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其れは例えば宝石の様な  作者: 弦月 雪啼
白瑠璃の章
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水面下

「こんにちハ。今日はどの様なご用事ですカ?」

若干カタコト気味な発音で挨拶をするのは“空の図書館(アーカーシャ)”こと天方 空(あまかた そら)。白い静謐が目の前にする空色の髪の少女だ。

白い静謐を見据える瞳は熱を帯びず無機質で、クラシカルロリータの服装も相まってまるで人形の様だ。

ここは日本トップクラスのセキュリティを有するアパートの一室。外装もお洒落でアクセスも良い為相当の値が付いている事が覗える。そんな最新鋭の高級アパートの一室はクラシックな装いで統一されており、白い静謐より寧ろ天方の服装の方が相応しく見える。

そんな彼女はとある特殊能力が理由で雪月花に保護されている。それが彼女がアーカーシャと呼ばれる由縁であり白い静謐が会いに来た理由である。

それぞれの前にティーカップが置かれた木製のダイニングテーブルに向かい合うように椅子に座った白い静謐は答えた。

「【ユークロニア研究所】の【Clavis】が関わる【プロジェクトの資料】を【紙に書いて】くれる?」

「【ユークロニア研究所】【Clavis】【プロジェクトの資料】【紙に書いて】…可能でス。出力にかかる時間と負荷を計算中、少々お待ち下さイ。」

天方はそう言って目を瞑った。

彼女は世界の記録、所謂アカシックレコードにアクセスする事が出来る。全知と言っても過言ではない存在なのだ。但し、何かを訊く際は具体的かつ直接的な事を言わなければ伝わらない。そして相応の対価を要求されるのだ。

どれ程の時間が必要でどんな対価を要求されるか分からないが、今回は事が事な為白い静謐としては出来る限り応える心算ではいる。

その覚悟で彼女だ数十秒の長い沈黙の中待っていると目を開いた天方は言った。

「出力時間は15日と12時間30分。対価は___夢境の異変を解決する事。正確には5か月前に突如として()()()()()()開通したゲートの先で起きている異常デス。」

「それは、キミにメリットが在るの?」

「ハイ。ありマス。」

「そう。お~け~それで良いよ。他に何か困った事あったら何時でも連絡してね~。」

「ハイ。有難う御座いまス。」

会話を終えると白い静謐はその部屋を後にした。


◆◇


さて、やるべき事はもの凄く多い。

先ずは世界規模の異変に際して影響を強く受けそうな事案をリストアップし、ケアしなければならない。

それを考慮して計画を立て戦力を整えるのだ。

影響を受けそうな事案と言えばアーティファクトが一番に思い浮かぶ。特に神格と関係し、危険度の高いものは優先的に対処するべきだろう。宝石は日本に在れば怪盗アルセーヌが卯の花に引き渡してくれるだろう。取り敢えず国内に無さそうな“迅嵐の黄僮”は探しておかなければ。

他にも影響を受けそうなのは…と考えてサッと血の気が引いた。

(ヤッバい!…あの人がいた!!)

焦る気持ちでとある番号に電話を掛けた。

『はいもしもし、エヴァンスです。』

聞こえて来たのは警戒しているのか少し硬い懐かしい男性の声。それもその筈、こちらの電話番号は相手が知らない番号なのだから。

「お久しぶりです。署長。」

『ササキア君か!久しぶりだなぁ!どうした?』

声で私が誰なのか理解したのだろう。彼は一転して嬉しそうな声で答えた。

「署長、確認なんですけど、先生…尋木(たずのき)さんってまだ在籍ですよね?」

『ああ、うん。普通に働いてるぞ?何か在ったか?』

「あのワーカーホリックよく見ておいて下さい。で、異変が在ったら知らせて下さい。お願いします。」

『本当に何が在ったんだ?大事な署員の事なんだ。聞かせてくれないか?』

 人が良く部下想いな彼はとても心配そうな声で問う。

「…言える事は言います。濁して言いますけど署長の事を信用していない訳ではないです。全部知られるのは本人が嫌がりそうなので…」

『分かった。それで構わないよ。』


◆◇


「…はぁ…」

署長と話がつき懸念事項の一つはケアが可能になり、一息吐いた。

署長の性格上、それとなく根回しして周りが上手い事ケア出来るように誘導してくれるだろう。

“海淵の瞳”は三月に怪盗アルセーヌが確保したらしい。

“清森の憧憬”は先日、怪盗アルセーヌが盗み出したとニュースでやっていた。加えて星野からも顛末を聞いている。

“迅嵐の黄僮”は捜索を依頼しなければならない。

“焔心の鐘声”は剣術家の友人から聞いた赤い宝石だろう。

大きな問題は大方なんとかなるだろう。とは言えループ事象を解決しなければ時間の問題。年内には解決したい所存だ。

さて、この大規模な異変を解決する際、確実に敵対する勢力が在る。

__C.C.だ。

彼等はボスである天羽 鶴寿の目的、“永遠”を叶える研究の為に手段を選ばない。否、節操がないと言うべきかもしれない。様々な研究に手を出しては後始末もせずに放置したり、資金を集める為にギャングのシマで銃や薬の売買をしていたり。裏社会では名の知れた組織だが、恐れられている一方何処にでも噛みつく狂犬の様な扱いで迷惑がられてもいる。

彼等がユークロニア研究所を襲撃してまでも求めたものは十中八九Clavisだろう。目的のものが重なる上、彼等とは相容れない為、衝突は不可避だろう。無駄に武力も有り狡賢く規模も拡大してきている厄介な組織をどう料理してやろうか。

そう考えながらスマホを眺めた。


◆◇


真夜中、とある路地裏で二つの怪しい集団が集まっていた。

片方は真っ黒な恰好をした厳つい三人組。

もう片方はダークカラーのスーツの二人組。

黒い方の一人がアタッシュケースを持っておりその中身についての交渉をしているようだ。

「私はその薬にはあまり価値を見出せていないんですよねぇ。」

スーツの男の一人、金髪オールバックの男がサングラス越しの目を細める。

「それはつまり交渉決裂と言う事で?」

黒ずくめの恰幅の良い男が訊くとより一層ヒリヒリとした空気が漂う。互いに威圧し牽制し合っている状況だ。彼等は同じ闇に棲む者だが、決して仲良しこよしはしない。寧ろ、スーツの男達は黒ずくめの男達を良く思っていないようだ。

「ええ。この取引は流させて頂きましょう。ここまで価値の無いものだとは思いませんでした。」

低く冷ややかな声がはっきりとそう告げた。

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