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うさぎはなび  作者: 何手人
7/8

それぞれの日々2

とある日の放課後。

今日は各部活動の仮入部期間最終日。

新入生歓迎ライブとして新入部員を中心に大和も第二講堂に集まっていた。

すでに入部届を提出している新入部員は最前列に並べられ、その後ろには一般生徒がざわざわと席についていた。

「ギターケース君お疲れさまー」

大和が入学式にギターケースを背負ってきていたのはもうすでに学校中に広まっていたらしく、仮入部初日から大和のあだ名が「ギターケース君」になっていた。

ギターパートのリーダーをしている二年生の渡井雫来わたらいしずくは机に手をつきながら一番前に座っている大和に声をかける。

「渡会先輩お疲れさまです。俺大和っす。今日はなんで俺ら一番前なんすか?」

大和は後ろでいやに密度の濃い集団に目をやりながら言った。

集団の中心には夏純と律輝がいる。

話しかけようと画策している者や、せめて同じ空間にいようと近くに座ってそわそわとしている者ばかりだ。

注目されることに慣れている卯柳、夏純、律輝、凛は堂々しているが、千恵と周は少し落ち着きがなさそうに見える。

「まーまー楽しみに待っててー。というか楽しみにしてるー」

「おーい雫来さんや。いい加減準備してくれんかね」

今から始まるライブの準備は我関せずで、できたばかりの後輩との会話に花を咲かせている雫来を見かねた同学年の立石翔真たていししょうまは慣れた様子で咎める。

「いーのいーの、やーっとできた後輩だよー?仲良くしなきゃねー」

「大和はそんなタイプじゃなさそうに見えるけど。大和も面倒だったら遠慮なく言ってくれな?」

ドラムパートのサブリーダーをしている翔真は持ち前の面倒見の良さで声をかける。

「うす。立石先輩あざす」

「ちょっとー。いまの否定するとこだよー?」

翔真はさらなるダル絡みを続ける雫来の首根っこを掴む。

「一番は任せたからー!」

引きずられながら発せられた言葉は大和にはいまいち意味がわからず「はあ」と言って首を傾げた。

それからも音響や照明の準備は観客が徐々に増えていきやがて雰囲気のある舞台ができあがった。

ライブの影響か夏純や律輝の影響か観客も満員で立ち見客までいた。

「照明消します。足元に注意してください」

アナウンスが入ると講堂内の明かりがすべて消えて照明が舞台のみを照らす。

すると舞台上に軽音部の部長が上がってきた。

「こんにちは。軽音部部長の太根悠たねゆうです。今日は軽音部の新入生歓迎ライブにお越しいただきありがとうございます。新歓ライブで第二講堂が満員になるなんて今まででもないんじゃないかな?多分想定外のサプライズのおかげもあるとは思いますが、僕めっちゃうれしいです!」

興奮気味に挨拶を続ける由をせかすように舞台袖から「悠ちゃん、巻いて巻いて」と指示が入る。

「あはは、怒られちゃった。じゃあさっそくライブ開始!といきたいところなんですが、その前に梅園高等学校軽音学部名物!新入部員自己紹介をお願いします!」

既に入部届を提出ている前列に座らされた新入部員たちは呆気にとられた。

「いきなり言われてもなんだって思うだろうから説明させてもらうけど、今から新入部員にはこの舞台に上がって簡単な自己紹介してもらいます。もちろん希望者だけで大丈夫だよ。こんだけの人に認知してもらえば学校生活は円滑にいくだろうし、バンドも組みやすくなる。それにゆくゆくはこれ以上の人の前で演奏することになるからね。しといて損はないよ」

