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第3章 「仮面の裏」

事件は少しずつ、しかし着実に進展していた。だが、核心に届く“決め手”は、未だに見つからないままだった。


真希、真里、なつみ、徳川、豊臣、そして勇輝。六人の調査チームは、日々の放課後を防犯映像の確認に費やしていた。警備員室に何度も足を運び、そのたびに「また来たのか」と言いたげな警備員の無表情に晒された。


「もう、顔見ただけで嫌そうにされる……」

真里が苦笑する。


「それだけ何度も行ってるってことよ」

なつみが肩をすくめた。


「けど、何か見つけるまでやめない」

真希は諦めず、映像を見返す。


しかしその中で、ふと勇輝が声を上げた。


「……ちょっと待て。この映像、ズームできるか?」


画面に映っていたのは、事件が起きた日、被害者が更衣室に入る直前の映像。彼女がロッカーを開ける数分前、誰もいないはずの廊下の一角に、一瞬だけ“影”のようなものが映っていた。


「反射かと思ったけど、違う。……床が、一瞬、ずれてる」


その夜、勇輝は一人、再び現場の更衣室を調べに行った。床を注意深く観察する。すると、中央のロッカー前の床に、不自然な“縁”のような隙間が走っているのに気づいた。


「……まさか、隠し扉?」


それまでの「ロッカーに潜む犯人」という仮説は、ロッカーの内部構造を調べた結果、現実的でないと判明していた。内部に人が潜めるスペースなどなかったのだ。


だが、もし床に隠し通路があるのだとすれば――“誰にも見られずに、ロッカーの中に物を盗む”ことも可能になる。


そして同時に、ある“仮説”が現実味を帯び始めていた。



「共通点を洗い直して気づいた。次に狙われるのは、彼女かもしれない」

細川咲がそう言って挙げた名前は、**竜澤麗華たつさわ れいか**だった。


2年生のテニス部エース。今年のインターハイでは準優勝を果たし、成績は学年トップ3。父と祖父が東都大学の法学部教授で、文武両道、家柄も申し分のない“次世代エリート”だった。


「あまりにも条件が一致しすぎている。これは偶然じゃない」


六人は意を決して、竜澤麗華に直接接触した。最初は戸惑っていた麗華だったが、勇輝の真剣な表情を見て、協力を受け入れた。


「……本当に私が次、狙われるの?」

「可能性は高い。だから、お願いがある」

勇輝は、彼女に“囮”になってほしいと頼んだ。


大胆で危険な作戦だった。


麗華の下着の一部に小型GPS発信機を仕込み、さらに彼女のバッグには超小型カメラを忍ばせた。映像はあくまで周辺を撮るように設置し、着替えは映らないよう徹底した。


「それでも不安なら、実際にどこに映るか、見て確認してくれ」

真希が柔らかく言い、慎重にモニター確認を行った。


「……これなら、まぁ……変じゃないわね。仕方ない。やるわ」


覚悟を決めた麗華の表情は、まさに闘う人間のものだった。



そして、罠が張られて二日後の放課後――。


ついに犯人は動いた。


誰にも気づかれずに、竜澤のロッカーから体操服とブラジャー、ショーツが消えた。だが今回は、“ただの犯行”では終わらない。


バッグのカメラは、ロッカーの下から何かが素早く手を伸ばし、下着を引き抜く様子をとらえていた。映像は揺れていたが、明らかに人間の手だった。


同時にGPSの動きを追っていた徳川が叫ぶ。


「動いた!ロッカー下から抜けて、……これ、警備員室方向に向かってる!」


「警備員室……? まさか、そんな」


全員が顔を見合わせた。



この時点で、勇輝たちは「決定的な証拠は未だ足りない」と判断し、真希の伝手を使って、警視庁の知人刑事に相談を持ちかける。


事情を聞いた刑事はすぐに校内調査を開始。


調査の結果、ロッカー中央の床には本当に“隠し扉”が存在していた。設計図にも記載されていない隠蔽構造。施工時の点検用だった空間が何者かに“流用”されていた。


「ロッカー下から出入りできるようにされていた。しかも、その動線の先は……」


「……警備員室」


遂に、真相が白日の下に晒された。


犯人は、学校警備員・柿沢孝一かきざわ こういち。元警察関係の施設管理経験者で、数年前からこの学校で警備を担当していた中年男性だった。



警察の事情聴取の後、驚くべき動機が明らかとなった。


彼には娘がいた。5年前、この学校に在学していた女子生徒だった。スポーツ万能、将来はプロを目指せるとまで言われた有望株。しかし、ある令嬢に執拗な嫌がらせを受け、心身を崩し、インターハイを断念。代わりに嫌がらせをしていた女生徒が繰り上げ出場を果たすという皮肉な結果となった。


娘はその後、絶望の末に自殺を図り、現在も意識不明のまま療養している。


「華やかで、才能に恵まれているくせに、人を平気で踏みにじる“お嬢様”たちが、許せなかった……」


柿沢は涙を浮かべながらそう供述したという。


麗華、梨華、茉莉花――いずれも、“過去の犯人”と酷似した属性を持つ生徒だった。柿沢は彼女たちに「恥をかかせ、屈辱を与えることで、娘の無念を晴らしたかった」と語った。



その後、柿沢は正式に逮捕され、マスコミに騒がれることなく、事態は密かに幕を下ろした。


「これで……やっと、終わったんだね」


真里が呟いたその日、真白梨華が2週間ぶりに登校してきた。


笑顔はまだぎこちなかったが、その瞳には確かな光が戻っていた。



この事件を解明した六人――真希、真里、なつみ、徳川、豊臣、勇輝。


彼らは校内に広がる小さな悪意、微細な歪みに敏感になっていた。そして、誰も気づかなかった“仮面の裏”を剥がしたこの経験は、今後彼らをさらなる闇へと導いていく。


彼らの戦いは、まだ始まったばかりだった。

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