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怪盗と探偵の即興劇 前編

怪盗と別れ、会場から離れた東側のエリアをくまなく探す。

そういえば、あの脅迫文(メッセージカード)の後半部分に関してはあまり考えていなかったが、“暁の幻影”とは今の状況を考えると怪盗アルセーヌの事で良いのだろうか。これを踏まえると脅迫文ではなく警告、若しくは助言の様にも思えて来る。どちらにせよ、会ったら問い詰める必要は有るか。

そう思案しつつ探していると化粧室の洗面台下のスペースに隠された爆弾を発見した。渡された通信機を操作して通話を試みれば直ぐに応答が有った。

『お早い連絡ですね。有りました?』

「ああ、東側男子トイレの洗面台の下だ。」

『承知致しました。記録しておきますから次をお願いします。』

「分かった。」

返って来た声は見た目に見合った女性の声。短い会話の後、写真を撮って馴染みの刑事へ連絡を入れる。彼の怪盗については伏せ、偶々見つけたという体で話し、更に犯人達を刺激しない様に伝える。彼等はまだ行動を起こしていないであろう事も。直ぐに対応してくれるとの事なので上手くやってくれる事を祈り、爆弾の捜索を再開する。

会場より少し小さい今は使われていないホールに忍び込んだ。探し始めて少しした時、入口から入って来る人の気配がして、慌てて壁際に身を隠した。


◇◆


探偵を東側に行かせたのは正解だったかもしれない。その背を見送った後、会場付近から捜索を始めれば直ぐに一つ目が見つかった。ささっと解体してから回収し、引き続き捜索にあたる。直ぐに見つかる爆弾の隠し場所から犯行は計画的であれど杜撰。確実に慣れていない素人の犯行だ。佐野氏に恨みを持った一般人が何処かの伝手で少数の爆弾を手に入れたのだろう。

先に回収しておいたものと合わせて二つ、二桁も手に入れているとは考えにくいが後どれくらい仕掛けられているか…

そう考えつつ従業員入口に潜入し爆弾を探す。通気口ダクトに付けられていたものを解体して三つ目。

会場内の様子を盗聴器で把握している限りではまだテログループは動いていないらしい。まだ時間は有るか。

探偵からの連絡で四つ目の場所が分かった。そして、彼に仕掛けた盗聴器から彼が警察へ連絡した事も分かった時だった。

「今のは誰からの何の連絡だい?」

若い男の声と共に後頭部に金属が押し当てられる。よく考えずともそれが銃口である事くらい分かる。

(気付けなかった…この方、一体何者なんでしょう?)

油断すれば怖気づいてしまう程の凄まじい殺気に此奴はホンモノだなと確信する。間違いない。テログループとは別口の、此処で取引を行う組織の人間だ。

ならば…

「貴方方の邪魔をする様な者ではありませんよ。」

抵抗する気はないと両手を上げてアピールする。動揺と焦燥を表に出さず成るべく相手を刺激しない様、努めて冷静に答える。

「ほう?どうして俺が一人では無いと分かった?」

重圧が増す。口調が変わった。刺激してしまったらしい。冷や汗が流れる。

(不味い。言葉を間違えた。これでは“貴方達の存在を知っている”と言っているのと同義。何とか話題を逸らすしか…)

「答えろ。」

「…天使達が囁いてくれましてね。そんな事より、何時までこうしているお心算で?このフロアにはこんな物が仕掛けられているというのに。」

瞬時にスカートの中から先程解体した爆弾を取り出して見せつける。彼等とて、この会場を爆破されるのは困るだろう。その証拠に、一瞬彼の発する圧が揺らいだ。暫し無言が続く。

見せつけたのは明らかに解体されているもの。仕掛けた本人なら爆破出来る状態の物を見せるのが普通だ。態々解体済みのものを見せる意味が無い。よって、彼は私を仕掛けた犯人だとは考えないだろう。何方を先に対処すべきか悩んでいる。

かく言う私も非常に困っているのだ。残り幾つ有るか分からない爆弾に、今にも動き出すかもしれないテログループ。元々時間が無いのにこんな足止めを食らっているのだから。しかし、一瞬とは言え動きを見せた私を撃たないところを見ると、彼には何らかの思惑が有りそうだ。が、それをこの場で見極めるのは難しいし、利用出来るかも怪しい。相手が悩んでいる間に分析しつつ、盗聴器から流れる音声も聞き逃さない様に…

『パアンッ!!』

『全員手を上げろ!佐野を出せ!!』

会場の盗聴器から聞こえた乾いた音と男の声に思わず舌打ちしそうになる。遂に動き出したか。ここまで彼等が動かなかったのは偏に佐野氏が現れなかったからだろう。しかし、痺れを切らした。

