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焔心の鐘声 鎮火

午後7時、ギリギリで警備配置を終えてその時間を迎えた。

「時間だ。総員、気を引き締めろ!」

ガスマスクを装着し何処から現れるかも分からない怪盗に備える警備に声を掛けるのは坂口警部。緊張が高まるホテル内。時雨の部屋の前は勿論の事、エントランス等の出入口となる場所の警備も欠かさない。流石に部屋の中までは入っていないが、窓からの侵入に備えてヘリも飛んでいる。

そんな中、フロアの照明が一斉に落ちた。そして一つの悲鳴が響き渡った。

何事かと駆け付けた先は矢張り時雨の部屋。中から勢いよく扉を開けた時雨はこう叫んだ。

「宝石が!怪盗アルセーヌに宝石が盗られました!」

「何!?奴は何処へ!?」

目を見開く坂口警部が空かさず聞くと彼女は一つの窓を指さした。そちらに目を向けると黒いハンググライダーが飛んでいるのが僅かに見えた。

「あの窓から外へ!早く追って下さい。大切なものなんです!」

そう彼女が必死に訴えると坂口警部は「分かった」と頷き、警備に黒いハンググライダーを追うように指示を出した。そして警備陣は慌ただしく外へと出て行く。

そんな中、家達探偵はその場に残り、静まり返った室内で彼女に声を掛けた。

「お前、アルセーヌだろ。」

「…あら、どうしてそう思うのですか?」

「僅かに身長が高いんだよ。感謝しろよ?今回はお前と沖田さんの思惑に乗ってやろうと思って、わざわざ警備が捌けてから声掛けてやったんだから。」

「思惑?」

キョトンと首を傾げる彼女に、家達探偵はギラリと目を輝かせた。

「お前等の…否、これは沖田さんの、と言った方が正しいかもしれねぇが、思惑はこうだ。

雑誌に自分が本能寺で拾った宝石を載せる事でそれを自分が持っている事を全国にアピールし、アルセーヌに盗ませる事で消失させる。

それによって窃盗団の連続焼死事件を終わらせようとしたんだろう。」

「何故、宝石が消失する事で連続焼死事件が終わるんですか?」

相変わらず涼しい顔で微笑む時雨。それを気にした様子も無く家達探偵は続ける。

「それには炎のエンブレムを持つ宗教団体が関係している。彼等は本能寺跡地から出土した宝石を求めていた。それは仏像にはめ込まれ現在の本能寺に納められている。折を見て盗み出そうとしていた彼等だったが、ある者達に先を越されてしまった。

それが、例の窃盗団だ。しかし彼等窃盗団は素人で直ぐに警察に捕まってしまう。更に仏像を盗み出す途中ではめ込まれた宝石を落としてしまっていた。

それを拾ったのが沖田さんだ。

だが、彼女が拾った事を知らない教団は出所した窃盗団を狙いだした。彼等の盗品から宝石が出てこなかったから隠したとでも思ったんだろうな。知らないとしか言わない彼等を一人一人殺していったんだ。

そして、その意図を察した沖田さんは今回の策を講じた。神出鬼没の怪盗の手に渡ってしまえば手出しは難しいし、何より誰が持っているかがはっきりしていれば無関係の人間に牙が向くことは無い。怪盗からの予告状が届けばその宝石がどんな物なのかも、盗まれた事も報道されるからな。」

「アルセーヌが盗みに来なかったら私が被害を被る事になります。そんな危険は冒しませんよ。」

「そんなもん偽の予告状を作るなり、清水令嬢みたく挑戦状でも叩き付けるなりすれば良いだけだ。そうすりゃお前は必ず来るだろ?」

家達探偵は挑戦的に笑った。それに対し、目の前の彼女もニヤリと笑う。それはもう認めたも同然だったが、答えたのは彼女ではなかった。

「お見事!流石は有名な探偵さんですね。」

部屋の奥から現れたのは正真正銘、沖田 時雨であった。近付いて来た彼女は怪盗にあっさりと宝石を手渡した。

「探偵さんも見逃して下さるようですし、お願いしますね。」

「ええ、お任せ下さい。…良いんですね、家達探偵。窃盗現場を見逃して。」

宝石を受け取った怪盗は窓辺まで移動し、再度探偵に尋ねる。しかし彼は呆れた様子で肩を竦めた。

「これじゃあ窃盗じゃねえ。合意の上での譲渡だよ。それに生憎俺は警察官じゃないし、法律より人命を優先する主義なんだ。」

「それでは私はこの辺りで失礼致しましょう。」

探偵の返答に薄く笑った怪盗は懐から取り出した布を翻し瞬く間に彼本来の衣装に着替えると、そのまま窓から逃げて行った。

(ダミーにはよくハンググライダーに見えるもん付けてっけど本人もちゃんと使うんだな。)

