おばばの不思議なお店
魔法が扱えるようになった私は現在…
「《アイスショット》」
魔物狩りをしている。
魔法が扱えるようになったとは言え、子供の私は大っぴらにお金を稼ぐことはできない。
働くにしてもこの目立つ髪ではすぐに親に報告されるだろう。それに同じ髪色をした姉であるアリシアはかわいくて愛想が良いから顔が広いのだ。
というわけで私は正攻法でお金を稼ぐことはできない…と言いたいところだがそういうわけでもない。魔法が使えるようになったことで武力を手に入れた私は、E級くらいの魔物なら楽に倒せるようになった。それほど魔法というのは効率的に魔物を倒せる強力な力なのだ。
魔物を狩ることができればその魔物の素材、魔石を売ることができる。といってもそこら辺のところで売ったら親まで報告が行くので、素性を晒さないよう配慮してくれる店にだ。
そんな店なかなかないし、見つけるのは困難……だけど、前世の知識のおかげでその問題は早々に解決している。
人通りが少ない道の階段を降りた先にある薄汚れた木の扉。
扉を開ければやはりというかお客さんは1人もいないようだ。液体に詰められた目玉、怪しい光を放つ宝石、人間の頭蓋骨のようなもの。明らかに怪しい店である。
「おや…子供かい。迷い込んできたのか?」
「・・・!」
白い髪をフードで隠し、服の間から見える手は老婆のようにしわしわな人がクヒヒと笑うように音もなく現れた。だけど私は知っている。この人はリズ・ヴァーナー。100年以上の時を生きる魔女である。乙女ゲームではいろんなものを買い取ってくれて、売ってくれて、たまに助言をしてくれるキャラクターでありプレイヤーからはリズおばばとして親しまれてるらしい。ちなみに見た目は老婆だが実は美女である。
魔女についてそこまで設定は知らないけど長い年月を生きられて、魔法の扱いにものすごく長けている一族だ。その血の貴重さゆえに悪いことを企んでる人に狙われたり、大昔魔女狩りなんてものもあったせいでかなり数が少なく、生き残りがいるかどうかさえ不明なんだとか。
まあものすごく怪しいけど、客の情報を漏らさないということに関しては信頼が置ける。そんなの使わないなんて選択肢が私の中にあるわけがない。
「違います。これ、売りたくて…」
「ほぉ…ゴブリンの皮にホーンラビットの角か…自分で解体したのかい?」
「うん」
持ってこれるなら丸ごと持ってきたかったけど、子供が死体の魔物を大量に引っ張って移動したら目立つに決まってる。だから売れるモノだけ水のナイフで速やかに解体した。ナイフで解体してもいいけど、子供の力じゃ時間がかかって鮮度が落ちるだろうし。その点魔法はいい。前世の知識を生かして水の圧縮、高圧水を再現してなんちゃってウォータージェット工法を再現し楽に解体することができた。といっても私はまだ魔法の精密なコントロールに長けてるわけじゃないから、実際のものより何倍も威力は低いけど。とはいえ魔物の肉を軽々と解体できるのだから恐ろしい使い方である。
「・・・こりゃあすごい。かなり鮮度がいい、それに解体も綺麗だ。ひんやりしてるけど、なにか工夫でもしたのかな?」
「企業秘密です」
「ほほぅ、そうか。子供っぽくないガキだねぇ。まぁいい、こんなところで売ろうっていうんだ。目立ちたくない理由でもあるんだろ。ゴブリンの皮が6体分、ホーンラビットの角が10個、E級の魔石が10個…魔石はいくつか自分で取っとくのかい?」
「うん。記念にとっておこうと思って…」
「はは、そうかい。子供っぽいところもあるもんだ。じゃあ値段は3100チャルトだ」
「じゃあ銀貨1枚は大銅貨10枚に分けてくれますか?」
「ほぉ、お金の計算ができるのかい。ま、いつもだったらこんな面倒なことはしないんだが子供に免じておこうか」
「ありがとう」
企業秘密と言ったときも、あきらかに平民の装いをした子供なのに計算ができることにも突っかかってこない。そこまで興味がないということでもあるんだろうけど、こうして勘ぐらないでいてくれるのはありがたい。
ちなみにおばばの言う通り魔物の鮮度が高い理由はひんやりしていることに秘密がある。あれは私の魔法でゴブリンの皮の表面を凍らせたのだ。もちろんおばばの店に入ったときには解除してある。冷凍させたら鮮度が保たれるのは常識なので。もちろんこの世界でも。
ただこの世界で氷とは貴重だ。前世で夏になったらかき氷屋さんが当たり前のように賑わっていたけれど、この世界で器からはみ出ているかき氷を頼もうものならものすごいお値段になる。さすがに相場は知らないけど、金貨1枚くらいはするんじゃないかな?