喋り続ける悠に再度舞台袖から催促が入る。

「ごめんごめん。じゃあ希望者は挙手をお願いね。どれだけ滑っても俺たちがライブで盛り上げるから任せて」

周りの新入部員たちが呆気に取られているなか、大和はついさっき雫来が言ってたことを思い出した。

先輩に期待されたら仕方ないと思い、大和は勢いよく手を挙げた。

「お、ギターケース君!さすが気合入ってるね」

舞台に上がると、照明の熱気と明るさに目を細める。

「来てくれてありがとう。君のおかげで新歓ライブは大成功だ」

過剰だなと思いながら客席に目をやると動画を撮っているであろう周の姿が視界に入った。

マイクを手渡されると「スッ」と息を吸って覚悟を決める。

「一年四組、乙和大和。初日からギターケース持ってくるくらい気合入ってます。ギターとベースはできるんで高校ではドラムやります」

誰もがギターじゃないのかとは思ったが、気合は伝わったようでたくさんの拍手と歓声があがった。

一礼して周の携帯に向かって親指を立てる。

それぞれが手を振り返したのを見て舞台から降りた。

「ありがとう大和君。次したい人ー!」

大和の自己紹介を皮切りにお調子者やらその場の雰囲気に流されて次々に新入部員が舞台に上がった。

その中で一人、見覚えのある人間が舞台に上がった。

「一年三組の世良瑠璃です。音楽経験はないんだけど、ギターボーカルやりたいなって思ってます。よろしくね」

卯柳が家事をするということで自己紹介の途中で抜け出していたことに律輝は安堵した。

相変わらずの猫かぶりな自己紹介に苦笑いしていると瑠璃と目が合った気がして少し危機感を覚える。

(まさか大和とバンド組んだりしないよな、、、)

