12
やって参りました左列。
早速一匹目から見ていこう。
一匹目は、ラクダのような馬だった。
というかどう見てもラクダだ。ラクダにしか見えない。
背中に二つのコブを乗せたフタコブラクダ。
「あの、これは?」
「この子はね、主に砂漠とかの乾燥地帯で使われる乗用馬なんだ。
だから他の飛馬と比べても、飛行速度は断トツで遅いの。
今回に関しては一番オススメできないね」
「あのー、これはラクダじゃないんですか?
馬とは違いますけど……」
前世の単語が異世界で通用するのかは不明だが、疑問に思ったので聞いてみる。
「そうだね。確かにラクダは馬とは違う」
一応、通じてはいるみたいだ。
「じゃあ何で?」
「ここにいる魔獣達は皆、有翼馬の血を引いてるんだよ。
だから翼も生えてるし、一見馬じゃないように見えても、ウマ属に分類される。このラクダも同じだよ」
「なるほど……なんというか圧巻ですね」
ここぞとばかりに発揮されている天才ぶりに感服する。
次々と新種の魔獣を生み出すその姿は、正に生命の創造主と呼べるだろう。
そんな先輩だからこそ、やはり気になる所もある。
「先輩って全ての魔獣のハイブリッドやハーフを創れたりするんですか?」
そう、もしこれを可能としてしまうのならば、ラパンボーマのような兵器が創り出されてもおかしくない。
先輩のその技能が他国に渡ろうものならば、世界はたちまち破滅の道を歩むことにもなるだろう。
それを防ぐ為にも、この話題は避けては通れないのである。
「んー、現状は無理だね。
遺伝子情報がハッキリしていない魔獣とかもいるから」
その言い方だと、遺伝子情報が分かれば創れるように感じるんですが。
まぁ、何はともあれ安心ではある。
先輩の今後には期待が高まるが、同時にマークしておく必要もあるだろうな。
――続いて二、三、四と流れていき、五匹目だ。
その馬を一言で表すならば、ユニコーンとペガサスのハイブリッドだった。
なんなら、今まで見てきた中でも一番貫禄がある。
艶のある白銀の毛並みはもちろんのこと、長く突き出た螺旋状の鋭利な一角は、毀れを知らない程に研がれており、一ミリでも触れれば傷がつき血が溢れ出るだろう。
背には、人二人分くらいなら軽く包みこんでしまえそうな華々しく巨大な両翼をこしらえている。身体に纏われる膨大なオーラは、今まで見てきたどの魔獣よりも優れており、生態系ピラミッドでは確実に頂点に君臨するだろう。
更には、心做しかどの馬よりも整って見える顔つきは全ての雌を虜にしそうだ。
これが神話の物語だといわれれば、誰もが信じてしまうだろう。
「せ、先輩!!なんですかこれは!?」
我を忘れ、感極まりながらも、説明を求める。
「落ち着いて落ち着いて。
この子は突然変異で生まれた一角獣だよ」
ラパンボーマと同じ突然変異体ということか。
という事はもしかして――、
「国を滅亡させられる力を持つんじゃないか――って考えてたでしょ?」
「え?先輩もあの国のことを知ってるんですか?」
確かあの書物の裏表紙には禁書庫と記載されてあったはず。
そこから考えても、到底閲覧できる代物じゃなさそうだけど。
「絶滅魔獣ラパンボーマ。別名破滅を呼ぶ魔獣とも言われているっけ。私も実はね、君くらいの時に学園長から見せられたんだよね。
何でも国王がこの魔獣の復活を求めているから、生み出せないか?って。
私は無理だって断ったんだけどね」
ここにきての国王か。
国王ともあろうものがあの惨劇を知らないわけじゃなかろうし……。
ラパンボーマの復活か、あまり良いことではないのは確かだろうな。
「でもまぁ、この子に関しては安心していいよ。
危険なのはこの角だけだから。
それにほら、私にはめっちゃ懐いてる」
フレア先輩が一角獣の方へと手を伸ばすと、目をほそめて頭や鼻をすり寄せていた。
――ユニコーン。
それは非常に獰猛で、処女を好むとされている神話上の一角獣だ。中には翼が生えていたという話もあるが、それはペガサスと呼ばれる別の天馬の特徴であり、本来のユニコーンには無い。
「あのー、つかぬ事をお聞きしますが、フレア先輩って男性経験は?」
深い意味は無い。
ただ、ユニコーンの伝説をこの目で調べる為だ!!
だから断じてそういうつもりはない。
「ふぇっ!?な、なに急に?
