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「お、お前達何者だァ!?」
横たわる僕達を中心に囲んだ群衆を背後に、その男は数歩前へと歩き出すと叫んだ。
地面に這い蹲りながらも、丁度目線でその声の主の素顔を確認できるのは、相手がご丁寧に僕の頭上から声を発したからである。
容姿はいたって普通だった。――スキンヘッドという所以外は。
盗賊国家というくらいだから、物資とか金銭とかに困って貧相な格好をしているのかとも思ったが、その服装を見た後ではそうでも無いのか――という感想が出てくる。
僕はさっきの着地による衝撃が災いして、気絶しているかもしれないという不安を抱えながらも、ジョーカーに対して「お前は話をややこしくさせるだけだから、何も喋らないでくれ」っとだけ告げる。
「おウ、分かっタ」
いつものおちゃらけた陽気な声色で、返事が返ってきた。
どうやら無事だったようだ。
それにしても物分りが良いよなコイツ。
こういうキャラってだいたい無鉄砲に突っ込んで騒ぎを大きくさせるタイプだろ。――なんて事を思う。
こんな状況だと言うのにも関わらず、ここまで僕に余裕があるのは、根底にある天からの恩恵に対する理解が誰よりも優れているという自信からである。
「えーコホン。
それがぁ〜僕にもぉ〜分からなくってぇ〜。
記憶喪失……みたいな?
なんかそんなやつでぇ〜、見逃してくれませんかねぇ〜?」
「……連れて行け」
冷酷なトーンで慈悲を感じられない。
これが盗賊国家か。末恐ろしいな。
そうして僕達は檻に入れられた。
◆◆◆
「――お前……嘘下手だロ」
灯りは蝋燭のような淡い炎が一点だけ――錆びた鉄の臭いが充満している地下牢獄にて、ジョーカーがそう言った。
「仕方ねぇだろ?
お前が止まらなかったのが悪い」
こんな所で責任転嫁をしても、性格の悪さを晒すだけだとは思うが、事実である。
それにジョーカーとは、もうそんな事を気にするような仲でもない。
人によってはまだ、浅いと感じるかもしれないが、少なくとも僕はこいつの事を信用している。
「いやーまさか俺モ、こんな事になるとハ……」
人差し指の爪先で、頭をポリポリと掻きながら言う。ちっとも反省しているとは思えない態度だが、僕がそこを問い詰める事は無い。
「じゃあ、ここはお互い様ということで一杯……できるものは何も無いけど……」
アリバへ出向く為に、色々と荷物を持ってきたのだが、現在それらは全て没収され、手元には何も無い。
幸いにも、鞄の中身に見られて困るような物は入ってないから、構わないけど。
にしても僕たち、
「これからどうなんのかなぁ?」
「マ、あのおっさんの話通りなら、殺されて終わりだナ」
「アーメン」
淡々と起こりうる自身の未来について語るジョーカーに、意味も分からない宗教用語で返答する。
そんな感じで獄中に静寂が訪れた。
◆◆◆
「鞄の中には何が入っていた?」
木屑が蔓延するボロ屋の中で、スキンヘッドの男が細身の男に向かって尋ねている。
「衣類と眼鏡と……後眼帯なんかもありますね。
変わった荷物だな……」
細身の男はリュカの鞄を漁りながら、一つ一つ物を取り出し確認する。
眼鏡をかけようとした所で、ある違和感に気づいた。
「あれ?この眼鏡、度が入ってないですよ?
不良品かな?」
「度が入ってない?あぁ、伊達メガネか。
主に変装でよく使われているやつだ。
となると、奴らの正体は何処かの刺客の可能性が高いかもな……」
「え?あんな子供が……ですか?
いや、流石にあり得ないですよ」
「あり得ないことなどあり得ない。
なぁドリ、人を見た目で判断するのは早計だぞ?
現に俺らは、それで一度痛い目を見ているじゃないか」
ドリ――それが細身の男の名前である。
ドリは「すみません」と小さく謝り、再び鞄の中身を確認する作業に戻る。
スキンヘッドは考える。――あの子供が何処かの刺客だと仮定して、奴のとなりにいた変な馬面の男は何だ?と。
人間として見ると妙な不快感が湧いてくるのは、その顔が馬とそっくりである他に、背中には有翼馬のような翼が生えているからである。
かと言って動物として見立てても、二足歩行で言語を操るという部分から、やはりまた同じ不快感。
同じ感情になるような生物がいる事を俺たちは知っている。
「奴隷か……?」
奴隷とは、主に獣人などの亜人を対象とした道具同然の私有物である。
この国に流れ着いた獣人がアリバ人との間で身ごもった事による迫害から始まったとされている。
亜人は、人間だけではなく魔獣や植物など全ての生物との交配が可能だったため、その数は大々的に増えていった。
あの人馬には、それらと同じ雰囲気を感じる。だが、どうしても拭いきれない違和感がある。
「なんだ?何なんだアイツは??」
脳内がただの奴隷で片付けてはいけないと、忠告しているかのようだ。
そして同時にスキンヘッドには、ある疑念が生まれていた。
――こんな生物は今まで見たことがない。となれば、創れる奴だ。
そんな技術を持っている国は、自身が知っている中で一つしかなかった。
疑念、というよりかはほぼ確信と言っても過言では無い。
「おい、他に何かないか?」
その確信を証明する為、スキンヘッドは再度、鞄の中に怪しいものが無いかをドリに尋ねた。
「あぁ、それなんですけど、こんな物がありましたよ?」
そうして取り出されたのはPVCで作製された一枚のカードだった。
「このカード、それにこの材質……」
スキンヘッドはカードの表面をコツコツと弾き、その材質を確認する。
明らかにこの国では存在しない材質だ。――そう確信していた。
盗賊国家アリバは、鎖国しているという事もあって、文明の発達が他国よりも劣っていた。
だから、カードという物自体が珍しい物ではあった。だがそれも、貴族達には当たり前のように使用されている物である為、下民からすれば珍しい、の話にすぎない。
だが問題は材質だ。
貴族達が持つカードは高値で売れる為、略奪や強奪の中心物になる事が多い。
現にスキンヘッドも一度や二度ならず、幾度となく盗みを働いてきた為、そのカードの全てが紙で造られた物であると理解していた。
だがこのカードは――そうして裏面を確認すると、五芒星が刻まれた紋様を見つけた。
……確定だな。
「おい、ドリ。奴らの所在が分かったぞ。
これから処遇を決めに行く、ついてこい」
「え?もうですか?
相変わらず早いですね」
足早に歩くスキンヘッドには、まだ不安な要素が残っている事が見て取れる。
ドリはそんな考えを浮かべながらも決して聞き出す事はしない。
そうして二人は地下牢獄へと赴いた。
エタ