一人だけ全く別の懸念を抱きながらも新歓ライブは徐々に進んでいった。


大和の自己紹介を皮切りに続いた自己紹介は想定より多かったらしく、新入生歓迎ライブが終わる頃にはもうすでに日は沈んでいた。

「日が落ちるとまだ少し寒いね。りんりんは大丈夫?」

「大丈夫ですよ。ありがとうございます」

さすがに遅い時間なだけあって夏純は律輝が、凛は周が家まで送り届けることになった。

二人で夕暮れの帰り道を歩いていると小学生の頃を思い出す。

「りんりんは最近は何か作ってる?」

「まだマカロンを練習中です。次はシュークリームをと考えているんですが、周君は何か食べたいものはありますか?」

「シュークリーム、周君、シュークリーム、周君、、、ふふっ」

凛は言ってからダジャレのようになったことに気づいて「あっ」と言いながら少しうつむいた。

その様子を見て周はにやにやと顔を覗き込む。

「わざとじゃないです」

そう言って凛は軽く周の肩を小突いた。

「いたあ」と言いながらよろめいた後、急いで凛の横に戻る。

「ごめんってば。りんりんの作ったお菓子ならなんでも好きだよ」

そう言われてまた照れた凛は先ほどよりは優しく肩を叩いた。

周も仕返しにと凛に肩をぶつけた。

凛も負けじとぶつけ返す。

そんなことをしながら進んで信号で止まると二人で顔を合わせて笑った。

「りんりんは何か欲しいものとかして欲しいこととかある?」

「して、欲しい、こと、、、」

即決の凛には珍しく信号の色が変わるまで長考した。

凛の赤面など知る由もなく周はぼけっとしている。

「りんりん青になったよー。また思いついたらいつでも言ってね?」

「、、、はい」

「りんりんが思いつくまではサプライズを考えておこう」

周が提案した代案に凛はくすっと笑った。

「言ったらサプライズになりませんよ」

「つまりはあんまり期待しないでねってこと!」

「えー、もうダメです。聞いたからには楽しみにしてますね」

「うう、善処します、、、」




オリエンテーション泊の皆が寝静まった頃。

かすかな虫の音を裂くように扉の開く音が聞こえた。

卯柳には珍しく少し焦った様子で上体を起こしてかすかに光がさす扉の方へ目を凝らした。

トイレから戻った律輝の姿を見ると卯柳は普段通りの様子へ切り替える。

「すまん。起こしたか?」

薄暗い部屋の中で上体を起こす卯柳を見つけて声をかける。

「大丈夫です。僕もトイレに行こうと思っていました」

切り替えきれなかったのか少し怯えたような声色に聞こえた律輝は心配そうに卯柳を見る。

「俺も喉が渇いたから一緒に出るよ」

気を使わせてしまったと互いに思いながら二人は部屋を出た。

卯柳が用を足している間に律輝は自動販売機の前で待っていた。

律輝の記憶では卯柳の両親が亡くなってから宿泊行事に参加したのは今回が初めてのはずだ。

平気そうに見せてはいたが、不安でならない部分もあるのだろう。

夜中に自室の扉が開いたことに対する警戒は、事情を知る律輝にとっては冗談でも笑い話になんかできない動作だった。

それに伏せ寝をする癖も治っていなかった。

そんなことを考えていると自販機の前に卯柳が現れる。

「気を使わせてしまったみたいですみません」

気を使ったことを悟られまいとしていたが、部屋に戻ってきたのに再び出るのは気を使っている行為以外のなにものでもなかった。

「気にするな。宿泊行事はどうだ?」

卯柳は難しそうな顔をした。

「まだ慣れませんね」

正直な感想に律輝は「ははっ」と笑った。

「姫花は周の家でお泊りだっけ?」

午前中に卯柳から聞いた話を思い出しながら切り出す。

「そうですよ。姫花も友達の家でのお泊りは初めてなので楽しそうでした。今まで我慢させていたのは申し訳ないですね」

「まあ今まで施設にいたんなら皆でお泊りしてるようなもんだし、低学年の内は何かと不安はあるだろうしな」

卯柳はしみじみとした様子で「そうですね」と言った。

