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賢者の血晶 黒化

『6月24日午後10時、絡繰り館の賢者を頂きに参上致します。

                      怪盗アルセーヌ』


ペアシェイプカットを施された血のような深紅の宝石。古くから不老不死をもたらす石として言い伝えられて来た賢者の石の正体とも言われる辰砂(シナバー)である事からそんな異名が付けられた宝石を怪盗アルセーヌは盗むと予告した。その名を“賢者の血晶(けっしょう)”。

そして絡繰り館とは、賢者の血晶の所有者である出雲 修(いずも おさむ)氏が展示場所として希望した彼が持つ西洋館。如何やら大富豪、天羽 鶴寿(あもう つるとし)氏の遺産らしい。その名の通り絡繰りが仕掛けられており、彼が持つ施工図に載っていない秘密通路なんかも有ると言うのだから全貌が把握出来ていないのだと言う。勿論、坂口警部率いる警備陣はその有様に苦言を呈した。不利にも程が有る、と。


(まあ、私も全ては把握出来ませんでしたが…)

そう思いつつ小林親子と秋津と共に絡繰り館にやって来ていた。内装はシャンデリアに意匠の凝らされた柱や壁など、大富豪の遺産と言うだけあって豪華絢爛な造りになっている。そして、その一角に展示ケースが鎮座している。相変わらず小林探偵の付き添いで来ている佳澄や私も宝石を見せて貰えると言うのだから有難い事この上ない。

「へぇ、これが賢者の血晶ですか。」

「キレー!ね、翠!」

「あ、あー綺麗だな。」

関心した様子で見ている探偵達や綺麗だと興奮している佳澄には悪いが、間近でよく見てみるとこれは偽物だなと確信した。綺麗過ぎるのだ。

良く出来た偽物…唯の硝子細工だ。まあ硝子細工として見ればそれはそれは見事な物なのである意味価値は有りそうだが。そういう意味ではとても綺麗なものだから、気の無い返事も嘘ではない。

そんな風に見ていれば後ろから声が掛かった。

「美しいでしょう?とても千年間眠っていた秘宝とは思えないくらいには。」

「ええ、とても。本日はご依頼頂き有難う御座います。出雲さん。それに、娘達にも宝石を見せて頂いて。」

「いえいえ、今日はよろしくお願いします。」

振り返ればスーツ姿の優男、依頼主である出雲氏と彼に対応する小林探偵の姿。

(千年間眠っていた秘宝、ねぇ…ペアシェイプカットが可能になったのは13世紀からの筈。千年前には無かった技術なのですが。)

何とも酷い墓穴を掘ってくれたものだ。偽物で確定してしまった。その一言で秋津も宝石を見る目が変わったではないか。流石にそんな時代にこんなカットが出来るのかと疑いを持っている。

さて、盗む価値の無い物は無理に盗まなくても良いだろう。予告時間より4時間前、今なら警備も油断しているだろうし予告は撤回してしまおう。

「ちょっと俺トイレ行って来るー。」


◇◆


「わあ!停電!?」

「何!?」

「おや?」

突如照明が落ちた展示会場にどよめきが広がる。何せ時刻は18時20分。怪盗の予告時間には早すぎるからだ。あの怪盗は妙に律儀なところが有り、一度予告した日時は破った事が無い。では一体誰の仕業なのか。そんな混乱の中、姿を現したのは見慣れた燕尾服。

「アルセーヌ!貴様、今何時だと思っている!?」

一番に反応したのは矢張り長年彼を追っている小林探偵であった。そんな彼に対して、怪盗はケースの横に優雅に佇み答える。

「18時20分。予告の3時間40分前ですねぇ。」

「予告を破る気か?貴様らしくもない。」

「ええ、そうですねぇ。今回は予告を撤回しようかと。何せ…流石の私も偽物を盗む趣味は御座いませんので。」

失礼致します、とお辞儀をした彼。その言葉に怒りを覚えたのは当然出雲氏であった。

「予告を破って現れたと思えば偽物呼ばわりですか。随分と失礼な方だ。」

彼が言った途端、ガコンッと何処からか音が響いた。そして…

「…なっ!」

「へ?」

怪盗の足元、正確には展示ケースの周囲の床が下に開いたのだ。間一髪でワイヤーガンを天井に撃ち込んだ怪盗だったが、巻き込まれ足を滑らせた佳澄を見て彼女を庇う為に抱きかかえて落ちて行った。少なくとも秋津にはそう見えた。

