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ホラー短編シリーズ

押し入れの奥のネズミ

作者: リィズ・ブランディシュカ



 押し入れの奥。


 暗くてよく見えない場所。


 僕の小さな居場所。


 暗がりと布団と、ほこり。


 それが、世界の中心。


 そんな押し入れの奥を、じっと眺めていると、時々何かが横切っているのがわかる。


 小さくて、棒みたいな生き物がひょろひょろ動いて、あっちからこっちへ、時々に移動するんだ。


 僕はそれを見るのが、唯一の楽しみだっただった。





 ごそごそ。


 押し入れの中でゆっくりと体勢を変える。


 音は立ててはいけない。


 僕が住んでいるこの家は絶えず静かでなければならないから。


 しびれた足をゆっくりさすっていると、来た。


 押し入れの奥、隙間から入ってくる部屋の光が届かない場所。


 そこを、小さな何かがひょろひょろと移動していくのを。


 初めは何なのか分からなかった。


 でも、今は少しだけ分かる。


 あの棒みたいな生き物は多分ネズミ。


 ネズミという生き物は、押し入れとか屋根裏とかに現れて、すばしっこく走る生き物だって聞いた事があるから。


 ネズミ、でいいと思う。


 ここにずっと一人でいるのは退屈だから、動いている生き物がいるのは嬉しい。


 だからそれが現れた時は、その棒みたいな形のネズミを、じいっと観察するのが癖になった。






 いつもは見るだけだったけど、ある時パンのひとかけらをそっと差し出してみた。


 そしたら、だんだん近寄ってくるようになった。


 向こうがそれより前にこっちに気づいていたかは、わからない。


 ひょっとしたらずっとこっちに気づいて、近づこうか近づかないようにしようか、悩んでいたかもしれない。


 だとしたら、僕と同じで人見知りなのかも。


 ちょっと親近感がわいた。


 僕は、親しくなったそれを友達だと考える事にした。


 友達は、一緒の場所にいても退屈しない存在だって聞いたから、たぶんそう。


 こういうのを、友達と遊んでるっていうのかな。


 どうだろう。


 普通が分からないから答え合わせができない。






 僕と友達は、それから徐々にだんだんと距離を縮めていった。


 十回目にパンを上げる時は、もう少しで触れそうな距離になっていた。


 次にパンを上げる時はきっと、なでたり抱っこしたりする事ができるはず。


 手触りはどうだろう。

 重さは、軽いんだろうか。


 僕は楽しみに思って、押し入れの中でその時を待ち続けた。







 でも、なかなか次のパンが手に入らないから。


 待ちくたびれてしまいそうだ。


 そのうちお腹がグーグーなって、うるさくなってしまった。


 この家は静かでないといけないのに。


 まずいなと思っていたら、押し入れがガッと開いて大きな手が伸びてきた。


 ぶたれる、と思ってちぢこまっていると、押し入れの奥から小さな影が飛んできて、大きい手に体当たりした。


 するとその手はぽんっと消えて、小さな赤い棒みたいな生き物がその場に現れた。


 赤いネズミだ。


 そう思って触ろうとしたら、すぐにどっかに逃げてしまった。


 なんだったんだろう。


 首をかしげていると、いつもは数センチしか開かない押し入れの扉が、大きく開くようになった。


 トイレに行くときか、時々のお風呂の時しか歩けない廊下をゆっくりと進んでいく。


 恐る恐る出てリビングに行くと、テーブルの上にいつものパンがおいてあった。


 きっと友達はお腹をすかせているはず。


 パンを持って押し入れの中に戻るけど、もう奥からは二度とネズミみたいなあのひょろひょろの友達は 現れてはくれなかった。


 家の人も、ずっと帰ってこなかった。


 その日、押し入れの中で見た夢の中では、僕みたいなひょろひょろの体の子供が美味しそうにパンをほおばってる姿があった。




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