「姫花が何か不安だったり心配事を言っていたら教えてくださいね。僕にも言えないこともあるかもしれませんから」

「嫌だね。姫花だって女の子だ。知られたくないことの一つや二つはあるだろ」

はっきりとした拒否に卯柳は「ふふっ」と笑う。

律輝は卯柳に対しても姫花に対しても対等にいたかった。

その告げ口のようなものがたとえ卯柳のためになるからと言って大人しく言うことを聞いてやることもない。

「姫花ももう子供じゃないですもんね」

寂しそうな雰囲気とこれからが楽しみな雰囲気で二分していた。

「心配しなくても姫花はちゃんと成長してるよ。その前に自分のことを心配するこったな」

「もう大丈夫です。眠くなってきましたし」

「それじゃあ部屋戻るか」

「ですね。寝る前に飲んでまたトイレ行きたくなりませんか?」

律輝は子供扱いされたことにこの野郎といった様子で笑う。

「次はそーっと行ってやるから起きるなよ」

「聞き耳立てて楽しみにしておきます」




夏純は明日になるのが待ち遠しかった。

明日は卯柳の誕生日である。

卯柳たちの間では形に残るものや高価なものはプレゼント禁止にされていたが、夏純としては何としても卯柳に残るものをプレゼントしたいと思っていた。

卯柳が欲しい物、卯柳が持っていない物、自分だけにしか渡せない物。

二週間ほど前から考えているが、考えが深まるにつれて何がいいか分からなくなり、閃いては頭をパンクさせていた。

「夏純さん。聞いてますか?夏純さん」

「、、、はい!」

ココアの入ったコップをつかみながら明日のプレゼントについて考えていると突然卯柳の呼びかけが聞こえてきて我に返る。

「聞いてなさそうだったのでもう一度言いますね。明日は朝から仕事に出かけますが、キッチンを使う場合は絶対に姫花のことを見ていてくださいね。お願いします」

「分かったわ。ばっちり見張っておくから」

「見守るくらいにしておいてください」

夏純の張り切り具合に卯柳は苦笑いを返す。

「ねえうさぎ、ほんとに欲しいものないの?して欲しいこととか何でも」

「ないですね。しいて言うなら姫花も夏純さんもこれからも健康で幸せに過ごして欲しいです」

「もう、そういうのじゃないのよねー」

夏純は「参った」とばかりに机に突っ伏した。

「んー、、、私のファーストキスあげよっか?」

机に突っ伏したまましばらく伸びをした後に出てきた夏純の突拍子もない提案に卯柳は茫然とした。

「んんっ!?、、、それだと僕のファーストキスもあげることになりませんか?」

少し考えた後、話題の転換を試みる。

「あらいいじゃない。いやなの?」

夏純は伏せながら上目遣いに確認した。

「じゃあもし僕が夏純さんの誕生日の時にファーストキスをあげたくなった場合はどうします?」

「くれるのー?」

「もしもの話です」

「もしもかー。もしも私がファーストキスをあげたとして、次の私の誕生日は卯柳にとってはセカンドキスになるわけでつまり卯柳のファーストキスはプレゼントできない」

「そういうことです」

「んーうさぎは難しいこと考えるわねえ」

いかにも眠たそうな夏純の返事に卯柳は優しく笑った。

「もう遅いですし寝ましょうか。歯は磨けますか?」

「そういうときもあるわよね」

まったくもって嚙み合っていない会話に卯柳はエプロンを外して担ぐ準備をする。

「せめて口はゆすいでおきましょうか。はい立ちますよ」

肩を貸して夏純を立ち上がらせようとするが、だらんと力が抜けたように卯柳にもたれかかる。

仕方ないとお姫様抱っこをして洗面所まで移動する。

「これで口をゆすいでくださいね」

コップを口元に近づけると可愛らしい口で懸命にゆすいで「ペッ」と吐き出す。

口をゆすぎ終わると再び力が抜けたように卯柳に抱きついた。

どさくさにまぎれて服で口を拭かれた気がしないでもないが、やむなしと思い大きな甘えん坊を抱っこする。

あまり揺らさないようにゆっくりと階段を上がっていると肩に顔を埋めていた夏純が不意に顔を上げた。

夏純は卯柳と目が合うとニコリと笑って卯柳の顔に自分の顔を近づける。