更に、探偵に仕掛けた盗聴器からは『出て来い!』と鋭い声。どうやら彼は誰かに見つかったらしい。恐らく何らかの取引を行っている組織だろう。

不味い、非常に不味い。状況が悪過ぎる。探偵を見捨てるわけにはいかない。かと言ってテログループにスイッチを押されれば元も子もない。そもそもこの男を振り切れるか…

否、やるしかない。そう覚悟を決めた時。

「はい。どうかしました?」

仲間から連絡でも来たのだろう。見つかってしまった探偵の事だろうか。何でも良い。一瞬でも其方に気が逸れたのだから。

その一瞬を突き、体勢を低くして後頭部に突き付けられた銃口を避け、煙幕を張ると同時に駆け出した。


◇◆


ホールに入って来たのは真っ黒な服の厳つい男が二人とアタッシュケースを持ったスーツの男。

黒い服の男二人は見覚えがあった。【|Chaos Collectiveカオス・コレクティブ(C.C.)】と言う裏社会では名を轟かせている組織だ。以前、依頼の調査中にその存在を知ってしまった。確か、サングラスの男がクロウ、ハットを被った男がマグパイと呼ばれていた。恐らく顔を見られてはいないだろうが、まさかこんな所で鉢合わせるとは。もう一人は取引相手か。様子を伺っていると、どうやら取引を始めたらしい。探偵として気になる事ではあるものの、今はそんな場合ではない。多くの命が掛かっているのだ。爆弾の方をどうにかしなければ。

パスン

乾いた音と共に近くの壁に銃弾がめり込んだ。クロウがサイレンサー付きの拳銃を此方を向いている。

「出て来い!」

鋭い声が飛んで来る。

(ヤベェ、何時の間にバレたんだ!?)

込み上がる焦燥に、冷静になれと言い聞かせる。考えろ。何かこの状況を打開出来る策はないか。

相手は拳銃を持っている。自分に武器は無い。

相手は複数。自分は一人。…否、正確には怪盗と言う協力者と、外には警察も来ている。

相手は恐らく爆弾の情報を知らない。

この中で今切れるカードは?

パスン

再び壁が抉れる。此方に歩み寄って来るのが分かる。

「テメェ何処の人間だ?」

ドスの効いた鋭い声。肌を刺す様な殺気。この状況で吐ける嘘も無い。答えるべく口を開いた。

「ただのパーティの参加者です。とある人に脅されて、爆弾を探しているだけの…」

脚色はしているが事実でしかない。声を震わせて精一杯の被害者アピールをすれば僅かに相手の眉が動いた。

「爆弾だと?奴からそんな情報は有ったか?」

「いや、聞いてませんぜ。」

「確かめろ。」

「了解しやした。」

此方を見据えながらマグパイに指示を出すクロウ。どうやら向こうは慎重派らしい。言葉をそのまま信じてくれるとは思っていなかったが、念の為という事だろう。マグパイは何処かに連絡を取っている。相変わらず銃口は此方を向いたまま。

コツコツと足音は近づいて来る。

「目撃者は殺さなきゃならねぇ。自分の運の悪さを呪うんだな?」

クロウが遂に直ぐ傍まで来ていた。かと言って遮蔽物も何もないホールに体を投げ出す訳にもいかず、とっくに逃げ場は失っていたのだが。

その時、耳に着けていた通信機から声が聞こえた。

『three…two……one!』

刹那、何処からか飛んできたコインがクロウの拳銃を弾き飛ばした。それに合わせて俺もこの場からの脱出を図る。相手が動揺を示し、銃を拾いに行った隙に出入口へと一直線に走った。其処には案の定、怪盗の姿。彼の手にはお馴染みの改造銃。これでコインを飛ばしたのだろう。紙吹雪やらコインやらトランプやら、はたまた造花までもが飛び出すのだから一体どんな仕組みになっているか分からない。

反対の手で持っていた帽子を深々を被せられ、そのまま腕を引かれて外に出ると彼はおまけと言わんばかりにホールへ煙幕を投げ入れ扉を閉めた。そして、近くの男子トイレに身を隠す。

「家達探偵、お怪我は?」

「お陰様で何ともねーよ。」

「其れは何より。ところで此処で合ってますよね?」

「ああ。」

返事を返す前に彼は洗面台下の戸を開けた。其処には先程見つけた爆弾が鎮座していた。

「先程、犯人グループが動き出しました。」

彼は淡々と報告しながら、一切臆する事無く解体を進める。それを見守る事しか俺には出来ない。

「そうか。奴等の要求は?」

「佐野氏の身柄です。ただ…」

「…ただ?」

「佐野氏は海外旅行中です。身柄など引き渡す事は出来ません。」

「…はあ!?じゃあなんで連中は此処にいんだよ?」

「さあ?何処かで悪質な情報でも流されたんじゃないですかね。もしくは佐野氏がこの犯行を予測でもしていたか…まあ、会場を貸しているからと言って必ずしも経営者が参加しているとは限りませんからね。」

「…要求が通らなかったら?」

「勿論ドカンですね。厄介な事に彼等、佐野氏が此処に居ると確信しているみたいで…っと。」

解体を終えたらしい。振り返って小首を傾げる。

「さて、どうしましょうか?」

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