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其れは例えば宝石の様な  作者: 弦月 雪啼
白瑠璃の章
41/51

グレーゾーン

「あの手紙は何だったんだ?」

とある放課後、人気のない校舎裏で真剣な目で問い詰めてくるのはクラスメイトである家達 律槿。私にはその目を見つめ返す事しか出来ない。何故なら未来予知(ほんとう)の事を言ったとして、彼がそれを信じるかと問われればNOである事は明白だからだ。かと言って、口が上手くない私がそれらしい言い訳を考えられるかと問われればそれもまたNOである。言わば、詰み。

「あれが悪戯じゃない事は解ってる。むしろお陰様で最悪の事態を防げたんだから、感謝してるくらいだよ。だからこそ、何処で情報を仕入れて、何で俺に伝えたのかが知りたいんだ。教えてくれないか?星野さん。」

「…そ、れは……」

口を開きかけてはまた閉じる。その繰り返し。視線を逸らさない事だけがせめてもの誠意であった。

そもそも、直観に従って彼に手紙を押し付けてしまったが、それが正しかったのかも分からない。秘密裏にループ事象を解決しようと思うのならば探偵という厄介な職の者と関わりを持つべきではないし、角が立つような事はするべきではないのだ。その上私は怪盗の側にも立っているのだし…と今更ながら後悔する。

どう切り抜けるべきか分からず困り果て、言葉を紡げずにいると、彼が眉を下げて訊いてくる。

「もしかして、何か言えない事情でもある?脅されてるとか…」

押し黙っているこの態度をあらぬ方向に解釈されてしまったらしい。彼は私を怪しむと同時に心配もしているようだ。これは訂正しなければと口を開いた。

「それは、違う。そうじゃない、けど…」

その先が繋がらない。どうしようもなくて思わず視線が下がる。

どちらも話だせず気まずい沈黙が続いた。

そんな時。

「あれ?家達…と星野?何してんだ?」

明るく響いた声に驚き振り向くとそこには在瀬 翠が鞄を片手に立っていた。思わぬ助け船だ。そして、彼の登場に驚いたのは私だけではない。

「あ、在瀬!なんでこんなとこ来んだよ!?」

「偶々だよ偶々…ってかこの状況まさか!家達ごめん!邪魔したな!」

「…ちょっと待て!!」

動揺して訊ねた家達に対し、飄々と答えた在瀬だったが瞬時に何かに気が付いた様子で謝り、立ち去ろうと踵を反した。そしてあらぬ誤解を生んだと察した家達が慌ててその背を追い、肩を掴む。

「絶対お前誤解してっから!変な事言いふらすなよ!!」

「んな事しねーって。ちゃんとこの胸に秘めとくから!ほら、ちゃんと返事聞けよ!」

在瀬はニヤニヤと笑いながら茶化す。お陰で先程までの不穏な空気ががらりと変わった。これでは家達も真剣に問い詰め続けることは難しいだろう。予想通り彼は深く溜息を吐いた後、気まずそうに言った。

「悪かったな。星野さん。また今度。」

「…え、ええ。」

なんとか切り抜けられそうな状況になり、内心ほっと胸をなでおろす。在瀬は思い違いに気が付いたのか不思議そうな顔をしていたが、あれよあれよと言う間に解散することになった。偶然か意図的かは分からないが兎に角助かった。

一つ分かったのは、在瀬の前で先日の事件の話をしないあたり、家達は怪盗アルセーヌの正体に気が付いていないという事だ。これは良い情報だったかもしれない。


◆◇


「ゆ~い~!」

「わぁっ!どしたの〜?急に。」

部活終わりの帰り道。友人の佳澄に後ろから勢いよくもたれかかられる。

「ねえねえ、コスプレって別人みたいになれるでしょ?それで翠の事尾行しようと思うんだけど…」

「…え?ほんとに話が急。何が有ったの。」

「だって、ずーっと元気無いっていうか……変なんだもん。」

「そうかな〜?私には分かんないけど…」

「テンションも表情も変わんないけどさ、声のトーンがずーっと低いんだよ?絶対なんか有ったんだよ!」

佳澄は不安と心配に眉を下げながらどこか確信を持った様子でそう語る。それはきっと、彼女の鋭い音感によるものだろう。

(…あ~怪盗業で疲れてるのかな?ここはフォローしておいてあげた方が良いかな。)

と思い当たる節があった私は当たり障りない理由を言う。

「ついこの間まで骨折してたし、それじゃなくて?」

「ううん、違うよ。怪我したとか、体調悪いとかでトーンが下がるのは分かってるけど…そうじゃないの。なんて言ったらいいかな…基準がそもそも低いって言うか……」

佳澄は私の推測をキッパリと否定し、言葉にし難い違和感をなんとか言葉にしようと頭を悩ませながら説明する。うーん…と唸りながら首を捻る彼女を暫し見守っていると何か表現が見つかったのか再び口を開いた。

「すっごい突拍子も無い事言うけど、なんか別人が無理して翠を演じてるみたいな?そう言う不自然さが有るんだよね…」

「…え?」

出て来た表現に驚き、言葉を失った。非現実的だから、ではない。可能性があるからだ。研究所で“門”のエラーを見たとき、思いついてしまった可能性。

何らかの事故で表出する人格が入れ替わってしまったとしたら、辻褄は合う。

「言葉にするならそんな感じだけど…まあ、そんな事あるわけないよね!変な事言ってごめん。忘れて!」

私の反応を見て、佳澄は慌てて撤回した。一般的に考えて有り得ない事を言った自覚はあるのだろう。恥ずかしそうに目を逸らした。

「あっはは!佳澄って偶にぶっ飛んだ事言う時あるよね~!」

「わ、忘れてよ~!もう!」

冗談として笑い飛ばす事にした。少なくとも彼女の前では。

ひとしきり笑った後、少し真剣に彼女を諭す。

「まあ、様子見じゃない?まずは。何時でも相談は乗るからさ。ね?」

「うーん…そうだね。」

以前にも似たような事を言った気はするが、佳澄は渋々同意してくれた。彼女としても、心配だが踏み込み難いのだろう。本人に言わず、私に相談しているのが何よりの証拠だ。是非ともそのまま踏み込まず“杞憂だった”と思って欲しいところだ。否、そうさせなければならない。

それからは、部活の事や流行りのスイーツの事など下らない話をしながら帰路に就いた。


分かれ道で佳澄と別れてから考える。

それにしても、もし仮に彼の人格が入れ替わってしまっているのなら厄介だ。

私が知っている在瀬 翠が相手であれば、“門”の件を説明すれば快く協力してくれるだろうと踏んでいたのだが…中身が違うというのなら話が変わってくる。交渉する為にはどうするべきか、そもそも交渉出来る相手なのかすら分からないのだから迂闊に話せない。

(困ったなぁ…最悪の場合実力行使かなぁ?それは…)

「…ちょっとやだなぁ。」

思わず溜息が出る。

__それでも、もしもの事があればこの手で。

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