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其れは例えば宝石の様な  作者: 弦月 雪啼
雷霆の主と菫の花
47/51

準備

伊狩は同僚であるケイト・ジョーンズからの連絡によりDCCカンパニー本社付近まで来ていた。

以前から社長である田辺には黒い噂があり、もしかしたらC.C.と繋がっているかもしれないと調査を行っていたのだ。結果として証拠は上がらず、怪しんでいた社長が殺されかけた。毒が入っていたのは田辺社長がウェイターから受け取りテーブルに置いていた物で、それを参加者の女性が誤って飲んでしまったらしい。たまたま女性が間違って飲んでしまったから彼の命は助かったが、狙われたのが田辺社長である事に違いはない。

「想定外だな…確かに恨みは買っていそうではあったが…」

伊狩はそう独り言ちながら険しい表情で車を走らせている。

奇妙な事に、被害者の女性や彼女をベッドのある仮眠室へ運んだ男二人は何時の間にか姿を消したのだという。特徴を訊けば男の内片方は恐らく家達だ。何があったのか、どうしてそうなってしまったのか、と頭を抱える。彼は捜査協力者ではあるが、未成年の子供だ。

(あまり危険な事に首を突っ込まないで欲しいところだが…まさか誘拐なんてされていないだろうな?)

ふと嫌な想像が頭を過る。そうだとしたら怪しいのはもう一人の男。

先ずは家達の無事を確認するべきかと考え付近の駐車場に車を停め、電話を掛ける。数回のコール音の後、電話は繋がった。

『はい、家達です。』

「良かった。電話には出られるようだな。」

『…へ?』

「DCCカンパニーの新事業立ち上げセレモニーに潜入している同僚から聞いたんだが、どうやら事件が起きたらしい。そして、その被害者と男二人が何時の間にか姿を消しているんだとか…何か知らないかい?」

『えっ、えーっと……』

言い訳を考える様に口籠る彼の様子から自分から事件に首を突っ込んだのだろうと予想出来た。

「はぁ、今は安全な場所に居るんだな?」

『はい。それは大丈夫です。』

「なら良い。念の為言っておくが、君が依頼を達成するにあたって不都合な怪我を負うなんで事があったら困るのは俺達なんだ。そこは忘れないでくれよ。」

『…はい。』

念を押すと気まずそうな返事が返ってきた。あまり彼個人に深入りする心算は無いが、C.C.の関与が疑われている以上は放っておく訳にはいかない。とはいえ、自分にも用事がある。

「合流したいところだが俺にも用事があってね。また後で連絡するよ。それまではあまり危険を犯さないように。」

『ぜ、善処します…』

その返事を聞いて電話を切った。そして、ケイトと合流すべく車を降りた。


◇◆


時を少し戻してとある喫茶店。サングラスをかけた金髪の白人女性が頬杖をつきながらパソコンに向かっていた。そこに映し出される映像は騒動の渦中にあるセレモニー会場の監視カメラ映像だ。彼女_ヘロンはその中に知人を発見し、同時に怪訝に思う。

(あれはコトドリ…?どうしてあの男が会場に居るのよ。)

そして、暗殺の失敗もその目で見る事となった彼女は組織へと報告を入れる。

「殺し屋は失敗に終わったみたいよ。毒入りワインをターゲットの近くに居た女が間違って飲んだの。もうじき警察が来るでしょうね。」

『何?随分と使えない殺し屋だな?』

通信機越しに殺気立ったクロウの声が聞こえて来た事に、ヘロンは溜息を吐く。

「私に言われても困るわ。それよりあの場にコトドリが居る事の方が気になるのだけど。彼、今回の件に関わってたかしら?」

『さあな。』

『俺も知らねえっすけど、表の仕事じゃないっすかね?ほら、あの人ああいう場所で人脈広げてるじゃないですか。』

興味がないと言わんばかりに流すクロウとは違い、マグパイは彼なりに考えて答えてくれる。そんな話をしていれば一言、静かな男とも女ともつかない機械音声が告げる。

『葉山 泰弘の居所が割れました。』

写真一枚から対象の居場所を特定する組織の魔術師_アイビスは淡々とその住所を知らせた。


◇◆


時を同じくして、とあるホテルの一室。丁度DCCカンパニーのビルがよく見えるそこに三十路過ぎの男が一人、怒りに打ち震えていた。その目は憎しみに塗れ、常にDCCカンパニー本社ビルへと向けられている。不健康に痩せ細り、目の下には隈をたたえた男_葉山 泰弘は、ただ一つの目的のためにこの八年間を生きて来た。

自分と、最愛の恋人を嵌めた二人を殺す。

そのためだけに。後先など、男にとってはどうでもいい事だった。最愛の人はもう居ない。自分も社会的には死人となっているのだ。考えるべきはあの二人の死を見届けた後、己が何処で死ぬか。それだけ。

暗殺の代行を名乗り出た男は随分な野心家で、男の技術を良からぬことに使おうといるようだが、やはり男には関係の無い事であった。

「田辺、河島…今に見ていろ…!」

粟坂より、毒殺が失敗に終わり狙撃に切り替えたとの連絡が入って間も無い。憎き者達の血の花が咲く瞬間を見逃さんと、男は躍起になって双眼鏡を覗いていた。


◇◆


秋津はセレモニー会場から少し離れた場所に位置するコンテナルームの前に車を停めた。

「ここに変装用の道具が用意されているとの事ですが…」

そう言って彼は扉を開けた。するとそこにはさながらウォークインクローゼットの様な光景が広がっていた。左右の壁際には洋服が吊り下げられており、奥には大きな鏡とドレッサーまで設置されている。

「お、お~これは凄いですね…」

家達はその光景に目を瞬かせた。

「さて、張り切っておめかししていきましょうか!」

怪盗はニコリと微笑んだ。

約一時間後、そこに立っていたのは秋津と家達ではなかった。

比較的背の高い方、秋津は特徴的な金色の髪を真っ黒なウィッグの下に隠し、甘いと称される顔はメイクで凛々しく描き換えられている。服装は半袖シャツにスキニーパンツというこの暑い時期に合わせた涼しくラフなもの。ネックレスや腕時計、バッグなどの小物を合わせていかにも“遊びに来た感”を演出している。

そしてもう片方、家達も同じ様に日本人らしい黒髪のウィッグを被り、メイクで顔の印象を変えている。服装はラフにTシャツとワイドパンツを着て、ショルダーバッグを肩から掛けている。

二人が並んでいる姿は旅行中の兄弟の様に見えるだろう。これから行く場所に馴染む様にという事ならこの辺りの名所、若しくは旅行者に人気のホテルにでも行くのだろうか、と家達は予想した。潜伏場所として妥当なのはホテルの方だろうか。

(それにしても…疲れた……)

一人につき約三十分かけての変装だ。服装には時間が掛からなかったが、家達は慣れないメイクに精神的な疲労を感じていた。

それを施した怪盗は終始楽しそうにしていたが。

「わざわざこんな格好させたって事は行先は決まってるんだよな?」

家達はジト目で怪盗に訊ねる。

「勿論。」

怪盗は笑顔で答えた。そして、懐から取り出したスマートフォンの画面を見せる。映し出されているのはとあるホテルの予約状況だった。

「お二人には此処へ行って頂きます。」

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