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 「――ではフレア君。後はよろしく頼むよ」


 学園長ロウランスはそれだけを言い残すと、その場を去った。


 ――アリバへの出発も半月を切ったという頃、僕は学園長に呼び出され、学園の管理する厩舎まで足を運んでいた。


 内容としては、アリバへ赴く際の交通手段を選ぶとの事。


 その内容を聞いた時は、既にあるわけではなく選ぶという所で引っかかっていたのだが。

 今自分が赴いている場所を見渡す事で納得した。


「学園長からの命により、乗用馬の選定をさせていただくこととなりました。一年のフレア・ユズークと申します。よろしくね〜」


「リュカ・エルピスです!」


 熟成した赤い果実のように甘く彩られた瞳は、赤い眼鏡を境としている。艶やかなクリーム色のロングヘアは後頭部で一つに纏めて垂らしたポニーテール。パッツンの前髪がこれまた彼女の可愛らしさを引き立たせている。


 一年という事は十五歳、僕とは二歳差か。


 フレア・ユズーク先輩は、主に魔獣と魔獣の交配、及びハーフや獣人等の研究を専門としているらしく、弱冠五歳で犬型魔獣(グレゴニー)猫型魔獣(ラグズリー)のハイブリッドを生み出している天才児だ。


 その名も犬猫魔獣グレラグ。

 犬と猫のデメリットを根こそぎ削ぎ落とし、メリットだけを残したような外見と身体能力を持つこの魔獣は、唯一の弱点として短命という所が挙げられた。


 にしてもこんなに可愛い女の子が魔獣の研究をしているとは。

 人は見かけによらず、だな。


 ――左右には十から二十匹程の乗用馬が等間隔で並べられていた。

 ロバやラクダのようなものもいれば、ユニコーンのようなものまでいる。

 中には明らかに馬じゃないだろうという魔獣もいるのだが……いや、あれはどう見ても人間だな……。


 ……よし、見なかったことにしよう。


 容姿こそ多種多様だが、共通している部分も一部ある。

 もれなく全員翼が生えている有翼馬だったのだ。


「すみませんが、これは?」


「はい、これはね、研究の一環で生まれた飛馬なんだ。

 飛馬とは言っても、こっちは本当に飛んじゃうけどね。

 陸は勿論だけど、主に空を飛んで移動してるんだ」


 ほうほう、飛行機的なやつって事ね。


「という事は、僕は当日これに乗って移動するのか……」


「そうなるね」


「入国はどうやってするんでしょうか?」


「上空からビューっとね」


「無断入国になりますけど……」


「アリバは鎖国国家だよ?関係ない関係ない」


 あぁ、言われてみれば確かに。

 最近は意外な出来事の連続だったから、脳のキャパがオーバーしてたのかもな。早く慣れていかないと。


「まぁどの道見つかれば殺されるのは同じだし、余計な事は考えずに目の前の事だけを考えてれば良いよ」


 一寸たりとも崩さない麗らかな笑みで会話をする。

 その破顔にどことなく恐怖を感じつつも、優しさのような励ましを受ける。


 アリバってそんなに危険なのか。

 これは気が抜けそうにないな。疲れそうだ。


「じゃあ早速選んでいこう?

 って言っても、私は基本見てるだけだから何かあったら呼んでね〜」


「え、あ、はい、分かりました」


 てっきり一匹ずつ丁寧に説明されるのかと思ってたけどそうじゃないみたい。


 聞きたい事が山ほどあるのだが……。

 とりあえず見ていくか。




 ◆◆◆




 右側に十匹と左側に十匹。まずは右列から見ていこう。

 一匹目、こちらは何の変哲もない普通の馬だ。


 ……いや、翼が生えているから何の変哲もないは嘘だな。


 だけど、それ以外は普通の馬と何ら変わらない。

 毛色もよく見る栗毛だ。


 そんな普通の馬が二、三匹続いた所で四匹目だ。

 四匹目は、前の三匹よりも体躯が小さく、目に止まった。


 所謂ポニーと呼ばれるタイプだ。


「この馬は他のと比べても小さいですね」


「あぁ、それはポニーだね。

 君の身長を鑑みると、一番オススメできる飛馬だよ。

 なにより可愛いのが魅力!」


 この世界でもポニーは共通しているんだ。


「なるほど……確かに良いかも」


「どうする?これにする?」


 僕は腕を組み考える。

 まだ見てない乗用馬もいるしな……。


「とりあえず全て見てからにします」


「それもそうだね」


 そうして五匹、六匹、七匹、八匹と軽く目を通し、九匹目にあたった馬――白馬に目を奪われる。


 一切の汚れを感じさせない、美しい毛色だった。


「白馬が気に入ったの?」


 突然耳元で囁かれたチャームボイス。


「へぁ!?せ、先輩、いたんですね!?」


「いたんですねって失礼だなぁ。

 その白馬からずっと動かなかったから態々声を掛けてあげたのに」


 うそだ。体感ではたったの数秒だったぞ。


「そうだったんですか。

 それはありがとうございます。

 でも耳はおやめに……」


 耳に残るゾワゾワとしたあの感覚を覚えてしまったら僕はもう、戻れないかもしれない……。


「あはは、それはごめんね?

 そんなことより、その白馬。

 気に入ったなら申し訳ないけど、やめた方がいいかも」


 無邪気に笑うイタズラな笑顔。

 反省の色はなしと見ていいだろう。


 それにしてもやめた方がいいとはどういう事だろうか。


「何故ですか?」


「乗ってみたら分かるよ」


 そう言われたので、馬にまたがろうとしたが――、


「ヒヒーンッ!!」


 振り落とされた。


「この子はね、自分の毛並みを命よりも大切にしているんだよ。だからね、少しでも汚れが着くと酷く怒るんだ。

 プライドが高いってやつなのかな?」


「な、なるほど……」


 まぁ、こんな綺麗な色を持っていたら大切にしたくなるのは分からなくもない。


 胸中でそんな事を考えながら、無意識に白馬の腹を摩る。


 ――ペシンッ!


 弾かれた。


 右列最後の十匹目だ。

 十匹目はロバのような馬だったが、白馬やポニーと比べると影は薄い。

 特徴といえば、ポニーよりかは少し大きくらいだ。

 後違う所があるとすれば……そうだな。

 翼の色がやや濁っている気がするが……。


 これは普通なのか?

 如何せんさっきまで白馬を見ていたからか、眼がおかしくなっているのかもな。


 そんな所で右列は終了。

 続きましては左列だ。

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