ではなぜ私が氷を魔法で作り出すことができたのか。それは魔法が扱えるようになってから行っていた実験の成果である。魔法が使えるようになった私はとりあえず、自分の魔力を体全体にまんべんなく流したり、一箇所に魔力を集めたりする魔力操作の練習をした。これができるかできないかで魔法を精密に操れるかどうかだったり、魔力の消費量を抑えられるかだったりが変わってくるのだ。
おそらく乙女ゲーム開始時のヒロインは魔力操作を習わずに魔法を使ってたのだろう。まぁ、魔力操作なんて根気がいる作業だし、早く習得できても一週間はかかる。貴族だったら家庭教師にわかりやすく教えてもらえるんだろうけど、平民は独学でやるしかない。でも失敗したら普通に痛いからできる平民はほとんどいないのだろう。その点私は攻略対象がヒロインに優しく教えてくれてる時の内容をちゃんと覚えてるのでセンスもあったのか5日くらいで習得できた。まぁ、前世大人だったし集中力あるからね。
で、その後現段階でどんな魔法が使えるかを試していた。炎は正直そのまま使うくらいしかなかった。蒼炎にできたらいいなーくらいである。だけど水は便利だ。まだ未完成だけどウォータージェットが完成すれば強力な武器になる。それに火魔法と掛け合わせて使えば水蒸気爆発も起こすことができるのだ。そんな実験の時に見つけたのが氷だ。
水が氷になる時、もともと動き回っている水分子が温度が低くなることで動きが鈍り、動かなくなった結果氷となっている。つまり水の中にある水分子の動きを止めれば氷になるのでは?という思いつきで検証してみたのだが、結果うまく氷を作ることに成功したのだ。といっても初めの方は水分子の動きを止める感覚がわからず右往左往していたけど、感覚を一度つかめば楽にできるようになった。今では水魔法で水を出した後に氷にするのではなく、頭の中で水分子を止めるイメージで最初から氷を作ることが可能である。
魔法で作った氷は存在しないようだし、これぞ転生チートというやつなのだろう。絶対に企業秘密にしよう。公表するとしても、公表しても自分の身を守れるような力と権力を手に入れた後である。
さて、子供の時でも素材を売れることは確認できたし、おばばからおそらく認知もされただろう。それだけで今日の成果は上々。あとは帰って家族が利用してないところでご飯でも買おう。栄養不調で死ぬとか絶対嫌だしね。
_「変なガキだったねぇ」
カランコロンとベルが鳴った。
◇◇◇
「・・・」
黒くない、いつもアリシアが親に内緒で買ってもらってる白パン!!前世のものに比べたらどこにでもあるようなパンだけど、この世界に来てからどうにも料理文化が発達している日本料理と比べてしまい美味しいと感じたことはなかった。つまり、前世基準でどこにでもあるパンなら美味しいはずだ!
「・・・!おぃひぃ…!!」
パンだ。あの固くてちょっと炭っぽいパンじゃない。というか炭っぽいパンって何?なんであんな風になるわけ?黒パンと白パンのこの差は一体何なのだ???
