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ワザアリ!  作者: zeak
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第1話

おはようございますの方も、こんにちはの方も、こんばんはの方も、どうもzeakと申します。今回、人生初の長編小説を書いてみました。何分初心者なのでお見苦しい点等多々あるかと思いますが、生温かい目で見守ってやってください。

朝日が昇り、ようやく街が空からの光でその輪郭を取り戻し始める頃。

「ふぁ~・・・。ねみぃ・・・。」

青年、如月誠は行動を開始する。最近木々に青々と茂っていた葉は思い思いの色に着替え始め、早朝の気温も下がり始めている。

「だいぶ冷えてきたな・・。」

シューズの紐を固く結び、昨日到着したばかりの新居を出る。

「さて・・・どこまで走るか・・。道が分からんから川沿いで行けるところまで行くか。」

デジタル表示のスポーツ用腕時計に、往復することを考えたアラーム時間を設定して走り出す。小さな頃から誠の朝は変わらずこうして始まる。この日、高校2年の秋口、引越しと転校の初日であっても。


女、真山裕子は怒っていた。それはほぼ毎朝の日課の怒り。それは・・・

「裕子ちゃん、おはよう!!」

「裕子ちゃん、今日もかわいいね!!」

「裕子ちゃん、付き合って!!!!」

「踏んで・・!」

これだ。

「ごめんなさい、急いでるんで・・。」

そういって学校の正門を抜け、早足で教室に向かう。自分の席に腰を下ろしてはじめて一息つく。

「おはよー、裕子。今日も?」

「涼・・。おはよ。・・そうなの。もう毎朝毎朝・・うんざり・・。」

「でもねぇ、あんたかわいいから・・・。」

そう、裕子は美少女である。だれが見てもそういうだろう。肩下まで伸びた美しい黒髪をポニーテールでまとめ、顔は小さく、人形のような整った顔立ち。

「それでいて極神空手の関東チャンピオン。もうヒーローじゃん。」

裕子の特技は空手。それも実戦を想定した直接打撃フルコンタクト空手の代表格である極神会。裕子はそれの関東女子チャンピオンなのだ。

「ヒーローって・・。この間の関東大会も運よく勝てただけだし・・・。」

「まあたまあた。謙遜しなくてもいいって。」

「そんなんじゃないって・・。それにかわいいとか言って、涼の方がきれいでかっこいいじゃない。」

風間涼は裕子の親友で同じクラス。確かに、涼はスラリと長身でスタイルもいい。かわいいと評される裕子と比較しても、キレイという表現が一番しっくり来るだろう。

「ふふ。ありがと。」

そのときチャイムがスピーカーから流れ出す。

「おーい、お前ら席に着けー。HRはじめるぞー。」

それとほぼ同時に担任である真田信二が教室に入ってくる。大学の教育学部を卒業したばかりの真田は学校の女子に絶大な支持を得ている微笑をたたえながら教卓に手を突いた。

「さーて、ここでお前らにお知らせだ。今日からこのクラスに転入生が入ることになった。」

ざわつく教室内。

「はーい、静かに。んじゃあ入ってもらう。おーい、良いぞ如月。」

「・・・はい。」

聞こえた声は男子のものであった。自然と女子のテンションが上がる。が、

「・・・ダサ・・。」

入ってきたのはボサボサの頭に黒い縁のメガネを掛けた見た目お世辞にもカッコイイとはいえない男だった。身長は高い。180cmくらいだろうか。

「如月誠です。よろしくお願いします。」

「「「よろしくー」」」

それだけ。特に混乱もなく、当たり障りの無い質問が終わって授業がはじまる。裕子も、この時は特に誠に興味を持たなかった。


ものすごく長く感じる学校での一日。その終了を告げるチャイムを聞き、六時間目、歴史の教諭が黒板から生徒へ向き直る。

「はい、じゃあ今日はここまで。次回は俺の第二次世界大戦における日本の航空機のすばらしさについてのウンチクを・・・」

「裕子~、かえろー。」

「あ、涼。ごめん、今日は今度の日曜日の全国大会の打ち合わせがあって道場にいかないと・・・。」

「そうなんだ~・・。わかった、じゃあ、また明日ね!」

「うん、ばいばい。」

裕子は関東チャンピオンとして、極神会全国空手道ウエイト別オープン選手権に出場する。ちなみにエントリー階級は女子軽量級。体重50キロ以下の部だ。裕子がそれこそ物心ついたときから通っている道場は、裕子や涼の家とは学校からは反対方向に位置している。しかしそれほど距離があるわけではなく、自転車をつかえば学校からなら10分と掛からない。裕子の家から学校までが自転車で5分程度なので、実家からもさほど遠くはない。