そして、人二人と展示ケース一つを落とした床は何事も無かったかのように閉じ、元の床に戻ったのだった。


◇◆


落ちる。

そう思った時、咄嗟にワイヤーガンを撃ったが視界の端に足を滑らせ落ちて行く幼馴染の姿を見てしまった。自分だけなら助かるが、彼女にその手段は無い。だから、助けないと言う選択肢は無かった。この絡繰りだらけの館の地下に彼女を一人にするなんて考えられなかったのだ。例え、どれだけ怪盗アルセーヌ(わたし)に不利な事態になろうとも、在瀬 翠(おれ)は彼女を見捨てられないから。

ワイヤーを思いきり引っ張り杭を抜きつつ体制を変え、佳澄を抱きかかえて自分が下になる様にして落ちた。

ガッシャーン!

タイル張りの床に落ち、何とか受け身を取ったと同時に展示ケースが真横に落ちた。砕けて飛び散る硝子から佳澄を庇い、彼女に大きな怪我が無い事を確認出来れば一安心。直接頭を打ってはいないが、衝撃で脳震盪を起こしているらしく気を失っているようだが直に目を覚ますだろう。

(大した怪我が無くて良かった…貴女を失う訳にはいかないから。)

言葉には出せなかったが代わりに安堵の息を吐いた。

さて、脱出する為はこの地下を探索しなければならない。白いこの部屋を見渡してみれば、展示ケースの近くに一枚のメモ用紙が落ちていた。拾い上げて見てみれば「ここを出たければ謎を解くけ」と書かれていた。

「成程、最初からこの心算だったという訳ですか。」

恐らく出雲氏はこの地下にある本物を手に入れる為に怪盗アルセーヌを利用しようとした。私はその罠にまんまと嵌ったという訳だ。そして、佳澄を巻き込んだ。

それにしても打ち付けた右肩が痛い。受け身を取ったとは言え人一人を抱えて結構な高さから落ちたのだから当然ではある。むしろ骨に影響が無さそうな自分の頑丈さを褒めたいくらいだ。

軋む体に鞭を打って不敵な笑みを作る。佳澄が身じろいだのが見えたからだ。

「お目覚めですか?お嬢さん。」

「か、怪盗アルセーヌ!?っていうかここ何処!?」

目を覚ました彼女は私を見て目を白黒させて仰け反った。これだけオーバーなリアクションが出来るなら問題ないか。

「如何やらあの館の地下の様です。それと、展示ケースの付近にこれが。」

「そっか落とし穴…って事はもしかして私、貴方のついでに落とされたの!?」

「そういう事になりますね。申し訳御座いません。」

「も~しょうがないわね。」

彼女は普段あれで居て頭の回転は速い方なのだ。紙の内容と周囲を見て大体の事情を把握した様で、少なくとも私を捕まえる事よりこの地下を脱出する事を優先する事に決めたらしい。彼女は立ち上がって周囲を見渡した。

そんな彼女に倣って、私も深々と下げた頭を上げて再度探索を始めた。


◇◆


一方その頃、展示室では消えた怪盗と少女の捜索が開始されていた。出雲氏から警察に提出された館の地図に地下の存在は記されていなかった為、警備陣は大慌てで地下への入り口を探しに行った。出雲氏もどうしてこの床が開いたのか分からないのだと言うのだから仕方が無い。

そんな現場のエントランスに遅れてやって来たのは家達探偵。遅れて、とは言え予告時間より3時間半も早いのだが。彼は騒然とする現場を不思議に思い、丁度良くその場に居た秋津に状況を訊く事にした。

「あっ!秋津さん。何が有ったんですか?未だ予告時間じゃないですよね。」

「ああ、家達君。来ていたのかい。実はね、さっき怪盗アルセーヌが現れたんだけど予告を撤回するって言ったんだ。曰く、宝石が偽物だからと。でも、その直後に展示ケース周辺の床が下に開いてケースごと落ちて行ったんだ。しかも、足を滑らせた佳澄さんも一緒にね。」

「ええ!大変じゃないですか!」

「そう、だから皆大慌てで探してるんだよ。勿論、僕もね。」

「成程、なら俺もこの館を見て回りますよ。絡繰り館って言うくらいだからきっと何処かに地下に繋がる通路が有ると思うので。」

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