卯柳はぎょっとして夏純の顔を避けようと顔をひねった。

バランスが崩れたことを感じた卯柳は片方の手で手すりを掴んでもう片方の手で夏純を支えるように腰に手をまわした。

なんとか体が静止できたことを確認して一安心する。

「、、、ふぅ。大丈夫ですか夏純さ、、、ん、、、!?」

一安心している卯柳をよそに夏純はその白くきれいな左頬に口をつけた。

むにむにと頬の感触を楽しむように唇を動かして名残惜しそうに離す。

数秒の沈黙の後、夏純は自分のしたことを自覚すると途端に恥ずかしさがこみあげてきて赤面した。

「あ、、、いや、、、あの、、、ごめっ」

完全に意識を取り戻した夏純は恥ずかしさのあまり勢いよく謝ろうとすると卯柳が口元に指を立てて制止してきた。

「しーっ。姫花が寝ています」

夏純がまだ寝ぼけていると思った卯柳は何事もなかったかのように再び担ぎ上げる。

急に担ぎ上げられた夏純は階段だったこともあって「わっ」と言いながら卯柳に抱きついた。

恐る恐る顔を上げると卯柳は微笑んで「部屋に入りますね?」と優しく確認する。

「うん、、、」

すると卯柳はベッドに運び、てきぱきと布団をかける。

ついでに頭を撫でると、恋する赤面少女のできあがりだ。

「おやすみなさい」

「待ってうさぎ」

夏純は先ほどまでの出来事を思い出しながら、嬉しさ半分恥ずかしさ半分の声音で呼び止める。

「どうしました?」

いつもの優しい雰囲気で顔の半分まで布団をかぶった夏純の顔を覗き込みながら言った。

その雰囲気に引き込まれた夏純は意を決してお願いをする。

「、、、右側にもしていい?」

あまりにも欲張りなお願いに卯柳は優しく笑いながら夏純の頭を再び撫でる。

「明日は朝から姫花のことをお願いしますね。おやすみなさい」

先ほどまで自分を撫でていた手を見つめて、部屋を後にする卯柳の背中をぼーっと眺める。

「寝ぼけてないってば、もうっ」

部屋を出た卯柳にそう投げかけて布団をかぶる。

先ほどの感触を噛みしめている夏純が眠りにつくのはまだ少しだけ先のことだろう。

時刻は夜の十二時をとおに回っていた。




GWが明けてすぐの頃。

今日は姫花から勉強して帰るとの知らせを受けて卯柳は部活動という名の女子会に巻き込まれていた。

「第一回、うさぎ会を開きます!」

早紀は掛け声とともに蒸しパンが入ったマグカップを掲げた。

すると夏純と千恵が「おーっ」と反応する。

その様子を卯柳と凛はニコニコと眺めており、瑞希はついていけずにぼーっとしていた。

瑞希から簡単に作れるお菓子との注文を受け、卯柳の提案でマグカップ蒸しパンを皆で作り上げた。

それぞれの前にはマグカップが並べられ、テーブルの中心にははちみつやシナモンパウダーなどの味付け用の調味料が並べられている。

なぜ「うさぎ会」という名前になったのか不思議に思いながらも誰も言及することなく無事に開催された。

「私は女子会なんて初めてだから楽しみだわ」

「女子会じゃないよ夏純ちゃん。うさぎ会!女子会にしちゃうとさすがのうさぎ君も居辛いだろうからね」

なんと勢いだけではなくしっかりとした理由があったことに卯柳と瑞希は驚いた。

「お邪魔でしたら席は外しますけど、、、」

「のんのん」

そう言って早紀は人差し指を左右に揺らす。

「うさぎ君には私たちが暴走した時に止めてもらう役割があります。うさぎ君は聞き上手で気が利くし優しいからね、頼りにしてるよっ」

勢いで褒められてよくわからない使命を任された卯柳は「頑張りますね」と言って笑った。

「じゃあ私からいいかしら」

夏純が我先にと話題を提供する。

「皆は好きな人へのプレゼントって何送ってるの?」

その質問はいつも一緒にいる三人には心当たりのある質問だった。

「永遠の命題の一つだよねえ。センスを取るか自分らしさを取るか。身に着けてもらいたいけど重いとは感じられたくない。自分を認知してもらいたい気持ちとちら見えする独占欲。深い、実に深い命題だよ!」

