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其れは例えば宝石の様な  作者: 弦月 雪啼
白瑠璃の章
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瑠璃空の憂鬱

偉大なる占星術師エステルはあらゆる未来を占い、選択する事さえ可能だと言う。そんな彼女は千代木市郊外に居を構え、弟子をとった数年後、弟子に課題を遺して消息を絶った。

―最悪の未来を回避する―

それが弟子_星野瑠璃に遺された最後の課題であった。

星野はその課題を達成する為、エステルの遺した地下室で定期的に未来を占っている。

「…変わらない…」

思いつめた表情でプラネタリウムを見つめ、星野は呟いた。それは、何度占っても変わらない未来を意味していた。

焼けた町、泣け叫ぶ人々、空には悍ましいナニカ…

それを何とかして回避しなければならない。それが星野の使命であった。

どうしていいのかも分からない手探りな状態で困っていた折、転機が訪れた。突然、観測していた未来が変わったのだ。しかしそれに喜んだと同時に異変も現れた。

同じ時間に幾つもの別の未来が確定して現れる。まるで同じ時間をループしている様だ。

この異変を発見したのは三月中旬。星野にとってこういった事態に詳しい知り合いはあまり多くない。師匠ともう一人_白い静謐と呼ばれる同い年の少女くらいだ。


◆◇


四月。出逢いの季節とはよく言ったもので、同じクラスにあの丸眼鏡を見つけた時には柄にもなく驚いてしまった。しかし、好都合でもあった。

三月に視た星空の異変を調査した結果から私は世界がループしていると言う仮説を立てたが、それを立証し、解決するには私では力不足だった。そんな折、休日に卯の花の前に自分の目線より幾分か低い白い頭を見つけたから、私にしては珍しく自分から声を掛けたのだ。

「丁度良かった。貴女に相談があるの。」

「おっ、来た来た。キミに相談があるんだ。」

同時に出た、同じ内容の言葉。しかして、私達はそれ程仲が良い訳では無い。言ってしまえばギブアンドテイクで成り立つビジネスライクな関係性の筈だ。

だからこその信頼はあるのだが、今回はそれが途轍もなく嫌な予感を覚えさせた。

彼女_白い静謐は何時も通りのゆるい態度で此方を見据えながら提案する。

「お互いに話があるみたいだし、何処かに入らない?」

私はそれに頷いた。そして休日の昼下がりにも関わらず静かなカフェに入り、通された奥のボックス席で話をする事に。如何やらこのカフェは彼女の行き付けの店らしい。私は紅茶、白い静謐はブラックコーヒーを注文し、それらが届いてから話始める。

「そっちからで良いよ〜」

「分かった。」

間延びした危機感を欠片も覚えさせない声で促され、遠慮無く此方の要件を伝える。

「恐らくだけど、今、世界規模で3月1日を起点とした一年周期のループ事象が起こっている。けれど、その原因が分からない。」

「成程ね~…ループ事象か……もしかしたらこっちの案件に関わってるかも。」

「そう。じゃあ、そっちは?」

「実は今、奇妙な特異事例が発生していてね。何処かに特異点が有る筈だから探してるんだぁ。本当にループ事象が起きてるならそれが原因かもしれない。だからそっちの詳細を聞きたいかも~。」

「分かった。っと言っても大した情報は無いけれど…恐らく関わりが有る人物ならいる。」

「何処の誰?」

「クラスメイトの在瀬 翠。」

彼の名前を出した瞬間、彼女は目を丸くした。

「どうして?」

「未来が確定してしまっている事象には必ず彼が関わっているから。恐らく中心に近いところに居るわ。」

それを聞いた彼女は少しの間、悩まし気に視線を落とし目を伏せた後小さく「そういう事かぁ。」と呟いて真直ぐに此方を見た。

「ちょ~っと一緒に調査に行かない?」

「…何処に?」

と問えば彼女は口許を三日月に形作って言った。


「ユークロニア研究所。」


「…何処?“工房”?」

聞き覚えの無い名前にキョトンと首を傾げる。瞬間、白い静謐はズッコケた。正確には驚いて取り落としそうになったカップを持前の反射神経で持ち直した結果、おかしな恰好になっただけなのだが。何なら、中の液体を零さず自分も周りも汚さなかったのは流石の一言に尽きるのだが。絵面が少々コミカルだった。

彼女の珍しい姿に思わず笑ってしまったのは仕方が無い事だと思う。それを目敏く見つけた彼女は恥じらう様に頬を赤らめた。

「コラ~!笑わないの!全く…私はキミの箱入り具合に驚いたんだからね?」

「それで、結局何なの。今までの文脈と貴女の口から出て来た名称から工房だと思ったのだけど。違うの?」

「も~マイペースなんだから~。まあ、ある意味間違ってはない…かな?」

工房とは、私達の業界では魔術的、若しくは表に出ない超科学的技術を用いて道具を制作する職人や組織を指す。そして、彼等が作る道具を工房アイテムと呼んでいる。

「研究所だよ、研究所。アイテムも作ってはいたんだろうけど、メインはそうじゃないんだよ。時空間に関しての研究開発をしてたのさ。」

「“してた”?」

「そう。11年前にC.C.に襲撃されて壊滅。研究員と成果の殆どを失ったわけだよ。有名な話なんだけどなぁ~…」

「その研究所と今回の件、何が関係あるの?今の話だと廃墟同然じゃない。」

呆れた目で此方を見る視線を無視して指摘すると、彼女はクスリと笑った。

「言ったでしょ~研究成果の“殆ど”って。全てではないんだよ。と言うか、多分だけど本命の研究室は傷一つ付いてないんじゃないかな~。」

「本命…?」

「地上の研究所はもう廃墟なんだけどね。地下が有る筈なんだよ。」

「待って、じゃあ在瀬 翠との関係性は?」

話の流れで何となく読めてはいるが恐る恐るそう訊いた。

「そんなの、彼が研究成果の一部なんだから関係無い訳無いでしょ~。」

嫌な予感はしたのだが、矢張りそういう事か。彼女はその事実をケロリと言ってのけた。数日、教室での様子を見ていただけでも解るくらいには彼と仲良くしていた筈の彼女が。

「前から知っていたの?」

「勿論。中学の時からね。」

「本人は?」

「知らないと思うよ~。私も言ってないし、何訊いてもキョトンとしてたから。」

事も無げに言う彼女に、こう言う人だったなと思い直す。感情と合理を天秤に掛けて優先する方を選択出来る。底が見えない、心の内が見えない、けれどもその行動には何処か善性は垣間見える。そんな人。これで同い年なのだから恐ろしくも頼りになる。

「分かった。兎も角先ずは状況を見定める必要があるのね。」

「そゆこと~、んじゃ、専門家連れて行こうか。」

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