ないよ、ないない!!絶対にない!!」
そこまで念押しされても逆に困るんだけどな。
赤面させながらも、答えてくれるフレア先輩。
可愛いね。うん可愛い。だけど声に出して言える程まだ主人公精神逞しくないので胸の内に留めておく。
「ありがとうございます」
だが、お礼はちゃんと言う。
何に対してのお礼なのかは自分でもよく分かっていないけどね。
――って、そんな事はどうでもいいんだよ。
元々僕は神話の証明をしようとしてたんだ。
「あの、フレア先輩。
この一角獣は男を嫌うとかってありますか?」
「え、よく知ってるね。
その通り、この子は男性を極端に嫌うんだ。
だから君もあんまり近づきすぎると危ないよ」
やはりあの伝説は本当だったのか。
てなると、当然僕が気に入られるはずもないよな……。
そんなことを考えながら、僕は一角獣の瞳を見据える。
その巨体とは裏腹に瞳はつぶらで愛らしい。
すると一角獣は僕の方へ歩いてくる。
ちょっと見すぎたかな?
この一角獣も魔獣の一種なら、僕のオーラが視認できるはずだよな。
威嚇と勘違いされたらどうするか。
以前から莫大なオーラと短躯な外見が釣り合っていなかった僕は、魔獣に餌だと勘違いされる事が多く、よく襲われていた。
その度に激戦を繰り広げては、死線をくぐり抜けてきたものだ。
まぁ、もし僕がこの魔獣に殺されるような事があれば、フレア先輩には申し訳ないけど、全力で対処させてもらおう。
僕の魔獣に対する恐怖心は、長年の戦闘と十年間の天からの恩恵の研究で、すっかり失われていた。
今ならどんな魔獣が相手でも、しっぽを巻いて逃げることはしないだろう。
さぁ来いよ、と泰然自若で待ち構えていたのだが、僕のそんな考えとは裏腹に一角獣は頭を擦り寄せ甘える仕草を見せていた。
それを返すように僕も頭を撫でる。
まさかの両刀でしたか。
とんでもなく逸材だよこの子は。
「嘘でしょ?珍しい!!
この子が男の子に懐くなんて初めてだよ!!」
フレア先輩の歓喜を度外視で、僕はこの魔獣に対しての熟考をしていた。
これでも研究者の端くれ、魔獣に関する興味は一般人よりもある。とはいえ僕の本命はエナジーなんだけどね。
結論からすると、この子はユニコーンじゃない。
でもそうだよな。
本来のユニコーンには、翼なんて生えてないし。その上男にも懐くとなった以上もうそれは別の何かだ。
そうなるとこの子は何なんだ?
角もあるからペガサスとも違うわけだし。
いや、だからこその突然変異なのか。
「あの先輩、この子って名前あるんですか?」
「ちゃんとした名前は全員ないよ。
研究中はナンバー563で通ってたから」
これでも先輩は研究者だ。
数多の魔獣を研究してきた先輩にとって、魔獣とは研究対象の一環にすぎず、名前を付けること自体が億劫で非効率なのだろう。
それに対してあれこれ言うつもりはないし、僕自身も魔獣を研究していた時期があったから、煩わしいのも理解できる。
だがどうしても、名前を付けてあげたくなったのだ。
新奇な容姿をしているとか前世で影響された伝説とか、深く考えれば色々と理由はあると思うが、今述べるとしたらただ一つ。
単に僕がこの魔獣を気に入ったからだ。
「先輩、この子に名前つけても良いですか?」
「――?いいけど何で?」
「……気分です」
そうして僕は『スランダー』と命名した。
特に深い意味はない。
「どうですか?先輩」
「良いと思うよ。
かっこいい感じするし、この子も気に入ってると思う」
「それはよかった」と胸中で一言。後数ヶ月も経てば、アリバへ出立するというのにも関わらず、僕の心はどこか落ち着いている。
それどころか、今のこの現況を楽しみつつあった。
その時――、
「ヘイヘイヘイヘーイ!!
オイラにも名前を付けてくれヨッ!ヒッヒーン?」
今この場で言葉を話せる人間は、僕と先輩の二人しかいないはずなのだが……三人目の声が耳に入った。
何だこのウザったく陽気な感じは。
「先輩、僕の耳が正常なら、
今声が聞こえたと思うんですけど」
「はぁ……厄介なのが起きてきた。
君の耳は正常だから心配しなくても大丈夫」
フレア先輩はその声を耳にした途端、片手で頭を抱えだし嘆息する。
かなり辟易しているようだ。
「ンー、なになに?ソレってオイラのこと言ってルゥ??」
僕は、スランダーから目を離し、声の発信元である右隣に目を運ぶ。
するとそこには、馬の餌であろう飼葉を頬張る人間の姿があった。
いや、正確に言うと人間の姿をした化け物だ。
「先輩!!誰ですかこいつ!?
