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其れは例えば宝石の様な  作者: 弦月 雪啼
雷霆の主と菫の花
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邂逅

「よお兄ちゃん。ちょっと良いかい?アンタにとっても悪い話じゃあねぇぜ。」

「誰だ。」

DCCカンパニー本社ビル入口まで来ていた伊狩は後ろから肩を叩かれた。バッと振り返るとそこには赤いメッシュが特徴的な若い男がいた。その男のラフな服装はとてもじゃないがこの場に相応しくない。DCCカンパニーの社員ではないのは一目でわかった。恐らくはホールスタッフとして雇われたアルバイトだろう。バイト終わりに巻き込まれたのなら大層不憫なものだが、この状況ではそうとは思えない。

「おっと、あんま怖え顔すんなよ。アンタにも悪い話じゃないって言ったろ?伊狩捜査官。」

そうニヤリと笑いながら、彼は一枚の写真を取り出してこちらに見せる。そこに写っているのは紛れもなく伊狩自身。どう見ても隠し撮りで、ご丁寧に油性ペンで名前まで書かれているのだから、自分の情報が漏れている事は明白だった。

「どこでそれを?」

動揺を押し隠して冷静に問う。状況次第では彼を始末する事もやむを得ない。自身だけでなく、捜査協力者の二人にも危険が及ぶ可能性があるからだ。

「白いのからだ。ここでアンタ等と協力取り付けときゃこの先楽だってな。」

「“白いの”?」

「あーっと…白い静謐。いや、外国じゃ“|alb linistitアルブリニシュティット”って言った方が分かり易いか?まあ正確には拳銃の名前らしいけど。」

「あぁ、彼女か。」

納得した様な声色とは裏腹に伊狩は目を鋭く細めた。確かに、アルブリニシュティットと呼ばれる少女とは知り合いである。捜査協力者である櫻井尊音とは彼女を通じて知り合ったくらいだ。だが、それがこの男を信用する理由にはならない。彼女の名を騙る者がいないとも限らないのだから。

そんな彼の心情などには眼もむけず男はぶつくさと文句を言う。

「ったくあの野郎、交渉は俺の仕事じゃねーっつったのに“ついでによろしく~”とか抜かしやがって!ただでさえこっちは()()()()()しなきゃなんねーってのによお!なあどう思うよ兄ちゃん!アンタも彼奴と知り合いだろ?」

相当フラストレーションが溜まっているらしい。その矛先が伊狩にまで及んでいる。こき使われている事を哀れに思う一方、彼の言葉には聞き捨てならないものがあった。

「依頼?まさか毒を仕込んだのはお前か?」

「そーそー、ってか事件の概要まで知ってんのか。じゃあ話早いじゃん。白いのから頼まれたんだよ。失敗する前提でこの依頼受けてくれってさ。んで、依頼主の居場所特定したいからって逆探知するための手続きまでしてんだぜ。」

「日本警察と連携していると?」

「まあそうっちゃそう。まず俺等が依頼受けるだろ?そん時携帯番号交換するじゃん。んで当日俺等が失敗するとクレーム電話が来るだろ?その電話を逆探知するように携帯会社に依頼する。んで乗り込むって計画なわけだけど…アンタも乗るかい?」

訊いてもいない計画をぺらぺらと喋る男は不審でしかない。しかしながら放っておくという選択肢も伊狩には無かった。自身の身元が割れていることもあるが、少なくとも自分よりはこの事件を把握している様だから。それに、本当にアルブリニシュティットが関わっているのかは確かめる必要がある。

「お前を野放しにしておくと此方のリスクになる。同行させてもらおうか。」

「よし来た!」

「勿論、事情は話てくれるんだろうな?」

「おうよ。」


◇◆


DCCカンパニー本社ビルから少し離れた郊外。とある寂れたアパートの一室の前に黒い服の集団が訪れていた。その手には日本では先ず目にする事がない銃火器が握られている。幸いそのアパートや周辺は住民が少なく目撃者は居ない。

「アイビス曰くここに葉山が居るらしい。お前等、分かってると思うが今回は殺しじゃなく捕獲が目的だ。良いな?」

そう言って指揮を執るのは、袖を捲り着崩したスーツ姿の男。コードネームはドレイク。C.C.の幹部の中ではかなりの若手であり、主に実行部隊の現場指揮を行っている。

(此処で手柄を立ててあのいけ好かない連中、見返してやる…!)