卯柳は早速暴走し始めた早紀をなだめるようにスプーンを配り始めた。

「皆さんはどんなものをお渡ししますか?」

卯柳がそう投げかけると千恵が先陣を切った。

「私は相手が趣味とか好きなものが分かったらそれに関連する小物とかあげてるかな」

「かゆいとこに手が届く感じだ。相手の事をよく見てるんだねえ」

千恵の横に座った凛が続ける。

「私はちゃんと言ってもらわないと分からないので直接聞きますね」

凛の言葉に思い当たる節があった夏純はすぐさま突っ込む。

「もし何も答えてくれなかったら?欲しいものもして欲しいことも特になかったら?」

夏純の勢いに千恵と凛の二人は「うさぎ相手は苦労するな」と思った。

二人ともに卯柳とは中学の頃から関りがあるが、欲しい物だったり好きなものを自分から発信している様子は見たことがない。

聞かれれば答えるがそれも最低限の返答で、好き嫌いよりも可不可で答えることが多い。

「そうなったら私の好きなものを共有します」

夏純はその手があったかと思った。

自分の至らなさに苦しみながらも次は自分の番だと悟った夏純は卯柳に手渡したプレゼントを告げる。

「私が出演したドラマのDVDを手書きのサイン付きで渡したの、、、」

さすがの早紀も一発では呑み込めなかったのか、数秒の沈黙の後「それは、、、硬派だねえ」と言った。

「私も渡してからこれは無いなとは思ったわよ!自分らしさとか自分にしかできないことを考えてたら結局サイン会みたいになっちゃったの」

ファンと好きな人に対する扱いが同列なのはいいことではあるのだが、夏純としては卯柳にそう思われるのだけは避けたかった。

可愛らしくも切実な悩みに早紀は「かはっ、、、かわいいい、、、かはっ」といかにも過呼吸気味だ。

「そういう早紀ちゃんは何あげるの?」

その夏純の質問に早紀はしゅんとした。

「私は振られたばっかりだからお菓子あげたよぅぅ」

そう言い泣き真似をしながら横に座る瑞希に抱き付く。

瑞希は我関せずといった様子のまま慣れた手つきで早紀の頭を撫でた。

「私も千恵ちゃんと同じで好きそうなものを渡すかな。そもそも仲いい人にしか渡さないから」

早紀はにやりと意地悪そうな笑みを浮かべて瑞希の顔を見つめる。

「ほーう。つまりうさぎ君は仲がいいと。私お菓子渡してるの見たよ?」

瑞希は指摘に照れる様子もなく淡々と返す。

「うさぎ君にはオリエンテーションの時も今もお世話になってるでしょ。早紀こそちゃんと感謝しないと」

「ちゃんと渡したもん」

「なんか律輝君のおまけみたいなのじゃなかった?」

「それは言っちゃだめ!気持ちはこもってるから!ね?」

唐突な瑞希の暴露に慌てて早紀自らフォローする。

その言い方だとおまけであることは認めているのだが、誰も突っ込むことなく笑っていた。

「覚えていてくださるだけでもありがたいですよ」

余裕そうに笑う卯柳にむすっとした様子で早紀がつっかかる。

「そういううさぎ君は何をプレゼントしてくれるのさ?」

「僕も手作りお菓子ですかね。早紀さんも瑞希さんも好きなものを教えていただけるなら合わせて作りますよ?」

「えーじゃあ私は甘くて派手なの!」

「私はこんな感じで教えてくれるだけでいい」

あまりにも対照的な回答に卯柳はニコニコと微笑みながら「わかりました」と返した。

「夏純ちゃんたちってほんっとに仲良しだよね」

早紀は羨ましいというよりは微笑ましいといった表情で切り出した。

「今のもさ、他の三人の好きなものはすでに知っているから聞かなかったわけでしょ?」

「そうですね。他の人よりは仲がいいかもしれません」

「仲がいいってか、もはや家族って感じする。私と瑞希みたいにそばにいて当然みたいな」

「意識したことなかったけど私たちってそんなに仲良しに見える?」

千恵の疑問に早紀は「見える見える」と頷いた。

「仲良すぎて声かけれなかったもん。オリエンテーション泊の時も瑞希にお願いして何とか繋いでもらったし」

卯柳と瑞希は図書委員なため少なからず接点があった。

「うさぎ君が女の人を連れてきたときびっくりしました」

「ね、瑞希ちゃんのことは中学から知ってたけど早紀ちゃんのことは知らなかったから」

「そっか。三人とも中学から一緒なのね」

瑞希は頷いて続ける。

「二人とも中学の時から人気者だったから私とは別世界って感じしてた」

「やめてよー。私たち同じ高校一年生だよ?」

「高校一年生にしてはなかなかのモノをお持ちで」

早紀のおやじ臭い言い方に卯柳は苦笑いした。

「ほんとよね。私にも分けて欲しいわ」

千恵はノリノリの夏純と早紀に嬉しくも嫌がるような表情を見せる。

「って言いつつ夏純ちゃんもあるでしょ」

「そう?私はで、、、」

夏純が続きを言いかけたところを卯柳が喉を鳴らして止める。

目を向けると不機嫌そうな凛と自身が無さげにうつむく瑞希と気まずそうに微笑んでいる卯柳がいた。

「、、、」

数秒の沈黙に耐えかねた夏純と早紀はそれぞれ隣の凛と瑞希に泣きついた。

「ごめん凛ちゃん。凛ちゃんは凜ちゃんの魅力があるから」

「ごめんね瑞希。瑞希にはそれ以上に有り余る魅力があるから」

しかしそんな対応をしたとしても、容姿も形も整った二人が言っているのはいまいち説得力に欠ける。

いつもは落ち着いた二人がムスッとしている姿に可愛いと申し訳ないの気持ちが交互に入れ違う。

あまりの愛らしさにいじりたくもなるが、怒らせると怖いタイプでもある。

「ね、うさぎ君もそう思うよね!?」

「うさぎもそう思うよね!?」

たまらず卯柳に話を振るが、男の卯柳としてもコメントに困る内容なためニコニコと沈黙を貫いた。

「夏純ちゃん、早紀ちゃん。これ以上は傷口が広がるだけだよ、、、」

二人は反省したのかもくもくと蒸しパンを食べ続けた。

結束力と一部の派閥ができたとある日の放課後だった。


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