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母の遺産②

 母の遺産を受け取った私は、地図を頼りにその場所を探すことにした。

 一体、何をくれたのだろうと、ちょっとした宝探しのような気分になったのを覚えている。


 何度も人に道を尋ねながら、やっとの思いで辿り着いたのは、オーディナルの東側にある『ウルタール』という田舎町だった。


「えーっと、この辺り……ん? あれかしら?」


 道なりに進んで行くと、小さくて可愛らしい洋館が見えてきた。


「うわぁ……素敵! ん~っ、お母様ってば、最高っ! 大好きっ!」


 思わず駆け出していた。

 家だ! 家だ! マイホーム! 私の家!


 煉瓦造りの門塀の横を駆け抜け、小さな門をくぐるとそこに洋館があった。


 辺りを見回しながら玄関の前に行くと、扉には真鍮製の取っ手が付いていた。

 黒猫の形を模していて、尻尾部分が持ち手という可愛らしいデザインだった。


 他にも蝶番や扉自体にも細かな装飾が施され、職人のこだわりが伝わってくる。

 興奮しっぱなしの私は、庭に回り、そっと曇った窓の中をのぞいてみた。


 うっすらと見える家の中には、白いシーツが掛かった家具がある。

 かなり埃が積もってそうだけど、もしかすると家具は使えるかも知れない。

 それに、一人で住むには十分な広さだと思えた。


 振り返り、家を背中にして周りを見渡してみる。

 周囲は小洒落た赤煉瓦の塀に囲まれていて、庭の大きな金木犀が外からの目隠しになっていた。

 外壁や雨樋など、すぐには住めそうにないくらい傷んでいるけど、そんなことは全く気にならない。


「ああ、どうしよう……素敵だわ……」


 中も見てみようと、少し緊張しながら扉に鍵を挿してみる。

 鍵をゆっくり回すと、カタンと鍵の開く手応えがあった。


「しつれい……しまぁす……」


 そっと中に入ると、まるで雪の上を歩いたような足跡が付く。

 一階には、リビング、キッチン、物置部屋、個室、バスルームがあり、二階には客室が四部屋もあった。


「あっ!」


 二階の客室の柱に、『メイア』と落書きが残っていた。


 指先でそっと、落書きをなぞる。

 この家に、まだ母の温もりが残っているような気がした。


 私は夢中になって、隅から隅まで見て回った。

 気付くと辺りは暗くなり、もう陽が落ちかけていた。


「そろそろ帰らなきゃ……」


 埃を払って、外に出る。

 これから少しずつ、この家を手直ししなきゃね。


 扉の鍵を閉め、夕陽に照らされる我が家を見つめた。

 成人したらあの家を出る――。


 私の中に強い決意が生まれていた。



    * * *



 今までのことを思い返しながら、私は歩き続けていた。

 一歩、また一歩と近づくたび、初めて家を見たときの、胸の高鳴りが蘇ってくる。


 色々と準備は大変だったけど、すべてはこの日のため。

 ああ、やっと、今日から私の新生活が始まるんだ。


 しばらく道なりに歩いて行くと、大きな金木犀が見えてきた。

 風に揺れる姿を見ると、もう何年も住んでいたような懐かしい気持ちになる。


 赤煉瓦の塀の横を足早に歩き、玄関の前に立つ。

 真新しい漆喰の壁が輝いて見えた。


「今日からよろしくね」


 修繕を終えたばかりの洋館を見上げて、私はそう呟いた。

ありがとうございます!

次の更新は夜を予定してます。


気になる、面白そうと思ってくれたら……

励みになりますのでブクマよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 庭のあるお家は、定期的に草刈りしないと、あっという間に雑草に埋もれます。 うちの実家がそうでした。 唯一の住人である父が入院したら、半年経たずに草まみれになっていました。(時期が夏の終わりだ…
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