彼は組織内での己の立ち位置に不満を持っていた。若手であるが故に他の幹部に良い様にこき使われているのだと感じているのだ。だから、これを機に地位を上げようと目論んでいた。

そんな彼が玄関扉に手を掛けると、鍵が開いているようですんなりとノブが回る。

「行くぞ、3・2・1…GO!」

勢いよく扉を開けた先には…

「おや、何のご用事かな?」

白銀の髪を持つ少女が、悠々とコーヒーカップを傾けていた。

「葉山泰弘を出せ!匿っているんだろう?」

「何の事かな~?それより不法侵入だよぉ?」

銃を突きつけて脅すドレイクに、少女_白い静謐はこてんと首を傾げた。彼女の反応に腹を立てたドレイクは眉をつり上げて言う。

「これが何なのか分かるだろう?葉山を出さなければ撃つぞ。」

ドサリ

その瞬間、ドレイクは直ぐ隣から何かが倒れる音を聞いた。咄嗟にそちらに目を向けると彼は驚愕にその目を見開いた。そこには外傷も無く気を失った部下の姿があったのだ。動揺しつつも目線を少女に戻すドレイク。その鼻先を、無音で何かが通り過ぎる。そして、彼の真後ろから人が倒れる音がした。

何時の間にか白い静謐の手には拳銃が握られており、銃口は正確に部下の頭部へと向けられている。

「撃て!」

叫んだのと同時にドレイクは引き金を引いた。

その数十秒後、その部屋で立っているのは白い静謐だけだった。


◇◆


『おやおや、連絡が途絶えましたね。まあ念の為術式を仕込んでおいたので問題は無いでしょう。』

「嵌められたって事?アンタの魔術ってのもそこまでみたいね。」

『ふふふ、まさか痕跡を捏造されているとは思いませんでした。今後は警戒するとしましょう。』

葉山が潜伏していると思われる場所を特定したアイビスはドレイク率いる実行部隊を送り込んでいた。現着の報告を受けた後、彼等からの連絡が途絶えたのだ。何度か呼び掛けても応答が無いことから何者かに嵌められ、捕まったものだと判断した。

「で、回収は?アイツらから情報が漏れると面倒よ。」

『問題有りません。既に彼等は口を利る状態ではありませんから。』

手間がかかると呆れた様に言いつつ回収を考えるヘロンと異なり、アイビスは何の感情も宿さない声で処分を告げた。


◇◆


白い静謐はドレイクとその部下を制圧拘束した後、護送の為に槌田を待っていた。

彼女が次の動きを考えていたところ、ドレイクがびくりと肩を揺らした。

「ありゃ~目が覚めたかな~?」

そう呟きながらよく見ようと近付く。すると、彼は途端に苦しみ、咳き込み始めた。彼だけではない。白い静謐以外のここに居る全ての者が藻掻き苦しみだしたのだ。

(やられた…口封じか。)

毒か魔術か定かではないが、兎に角ここが罠である可能性を視野に入れて対策されていたらしい。思わず舌打ちが零れる。

彼等は苦痛に顔を歪め、口や鼻、目から血を流し呻く。そして…

「あ゛ああああああ!!!!」

何人かの絶叫が響き、彼等は糸が切れた操り人形の様に首をもたげて動かなくなる。その中で、ドレイクは恨めし気に虚空を睨んで叫んだ。

「アイビス!!ア゛イ゛ヒ゛ス゛ーーーー!!!!」

程なくしてドレイクとその場にいた部下達は息を引き取った。

白い静謐は本来C.C.の内情を探るために彼等を捕らえようと画策していたが、治療を考える間も無く亡くなってしまった。後悔している暇はない。少しでも情報を得るため、白い静謐は電話を掛けた。

『もしもし~どした~?』

師匠(せんせい)?ちょっと来て貰って良いかな?」

『ぅえ?どこに?』

「打合せしたとこ。…え、来れるよね?流石に。」

『あ、あ〜あそこね?行ける行ける!』

「……不安なんだけど…まあ、待ってるよ。」

『は〜い。』

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