そんな場違いな感想を抱きつつ、探偵も部屋を後にする。

「お気を付けてお帰り下さい。」

「はい。貴女も気を付けて。」


◇◆


時雨一人になったホテルの一室。暫く一人で過ごしていた彼女のもとに扉からコンコンとノックする音が届いた。

「はい。どうぞ。」

予め誰が来るのかを理解していたように彼女は扉前の人物を迎え入れた。

「おつかれ~沖田ちゃん。」

「お手伝い頂き有難う御座いました。そちらは如何です?」

「まあ得る物は有った…かなぁ。」

煮え切らない返事をしながら入って来たのは白い静謐。その返答に不満げに眉を顰めたのは時雨の方だった。

「貴女が彼の人柄を確かめたいと言うから、態々彼の目の前で人を殺すフリまでしたのですが?」

「う~ん…彼、超真面目に止めたよね~。」

不可解だとでも言いたげな白い静謐に、時雨は自身の服をまさぐり親指くらいの大きさの機械を取り出しながら付け加えた。

「あれが演技だとは思えませんよ。聴いていたなら解ると思いますが。」

「…そう、だよねぇ……もうちょっと色々考えてみるよ~。ありがとね。」

欠伸をしながら機械を受け取ると、彼女は「じゃあね~」と手を振り部屋を出て行った。

彼女が顔を出したと言う事は近いうちに教団の件は解決出来るだろう。明日はゆっくり出来るなと安心して時雨は眠りについた。


後日、案の定白い静謐から電話で連絡が有った。翌日には本拠地に乗り込んで解決したのだと言う。勿論、彼等の主戦力であった祝福は力を失っていたらしい。また、この案件は表には公表されず秘密裏に公安が処理しているとの事。

「何はともあれ丸く収まって良かったです。…ところで、怪盗アルセーヌがどうやってアーティファクトを無力化しているのか、貴女はご存じですか?」

『あ~知ってるけど~…』

「けど?」

『参考にはならないよ~。厳密に言えば彼の力じゃないし。あの人中々門を開けてくれないんだよねぇ、困った事に。』

「誰かの力を借りていると?」

『まあね~。と言うか、橋渡しになってくれてるって感じかなぁ。“怪盗アルセーヌ”じゃないと受け取って貰えないんだよ。だからここ六年くらいすっごく大変だったんだ~。』

軽い口調で言っているが、大分重要な事なのではないだろうかと思いつつ時雨は相槌を打つ。

「それはそれは…私も此方の界隈は新参者ですから、存じ上げていませんでした。」

『…まあ、そんな感じだから遺された燈火教団に関してはもう大丈夫だからね~。じゃあ。」

「ええ、何から何まで有難う御座いました。」

そう言って電話を切ると時雨はほっと安堵の息を吐いた。

正直に言えばここまで上手く行くとは思っていなかったのだ。

五年前に拾った奇妙な宝石が二ヶ月前から鐘の音を響かせ始め、いよいよ不味い事態になったと思い白い静謐に相談したのが事の始まりだった。その内に宝石が焔心の鐘声と呼ばれるアーティファクトである事、遺された燈火教団が狙っている事などが判明しそれならば餅は餅屋に、とこの計画が立ったのだ。具体的に言えば、会場の警備は警察に、アーティファクトの無力化は怪盗アルセーヌに、遺された燈火教団の一時的な武力制圧は私と白い静謐に、そして彼等の最終的な対処は公安に、と割り振った。その為に私は警察相手に口八丁で丸め込む様に努力したし、白い静謐はコネを使って公安を引っ張り出したらしい。

想定外だったのは怪盗アルセーヌが自分の方に来てしまった事。尤も、白い静謐はそれも想定していた様だが。

奇妙な事に、彼女はそれが想定出来ていてなお怪盗アルセーヌの人柄を知りたがっている。計画に支障は無いだろうから良しとしたものの、その為に道着に盗聴器を付けると言い出した時には驚いた。小林探偵事務所への依頼も彼女が言い出した事だし、何を考えているのか分かったものではない。

まあ、その辺りは私には関係の無い事なので、大人しく彼等に借りを返す方法に思考を切り替えたのだった。

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