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其れは例えば宝石の様な  作者: 弦月 雪啼
白瑠璃の章
42/51

巣食う廃村 前編

『星野ちゃん。ちょっと調査に付き合ってくれない?』

白い静謐からのそんな電話で指定されたのは六月の第一土曜日、午前9時。場所は千代木駅前。どうやら電車で移動する予定らしい。

当日。人々が賑わう駅前の集合場所へ五分程前に足を運ぶと、既に白い頭があった。夏に差し掛かったこの季節には珍しい七分丈の上着を着た彼女は、私が話し掛ける前に此方に振り向いた。

「おはよ~。はい、これ。」

「おはよう。これは?」

「目的地の最寄り駅だよ~ん。」

挨拶と共に渡されたのはとある駅までの往復切符。反射的に受け取ったそれについて問えば彼女は何でもないように答える。そして彼女は時計を見ると

「行くよぉ。」

と一声だけかけて駅に入って行く。どうやら電車の発車時刻が近いらしい。少し速足で進む彼女に疑問を覚えつつ付いて行った。

無事、発車時刻に間に合い席に座ると彼女が話し出す。

「いやぁ、星野ちゃんが早めに来てくれたお陰で一本早いのに乗れたよ~。ありがとねぇ。」

「そう。…それで、何があったの?」

「そうだねぇ…何から話そうか…」

そんな風に語り出した彼女はついこの間された相談の事を話す。

相談者は彼女曰く友人で財部荘という児童養護施設の子供、綱手 飛鳥(つなで あすか)。同い年らしい。彼は最近体調が優れず学校も休みがちになっていた。施設の職員も心配していた中、彼は自身の体の更なる異変に気が付いてしまった。

それは、体表に蛇の様な鱗が生えている事。

明らかに非科学的な異変に戸惑った彼は先ず海外に居る姉に連絡を取り、その後に白い静謐に相談したのだそうだ。

「それでお姉さんの方、采花(ことか)さんね。采花さんにこっちからもコンタクト取ってみたんだけど、彼女は原因に心当たりがあったみたい。それが今から行く“加賀地村(かがちむら)”。彼ら姉弟の出身地ね。」

そこで不自然に言葉を切った彼女は改めて此方を見た。

「ところで星野ちゃん。キミの予知に出て来たのは蛇の怪物で間違いないんだよね?」

「…ええ、間違いないわ。」

急な確認に戸惑いつつも肯定を返すと彼女は安心したように続ける。何故、自分が呼ばれたのか未だに理解できていないが、取り合えず話を聞く事にした。

「良かったぁ。それで、采花さん曰く加賀地村には古くから封じられている邪神の類がいるらしいんだよ。けどねぇ五、六年前くらいに村が襲われて廃村になっててね~。そのせいで封印が更新出来てないんだって。」

「まさかその邪神が、私が視た蛇だって言いたいの?」

「その可能性があるから来て欲しかったんだよ~。ほら、関係しそうな物を見たら何か分かるんじゃない?オカルティスト特有の第六感的なアレで。」

「…まあ、判る…かも?でも保証は出来ない。」

「お~け~お~け~。そんなもんだよ普通。寧ろ確実に分かる方が稀だって。」

そんな会話をしていると切符に書かれていた駅名が見えて来た。


◆◇


駅からバスに乗り10分、バス停から徒歩25分程の場所。自然豊かな…否、豊か過ぎる農村部が見えてきた。あれが目的地なのだろうか。思ったより移動が長く既に疲れてきているのだが、本題はここからなのだと思うと気が遠くなるようだ。

白い静謐はと言うと、全くもって平常運転、元気溌剌に前を歩いている。そんな彼女がくるりと半回転して此方を振り向いた。

「今見えてる廃村が目的地だよ〜って、大丈夫?休憩する?」

「…私、フィールドワークは得意じゃないの。」

「疲れたんなら言ってくれて良かったんだよ?そしたら休憩挟んだのに。」

「……うん。」

そんな訳で、目的地を目前にして付近の日陰で休憩をとる事になった。

10分程足を休め、水分を採り、体力回復に努めた後、再び廃村に向かう。その間も特に会話は無かったが気まずいわけでも無かった。

そうして廃村“加賀地村”に足を踏み入れる。かつて整備されていたであろう痕跡はあるものの、雑草が生い茂る道。不自然に破壊された痕跡が残る民家。踏み荒らされ、手入れされていない田畑。恐らく()()があった廃村がそこには在った。

何処か不穏な雰囲気を放つ廃村に眉を顰めていると、白い静謐が再び説明を始めながら気持ちゆっくりめに歩き出す。

「さて、お察しのようにこの廃村が廃れたのは襲撃を受けたから。全滅とまでは行かなくとも生き残り少ないし、態々戻って来る人は居なかった訳だ。まあ、邪神の封印がどうのこうのっていうのを知ってたのは村はずれにある神社を管理する神主の一族だけだったみたいだし、復旧諦めるくらいの破損具合だったし、そこは仕方ないとは思う。と言うかここの住民は何も悪くはないしね。」

「…?それってその采花さんって人は神主の一族で、邪神を封印していた事を知っているのよね?」

「うん。そうだね~。」

「貴女は海外に居る彼女と連絡を取っているのに、どうして呼ばないの?」

ここまでの話を聞いて疑問に思った事を訊く。確かに、海外に居る人を呼ぶのには時間が掛かるだろうが、土地に詳しい人間が居た方が状況は把握しやすいだろう。それが伝承を受け継いでいる者とあらばなおの事。帰国を待って予定を合わせて調査に来た方が良いのではないかと思ったのだ。

すると、意気揚々と説明していた彼女の顔は分かり易く苦々しい表情に変わり

「…あ~ね。いや、来るには来るらしいんだけどねぇ……あんまり呼びたくない理由があるのとぉ…ほら、切っ掛けになった飛鳥くんの体調不良があったじゃない?あれが恐らく邪神から神主一族への呪いなんじゃないかって話でね。采花さんも影響受けてて帰国の目途が立たない可能性があるんだよ~。だからまあ、先に簡単な調査はしておこうと思ってね。大半の封印術は私でも状態くらいは分かるからさ~。」

と前半は異様に歯切れ悪く答えられた。濁しに濁した理由は訊かない方が良いのだろう。彼女が言わないのはきっと今回の事とは直接の関係性が無いからだ。

「そういうことね。分かった。」

後半は案外納得のいく理由だったのでそう頷く。

「ああ、ちゃんと封印場所は聴いているから安心して。それが確か……あ、こっちだ。」

何かを探す様に周囲を見渡し、目的の物を見つけたらしい白い静謐はそちらの方向に歩き出す。その先を見ると、一本の木に赤色のビニール紐が巻き付けてあるのが見えた。

「目印があるなんて親切ね。」

「それに関しては采花さんの迷子癖に感謝だねぇ。彼女がよく迷子になるから飛鳥くんがあちこちにこういう目印付けたらしいから。」

「成程。」

「んじゃ行くよ~。此処からはちょっと危険かもだから気を付けてね。」

「分かった。」

前を歩く彼女に続いて森に足を踏み入れる。鬱蒼と茂る森は日光を適度に遮っていて、先程よりも涼しく感じた。そして、不自然に木が無く辛うじて道として使われていた事が分かる獣道を進む。

暫く進むと、古びた鳥居とその向こうに社殿が見えてきた。何事も無くその鳥居をくぐった時だった。

「危ない!」

目の前に白が舞った。それは白い静謐の髪だった。彼女が盾を広げて私を何かから守ったのだ。

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