『さて・・と、行こうかな。』

裕子が道着の入ったかばんを持ち上げ、教室を出ようとしたとき、ふと今日転校してきた男子が目に入った。いや、正確にはその男子の鞄からはみ出した真っ白い布と真っ黒な

「・・・帯・・?」

およそ武道などとは縁遠そうな男子の持つそれが、なぜか妙に心に引っかかった。校門を出て、転校生である誠が足を向けたのは道場とも実家とも違う、いつもは向かうことの無い道だった。

なんでだろ・・・。すごく気になる・・・。

裕子の足は自然と誠の後を追い始めた。


「こんな所に空手の道場があったんだ・・・。」

誠の後を追いかけた先で裕子が見つけたのは、けして大きくはないが綺麗に掃除され、磨かれた看板を持つ空手の道場だった。

「・・真神流空手龍崎道場・・・。」

真神流という聞きなれない流派に、裕子は眉を潜めた。もともとこの町には裕子が通う極神空手の本部道場があり、その門下生は200人をくだらない。そんな大道場が徒歩でも20分圏内にある立地条件で、どう見てもマイナーな個人道場がやって行けている事から不自然だと感じる。4段ほどの階段を上がった先に玄関があり、窓の位置は高く中を伺い知ることが出来ない。中に入りたい衝動に駆られ、すこし悩む。しかしすぐに結論が出る。こんなもやもやした気持ちになった自分が、結局すっきりしないと夜も眠れなくなると分かっているからだ。

「ちょっとだけ・・。覗かせてもらおう・・・。」

ガラスの張られたドアを開け、一歩中に入ると玄関にはスノコが引かれ、奥に靴箱、右側に更衣室、左側に畳張りの道場があった。広さは、赤畳が四方を囲む試合場がひとつある程度で広くも無い。が、奥に吊られたサンドバックや、棚に入れられたミットなどは使い込まれながらも手入れが行き届いている。道場特有のにおいをおもいきり吸い込んだとき、後ろから声が掛かった。

「おや。珍しい、見学の方ですか?」

「!!」

驚いて振り向いた先にいたのはにこやかな笑顔を見せるメガネを掛け、「大人」を感じさせる男性だった。真っ白の道着にみを包み、段位をあらわす金色の線4本が入った、何千回何万回と結い・解きを繰り返すことで色が薄くなっている黒帯に『如月 蓮』の名前を確認した裕子は慌てて頭を下げた。

「す、スイマセン、勝手にお邪魔してしまって・・。」

「いえいえ、かまいませんよ。今では自分の道楽のために開いているような道場ですから。お好きなだけ見ていって下さい。」

言われて顔を上げ、改めて蓮の顔を直視した裕子は息を呑む。

『すごい・・・。ものすごくかっこいい・・。』

整った顔立ちに、やや長めの髪を後ろで一束にまとめている。芸能界のことなどに疎い裕子でも、この男性がドラマ、映画で大人を売りにしている人気俳優と見劣りしない容姿であることが分かる。華奢ではなく、引き締まり、必要な筋肉が常人とは比べ物にならないほど発達しているのが道着の上からでも分かる。身長も180センチはあるだろう。

「・・・どうかなされましたか?」

呆けている裕子に落ち着きを感じさせる蓮の声が響く。

「い、いえ!!何でもありません!!」

「?そうですか。それならいいのですが・・。しかし、せっかく見学に来てくださったのに残念なのですが、今現在この道場には門下生はいないのですよ。」

「え?」

「言ったでしょう?この道場はもう私の道楽だ、と。もちろん空手を習いたいという人が来れば受け入れますがここ数年は一人もいないんです。」

お恥ずかしい、と照れを浮かべたそのとき、

「今はゼロじゃないだろ。叔父さん。」

掛けられた声に振り向く蓮。

「そうでした、今日からは二人の道場でしたね。」

裕子からは蓮に隠れて声の主が見えない。だが、その声は今朝聞いたものだと気付いていた。

「あ、紹介しますよ。甥の誠です。」

蓮一歩動いてその全身が現れる。

「あ、あなたは・・・・。」

今朝の転校生・・・と続けようとした裕子は再び息を呑むことになった。そこに立っていたのは今朝のダサくて冴えないメガネ男ではなく、すれ違えば間違いなく誰もが振り向くであろう美青年だった。度のきつそうなメガネを外し、髪を若干のワックスで軽く上げている。艶のある黒髪、ぱっちりとした二重まぶたに、筋の通った鼻梁。よく見れば血色の良い唇には色気すら漂う。しかし、道着に包まれた体は蓮と同じく鍛え上げられているのが分かる。裕子がよく目にする極神会の全日本クラスとも遜色が無いほどに。