何かすごい、人が食べちゃ駄目な物食べてますけど!?」
言葉通りの馬面に、両手両足は馬の蹄。スランダーに酷似する白銀の髪質とオーラを持ち、額にはスランダーよりも短いが、斬れ味は良さそうな螺旋状の一角を尖らせている。
背筋から生え別れた二枚の翼も模造ではなく本物だ。
特徴だけで見れば紛れもなく飛馬のそれだが、人間のように二足歩行をする姿に不快感を覚える。
「オイラはナンバー635!!
ナンバー563スランダーの突然変異で産まれた人馬サッ!ヨッ!!」
「先輩……こいつこんなこと言ってますけど……?」
「ごめんね、リュカ君。
残念だけど、彼の言ってることは全部本当。
私もこんな事は初めてだったから、現在進行形で絶賛対処方法募集中なの……」
フレア先輩はもう、目を合わせようとはしなかった。
全部本当って……いや、は?
馬の突然変異で人間が生まれるか?普通。
仮にもこれがさ、種族的なやつとかだったら、まだ納得もしやすかっただろうに。
これでも僕は、異世界に転生してそれなりの経験を積んできた。
最初は用途が分からなかったエナジーに翻弄され、魔獣に黄泉へと送らされる事も少なくなかったのだ。
それでも何とか生き延びてきた。だから僕はこの異世界での耐性もつき、余程の事じゃない限りはそれなりに順応できるとも思っていた。
だが――何だこれは!?
ふぅ、と深呼吸を一回。
一旦落ち着いて説明をしてもらおう。
「フレア先輩。説明を求めます」
「エッ?オイラじゃなくていーノッ!?
オイラもそれなりに説明できるけドゥーサッ?」
「先輩お願いしますっ!」
人馬の声を掻き消すように更に大きく張り上げる。
フレア先輩は大きくため息を吐くと、
「しょうがないよね。これも私の結果だし」
大きく独り言。
「それで、まず何から説明すればいいかな?
私もコレに関してはよく分からないんだよね」
自分で創ったのによく分からないとかあるのか。
「何で人の形を?」
「うーん、目を離した隙に?」
「何で人の言葉を!?」
「人間だからだよ」
「What's!?」
「というかね、そもそも私は、最初からこんな人間を創る気なんてなかったんだよ。
ナンバー563――今はスランダーだっけ?の複製をしてた時のこと、ちょっと目を離した所で生まれてたの。
だから私はその過程も見てないし、分からないんだ」
実験中に目を離すなよ……と本来なら言いたいところだが、これに関しては僕も何度かあったから、分からなくもない。
例えばそう、用を催した時とかね。
だからといってそう簡単に人間が創られるのはあまりにも――、
「理不尽すぎる!!」
「理不尽なのかな?これって。普通の事じゃないの?」
「いやどう考えても普通じゃないですって!!」
「まぁ、これが当たり前だからね」
「そうだゼ、ボーズ!」
僕がおかしいのかこの人達がおかしいのか。
本来ならば、間違いなくおかしいのは向こうだろう。
だが、ここは異世界、大衆から見た時におかしいのは僕になるのだ。
「何でもありすぎだろ……」
僕はしばらく押し黙ることしかできなかった。
◆◆◆
――そもそもここは異世界だ。
異世界人に前世の常識が通用するはずがないのは当然の事実だった。
僕は完全に見誤っていたのだ。
これまで僕は、異世界という物を外国の一種だとしか考えていなかった。
でも違う、異世界とは言ってしまえば別の惑星だ。
国単位で常識が存在するのが当然なのにも関わらず、あろう事か僕は、異世界の常識と前世の常識を重ねてしまっていたのだ。
僕は気にしていないつもりでも、心のどこかで前世に囚われていた。
今まで散々前世を忌み嫌い嘆いていたくせに、結局その正体は前世を切り捨てる事ができなかった未練タラタラな正真正銘のモブ野郎だ。
本当になんてザマだ。
本来の主人公ならば、そんな事は生まれて直ぐにでも気づくはずなのに。
自分が異世界に転生したという事実で頭がいっぱいになり、目先の夢だけに囚われて取捨選択を疎かにしていた結果が常識の変化に対する許容上限のオーバーだ。
――前世の知識も前世の常識も一旦全てリセットだ。
要所要所で必要になった時、また取り出していけばいい。
前世のことは考えず、今と未来を見て歩こう。
これも全ては理想の主人公になるためだ。




