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エバーグリーン・バースデー

『6月1日午後7時、不朽の瑞草を頂きに参上致します。

                      怪盗アルセーヌ』


6月1日、エバーグリーン呼ばれる、大粒のスフェーン。怪盗アルセーヌはそれを盗むと予告を出した。

のだが…この日は佳澄の誕生日。何かと祭り好きな彼女は毎年、親しい友人を誘って彼女の家でパーティーを行っているのだ。当然、俺も毎年参加しているわけで。予定がブッキングしているのだ。何方もチャンスは今日一日。両立する計画を立てるのにはそれなりに苦労した。

ポロロン♪

細い金属製の鍵盤を爪で弾けば温かい音色が響く。もう少し格好の付く物の方が良かっただろうか。しかし、元々音楽には明るくない自分が扱えてかつ嵩張らない楽器は他に思いつかなかった。これは仕掛けも比較的楽だし…とこの数日間で習得した楽器_カリンバを何気なく鳴らしていた。

「みーどーり!今日、来るでしょ?」

「おう、佳澄か。ちょっと用があるから遅くなるけど、パーっと盛り上げてやんよ。」

そう言ってポンっとカスミソウを出し、それを手の中に隠すと今度は蝋燭型のライトを出現させて渡す。

「うん!約束だよ!」

佳澄は嬉しそうに頬を緩めた。


◇◆


展示場。何時も通り坂口警部が指揮する警備隊が睨みを効かせている。しかし、何時もとは違い家達探偵は居なかった。おや?と思ったもののすぐに見当がついた。大方、佳澄の誕生日会に呼ばれて断り切れなかったのだろう。小林探偵が居るのは仕事であると言う違いからか。

さて、此方もさっさと終わらせて彼女の誕生日を祝わなければ。

早速警官の一人に扮して紛れ込んだ。


◇◆


ハッピー バースデー トゥーユー♪

ハッピー バースデー トゥーユー♪

ハッピー バースデー ディア 佳澄~♪

ハッピー バースデー トゥーユー♪


楽しそうな歌声が響く一室。小林探偵事務所の応接室を貸し切りにして佳澄の誕生日会が行われている。彼女はホールケーキに立てられた蝋燭の火を吹き消して嬉しそうに笑う。

「皆、来てくれてありがとう!」

呼ばれて断り切れずに来たものの、意外な事に数名居るクラスメイトの中には彼女の幼馴染の姿は無かった。

「おめでと、小林さん。」

「ありがとう!家達君。アルセーヌよりこっち優先してくれたんだ。」

「まあね。寧ろ在瀬が来てないのが意外だったよ。」

「あー、用事が有って遅れるんだって。」

そう答えた彼女は少し寂しそうに見えた。


◇◆


何時も通り警部達をやり過ごし、飛ばしたダミーを追い駆けて行く彼等を見送ってから屋上へ出る。すると、予想通り突き刺す様な殺気を漂わせる集団が姿を現した。彼等の先頭に居るリーダー格の男には見覚えがあった。

「怪盗アルセーヌ、手を引けと言っただろう。我々は何度でも貴様を殺すぞ。」

「随分と熱烈なラブコールですねぇ。申し訳ありませんが今宵は急用が有りまして、貴方方に構っている暇は御座いません。これもアルカナではない様ですし…見逃して頂けませんか?」

「戯言を!」

返答の分かり切った問を悠然と投げ掛けると、挑発だと勘違いしたのか激昂したリーダー格の男は銃口を向けて来た。

(まあ、そうなりますよね。)

「仕方ありませんね。」

此方も彼に銃口を向ける。今宵の弾はちょっと特別なトランプ。コインよりクセは強いが対人戦になるなら此方の方が向いているのだ。

先に動いたのは彼方だった。

「撃ち殺せ!」

男が指示を出せば、周囲の者達も容赦なく銃口を向けて来る。

撃鉄が起こる瞬間。マントを外し、広げて投げつける事で目隠しにしてしゃがみ込む。弾丸が頭上を過ぎるのを感じつつ、カードを撃ち込む。

動揺しつつも撃って来る弾を最低限の動きで避け、煙幕を張る。

「それでは、痺れ薬の味を存分にご堪能下さい。」

そう言い残し、人通りの少ない路地に向けて飛び降り、パラシュートを使って難なく着地した。

目立たない服装に着替えてから急いで博士との合流地点へ向かうと、白いミニバンが停まっていた。助手席側の窓をノックすれば彼は私に気が付いた。

「おお、遅かったしゃないか。怪我は無いかね?」

「わりぃ博士。ちょっととばしてくれ。」

車に乗り込み時間を確認すれば19:45。思ったより時間が掛かってしまった。佳澄の誕生日会はメンバーに女子が多い事や翌日が平日である事を考慮して20時頃には終わってしまうだろう。

あと15分。法定速度では間に合わない。


◇◆


夜も更け、あまり遅くなってはいけないからそろそろ誕生日会もお開きにしようかと思い、皆に声を掛けた。

「皆、ありがとね。そろそろお開きにしよっか。」

「良いの?まだ翠君来てないけど…」

「良いのよあんなヤツ!用事有るって言ってたし…」

結衣が気遣ってくれるが、つい強がった言葉が出てしまう。お父さんも居ないし寂しいと思ってしまうところもある。けれども、皆を引き留めてしまってはいけない。笑顔で見送ってから、部屋に戻った。

(何やってんのよ…翠のバカ!)

後片付けを終わらせて心の中で毒づいた時、携帯に着信が入った。誰かと思って確認すれば翠からだった。

「もしもし、翠?」

『遅くなってわりぃな、佳澄。間に合いそうにないから電話で…』

「もう!良いわよ、用事有ったんでしょ?」

『ああ、ごめん。今終わったとこだよ。んでさ、今朝渡したヤツ、持ってっか?』

「うん。あの蝋燭みたいなランプなら飾ってるよ。」

『よし!んじゃそれ部屋の真ん中辺りに置いて、電気消して、通話をスピーカーにしてくれ。』

「?わ、分かった。」

言われた通りにランプを置いて電気を消した。そして、通話をスピーカーにしてから話し掛けた。

「できたよ。何するの?」

『まあまあ、見てろよ。』

そういった後、電話越しに聞こえたのはカリンバの音色。それと同時にランプが光る。

「わあ…!」

驚いていると、今度は「Happy birthday to you」を奏で始めた。彼の下手くそな歌唱付きで。

するとその音楽に合わせてランプが光り、3Dホログラムが浮かび上がる。「Happy birthday」の文字と共に花火が上がる演出になっていた。

思わず歌が終わるまで見入ってしまった。

『Happy birthday to you~♪

おめでとう!これが俺からのプレゼントだ。ほんとはそっちに行って直接見せる心算だったんだけど…どうだ?』

「ありがとう!すっごく綺麗だった!」

『そっか、そりゃ作ったかいが有ったぜ。』

綺麗なホログラムだけでなく、お世辞にも上手とは言えない演奏と歌も翠が私のためにこれを考えてくれていたと思うととても嬉しかった。

「ねえ、翠。来年は翠の誕生日も一緒に祝って良い?」

『……それは、来年の俺に聞いてくれ…』

「…そうだよね。」

何となくそう言われる事は分かっていた。来年は渡せると良いなと思いつつ、押し入れを見つめた。

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