「・・・・・・・・。ああ、あんた同じクラスの・・えぇと・・なんだっけ・・・間宮・・じゃなくて・・真島じゃなくて・・・・。」

「・・ま、真山裕子。初日だもん、覚えてないよね。」

「おやぁ?誠が初めて会った人の名前のイントネーションだけでも覚えているというのは・・。私は今まで見たことがありませんよ?まあ、こんなにきれいなお嬢さんですからね、それも当たり前でしょうか?」

「んなっ・・!?」

「そんなじゃねーよ、おじさん。なんか休み時間とかの度にいろんな男がこいつの所に来るんだよ。まやまさーん、まやまさーん、とか言って。全く、おかげで全然寝れなかったんだからな・・。」

一瞬、誠が自分の事を意識しているのかと思った自分が恥ずかしい。

「わ、悪かったわね!私だって好きであんな事になってるんじゃないんだから!!」

「当たり前だ。あんなこと好きでやらせてる女がいたら半径5m以内に近づきたくねぇ。」

「あ、あんたねぇ・・!」

蓮が思わずといった風に噴出す。

「ははは、誠が女の子とこんな風に楽しそうにしゃべってるのもはじめて見ました。真山さん、誠と仲良くしてやってくださいね。」

「おじさん、そんな事いいから早く稽古始めようぜ。」

うんざりだというように前髪を掻き揚げながら誠が言う。

「というわけだから真島、見てても詰まんないだろうから帰れよ。」

「ま・や・ま!!三文字くらい覚えなさいよ!」

「俺は人の名前を覚えるのが苦手なんだよ。」

しばらく笑っていた蓮が落ち着きを取り戻して二人の間に入る。

「まあまあ、二人とも。そのくらいで。しかし真山さん、実際二りっきの稽古というのは見ていて面白いものではありませんよ?たとえ貴女が相当の実力の空手家でも。」

「!」

にっこり笑う蓮と憮然とした誠。

「どうして分かったんです?」

「そりゃ分かるだろ。まず拳タコ。そんな拳してる女子高生なんかそうそういるわけねぇしな。」

確かに裕子の指の付け根は普通の人は少し違う。腕立て伏せを拳で行ういわゆる「拳立て」や、サンドバック、ミット打ちによって拳打において相手に当たる部分、拳頭部分の皮が厚くなり、タコのように発達している。

「それにあなたの物腰といいましょうか、常に重心がぶれない立ち振る舞い。そして、道場に入ってすぐに空気を吸ったでしょう?素人さんはこのいろんなにおいが渾然一体となった空気を思いっきり吸うなんて事は無いですよ。」

「・・確かに私は空手をやっています。だから、ぜひ稽古を見学させていただきたいんです。」

なぜか、裕子はこの道場のことが知りたくてたまらなくなっていた。どのような技を使い、どのような型を持っているのか。好奇心がうずいて仕方が無い。

「ふむ・・。今日は基本稽古に型の確認程度しかやらないつもりだったのですがね・・。誠。」

「ん?何だよおじさん。」

にやりと笑って蓮がいう。

「今日は最後に組み手までやりますか?」

組み手とはいわゆる試合である。ボクシングのスパーリングと思えば間違いない。

「・・!ああ勿論だぜ・・!まさか初日から相手してもらえるとはな・・・。ありがとな間宮・・、感謝するぜ・・!」

「だから私はまし・・ま・・。」

訂正しようとした裕子は誠の表情をみて続きを飲み込んだ。まるで幼子が新しいおもちゃを与えられた時のように瞳を輝かせ、口元には笑みを浮かべている。それを見た瞬間、裕子は胸を締め付けられるような感覚と頬が上気していくのを自覚した。

『な、何、これ・・?ちょっとかっこいいのは認めるけど・・こんな無愛想な奴・・』

「さて、じゃあ始めましょうかね・・。最後に組み手までやりますが、それまでは予定通りの基本稽古です。いいですね?」

「おお、もちろんだ。」

そういって二人は向かい合って正座した。



ワザアリ!第一話どうだったでしょうか。楽しんで頂けたら幸いです。酷評でも何でもかまいませんので、是非評価、コメントのほうよろしくおねがいします!

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