というか、前から気づいていたことなんだけど、どうにもこの世界にはいくつか前世の技術としか思えないところがある。このふわふわのベーキングパウダーを使ってるとしか思えないパン然り、2000年代の技術を使って中世の家を再現したような頑丈そうな建物然りだ。
硬貨だってそう。この世界のチャルトとは1チャルト=1円くらいの価値だけど、これくらいの時代はもっと硬貨は大きく分けられてたはずだ。ちなみに銅貨1つで10チャルト、大銅貨1つで100チャルト、銀貨1つで1000チャルト、大銀貨1つで10000チャルト、金貨1つで100000チャルトである。中世でこんなに細かくお金が分けられてるとは思えないが…まぁ、乙女ゲームの世界なのだと割り切ろう。
その点、辻褄を合わせるように制作者側が考えていないであろうところを世界が作っている。例えばパンをふわふわにできるベーキングパウダーのようなものはあるけど、とれる数がそこまで多くないだとか、7属性以外の属性はないから発見されないように科学はそんなに進んでなかったりだとか。世界に支配されてるようで気味が悪いけど、割り切るしかない。
ただ私が恐れているのは、その世界の辻褄合わせ…つまり原作の強制力が私を襲わないか、ということである。ゲームでの私、ヒロインの妹はヒロインが悪役令嬢を断罪すると心に決めるための原動力、つまり舞台装置である。まだ見てないルートはあるけど、少なくとも教師ルートも彼女は死ぬのだろう。かといって隠しルートの怪盗ルートがそうでないとは限らない。そもそも私、学園に通える年齢じゃないしヒロインの攻略キャラを誘導するとか無理でしょ。
だから私はどうにかその役割から逃れられるように動いてはいるけど、最終的にどうなるかはわからない。
まぁ、いまここで考えても仕方のないことだ。そもそも私はまだ手数がまったくない。今の状況じゃ変えられない可能性が高いというのが現実で確かなことだ。
「いやだなぁ…」
それでも私は、安心して生きることを諦めたくはない。
◇◇◇
「ただいま」
「おかえり!!…どうしたの!そんなに汚れて……!!」
「その、遊んでたらちょっとこけちゃって」
「もう、ルナは体が小さいんだから無理しちゃダメよ」
「うん、気をつけるね」
「わかってくれたらいいの」
にっこりと近所の人達から天使のようだと言われている優しい笑顔を浮かべてるアリシア。
・・・私は、この人があまり好きではない。
皆から愛されて、愛される才能があって、誰にでも優しい純真無垢の穢れを知らない天使みたいな人。その評価はそのとおりだと思う。それでも私は、何も知らない脳内お花畑のこの女を好きにはなれない。弱者になったことがないから、嫌なことを言われたことがないから純粋でいられているのだと気づいてないこの人が。
この人は優しいよ。あぁ、優しいさ。でも私に向けてくるあの目が嫌い。可哀想な子を見るような目が嫌い。・・・ヒロインの妹は、姉のことを嫌ってる素振りはなかった。なんでも持ってる姉がいて自分は惨めな思いをしてるくせになぜ?と思ってたけど、案外理由はすぐに分かった。だってこの家で唯一、妹を心配したり暖かい言葉をかけるのはこの人だけだ。だから嫌いじゃなかった、むしろ好きだったのだろう。この家で唯一の光だったのだろう。でも私は好きじゃない。何も知らないやつに同情されるなんて苛つくだけだ。
安全圏から手を伸ばして、その手を握って笑顔になってくれる人達を見て喜んでいる。別に私はそれを偽善者とは呼ばない。良い人だと思うよ。でもね、綺麗事は大嫌い。何も知らないやつが知ったかぶるのが嫌い。言葉だけのやつが嫌い。
妹が可哀想なら、妹にばかり仕事を押し付ける親を止めればいい。妹の体が弱いなら、親に買ってもらったパンを半分でも渡してやればいい。でもこの人がしてることは?声を掛けるだけ。それで救われる人もいるんだろうけど、それは救われる手札が揃ってる人だけ。何も持ってないやつは心だけじゃ動けない。深い苦しみを知ってる奴らは言葉だけに価値を感じられない。
あの人にとって妹とは可哀想な子なのだ。自分が上で、妹が下。幼い頃からこの差が明確で甘やかされてきたから、妹が可哀想な子であることは当たり前なのだろう。一種の洗脳だ。だから根がいい子だろうと妹をどんな手を使ってでも救い出そうとはしない。攻略対象は助けるのに、妹は助けない、その差は”それ”だ。可哀想になってしまった子か、可哀想である子。
無意識に差別してしまっているこの人が…どうしても好きになれない。
「・・・よかった」
姉しか見えていない親で。可哀想な純粋な姉で。どちらも好感を持てないような人達で。情がわかない人達で。
これならちゃんと利用できるから_
お読みいただきありがとうございました。
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