進しそうになった矢先、刑事同士のプライドが壁となって立ちはだかった。


 そんな状況に苛立ちを募らせた勇輝たち6人は、徳川の部屋に集まり、作戦会議を開く。


「なぁ、もう一週間も経ってるのに何も進まないとかありえないだろ」

「ほんとよ。あの刑事たち、自分たちのメンツばっか気にしてて、肝心の事件は放置じゃない」

「こっちは命がけだったんだぞ……」


 真希、細川、真里の不満が爆発し、部屋は熱気に包まれた。梨華は黙って頷きながらも、真剣な目で机上のメモを見つめていた。


 そして、3月22日。ついに決定的な証拠が見つかる。


 防犯カメラ映像を何度も見返していた徳川と真希たちが、ある映像の中に不自然な反射を発見したのだ。そこに映り込んでいたのは、車のサイドミラーに反射する人影。徳川は兄・貞松に相談し、兄が開発中の映像鮮明化ソフトを使わせてもらう。


 映像を解析すると、そこには犯人の顔がはっきりと映っていた。6人はすぐに夏目刑事に連絡を入れる。


 警視庁で映像が確認されると、捜査員たちからも驚きの声が漏れる。夏目も無言で映像を見つめた後、わずかに口元を緩めた。


「……やるな、お前たち」


 夏目の一言に、6人は思わず歓喜の声を上げた。


 その後、警視庁では臨時の捜査会議が開かれる。6人が調べ上げた情報もすべて共有され、警視庁内部の空気が一変する。


「高校生たちに先を越された……」


 プライドを傷つけられた刑事たちは本気で動き出した。福岡県警も証拠を前にして抵抗を続けられず、共同捜査体制がようやく再構築された。


 警察の徹底的な捜査の末、犯人の正体がついに判明する。


 名前は横山新一、30歳。旧姓は瀧川新一。20年前、横領の容疑をかけられ失踪した瀧川雄一の息子だった。


 警察が事情聴取を再度行ったところ、当時の関係者が重い口を開いた。


 横領を行っていたのは村越。瀧川はそれに気づいたが、村越に口止めされ、部下たちも村越に弱みを握られていたため、瀧川を犯人に仕立て上げる計画に加担したのだった。


 3月27日、東京に潜伏していた横山新一は、ついに逮捕された。


 取り調べで横山は全てを語った。


「父は……僕の前で泣いたことなんて、一度もなかったんです」


取り調べ室で語られる、横山新一の声は絞り出すように震えていた。


「でも、あの夜だけは……崩れるように泣いていました。 ‘信じてた奴らに裏切られた’って」


瀧川雄一——20年前の横領事件で名指しされ、家族と共に姿を消した男。

その失踪の後、横山家の人生は地獄と化した。


移り住んだ土地では“犯罪者の家族”というレッテルが常につきまとい、名前を偽っても噂は追いかけてくる。母は心労で倒れ、弟は不登校になり、やがて家庭は崩壊した。


「食べるものも満足になくて、父は毎日働き詰めだった。あんなに誠実だった人が、誤解されたまま死んだんです。あいつらは、何事もなかったように笑ってた……許せなかった」


静まり返る取調室。横山の声が涙混じりに続いた。


「高校生を襲ったのは、親たちがしたことの罪を背負わせたかった。でも……俺のやったことは間違ってた。そんなの、子どもにやっていいことじゃない。今ならわかる……でも遅すぎた」


その言葉に、刑事達も言葉を失った。


3月27日、東京での潜伏先にて横山新一は逮捕された。事件の全貌が解明され、動機が語られたとき、全国の報道は大きく騒ぎ立てたが、誰もが胸の奥に「やるせなさ」と「やりきれなさ」を残す事件となった。


事件後、マスコミの反響の大きさから、福岡県警は時効が成立はしていたが、20年前の事件について関係者から再度事情聴取を行い、瀧川は横領には関与していなく罪を擦り付けられただけであったことが分かった。

県警は事実を公表し、警視庁に拘留中の横山に面会し謝罪を行い事件の幕を閉じた。


逮捕から数日後、都内の警視庁本部に呼ばれた。


勇輝、梨華、徳川、細川、真希、真里の6人に対して、警察から感謝状が授与された。制服姿で並んだ彼らの表情は、誇らしさと、ほんの少しの寂しさが混じったような、不思議な色をしていた。


「……やっと、終わったんだね」


式の帰り道、真希がそっと呟いた。


「でもさ、終わりっていうより、始まりな気がする。なんか、そんな気がするんだ」


「うん……事件が終わっても、誰かの痛みは消えない。でも、それを知れた俺たちは、もうただの生徒じゃいられない気がする」


勇輝の言葉に、誰もが静かにうなずいた。


その日、皆倉姉妹も合流し、皆で近くの公園に立ち寄った。緊張から解放された笑い声が風に乗り、夕焼け空に吸い込まれていった。


そして、高校生活最後の春を迎える——



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