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第2章 「密室の影」

梨華の事件から一週間が過ぎても、学校の空気は重苦しいままだった。


彼女は未だに登校していない。校内には様々な噂が飛び交い、生徒たちの興味は次第に「真白梨華の転落劇」から、「誰がやったのか」へと移り変わっていった。


だが、肝心の犯人は掴めないまま。


放課後、図書室の奥まった席に集まった真希、真里、なつみの三人は、低い声で事件の再整理を始めていた。


「梨華のロッカーは鍵がかかってた。しかも、監視カメラがある場所なのに、出入りした不審者はいない」


「しかもロッカーは壊されてなかったんでしょ? 合鍵があるなら分かるけど、それなら鍵の持ち主とつながりがあるってことになる」


なつみは手帳を開いてメモを指差した。


「しかもね、彼女、自分で言ってたの。“まったく音も気づかなかった”って。誰かが物を取ってたなんて、微塵も思わなかったって」


「つまり、犯人は彼女のいない間に盗んだわけじゃない。彼女がいる“その瞬間”に近づいて、なおかつ気づかれず、鍵を開けてロッカーを開閉した。……現実的に考えれば、不可能に近い」


捜査は暗礁に乗り上げていた。


そんな中、さらなる衝撃が走った。


三年の山名茉莉花やまな まりか先輩――生徒会の副会長であり、県内有数の財閥の令嬢としても知られる人物が、まさかの被害者となったのだ。


事件は、梨華とほぼ同様の手口で起きた。


剣道部の稽古が終わり、彼女が更衣室のロッカーを開けると、そこにあったはずの下着が忽然と消えていた。スポーツブラと、ネーム入りの白いショーツ。ロッカーは施錠されており、破壊された形跡は皆無。もちろん、監視カメラにも不審な映像は残っていなかった。


「……冗談じゃない」


真希は怒りを噛みしめるように唇を引き結んだ。


「今度は先輩まで……。それも、“あの”山名先輩……」


真里が頷く。


「共通点、見えてきた気がする。被害に遭ったのは、みんな“見た目が良くて”、運動部所属で、成績も優秀。で、何より――家柄がいい」


「家柄……?」


なつみの目が細くなる。


「そう。真白梨華も、山名先輩も……いわゆる“完璧なお嬢様”。誰もが一目置いて、ちょっと近寄りがたいような存在だった」


「それって……逆に言えば、妬みや憎しみを向けられやすいタイプってことじゃない?」


三人は黙り込んだ。


だが、もう一つ気になる点があった。


「どの子も……“被害を大っぴらにしてない”のよ」


「そう、そこも引っかかってる。自分が被害にあったのに、誰も“助けて”って言わない」


真希が低く呟いた。


「恥をかくのが怖いから。それだけじゃない。“信じてもらえない”って思ってるのかも。ロッカーに鍵があって、カメラもある。それでも盗まれたって、言っても笑われるだけ。……まるで、密室トリックの被害者」


「まるで、っていうか……これは明確な犯罪だよ。下着泥棒なんて次元じゃない。精神的な陵辱だよ」


そうして、三人は校内を再度聞き込みに回ったが、相変わらず「何も見てない」「気づかなかった」という証言しか得られなかった。



一方そのころ、情報通として知られる徳川葵は、その状況を面白がるように眺めていた。


「なーんか、面白いことになってきたな……」

そう言いながら、彼女は生徒会室の片隅にいた豊臣瑛斗に声をかける。


「アンタ、リアル脱出ゲーム得意なんでしょ? ちょっと謎解きしてみなよ、これ。頭の体操にどう?」


最初は気怠そうに鼻を鳴らしていた豊臣だったが、手渡された資料を見るうちに、表情が変わった。


「……ふーん。これは……確かに、リアルに仕組まれた“ゲーム”だな」



二日後の放課後。校舎の屋上に、真希たち三人と徳川、豊臣が集まった。


事件のタイムライン、ロッカーの配置図、監視カメラの死角、聞き込みの要点――それらが大きな模造紙にまとめられている。


「こうやって見ると……犯人は“すべてを見通したうえで”行動してる」

豊臣が言った。


「ロッカーの位置、カメラの角度、被害者の動き、時間帯……。単なる衝動じゃない。“準備”がある」


そのときだった。


「何してんの、お前ら」


背後から声がして、細川咲と家山勇輝が現れた。偶然、屋上の喫煙跡を確認しに来ていた二人は、模造紙の前で真剣に話し込む一行に興味を持ったのだ。


最初は冷やかすような様子だったが、模造紙をじっと見ていた細川が、ある一点を指差した。


「これ……ロッカーの位置、みんな中央寄りだな」


「えっ?」


「教室のロッカー配置図見たことあるけど、中央のやつだけ、下から少し隙間空いてるんだよ。ちょっとした構造ミスで、板がズレてる。中に隠れるスペース……あるかもな」


全員が息を呑む。


「……つまり、犯人は最初からロッカーの中に潜んでいた? そんな……まさか」


「でも、それなら説明がつく。監視カメラに映らない。不審者の出入りがない。鍵は外から閉められたまま。音もない。気づかれない……」


「異常だけど、理屈は通る……!」


勇輝が小さく呟いた。


「これ、本気で捕まえようぜ。卑怯なやつを、必ず表に引きずり出してやる」


三人の女子も、男子の真剣な目を見て、ついに腹をくくった。


こうして、6人はチームとして結束し、ついに“捜査フェーズ”へと突入する。


そして翌日。


彼らは“囮”と“罠”を使った大胆な作戦を計画することになる――。

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