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魔眼令嬢フレデリカ ~絶対浄化の力を持つ美形な叔父と価値を見通す魔眼持ち眼鏡っ子が王都の闇をマネタイズ!~  作者: 雉子鳥幸太郎


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叔父様の怒り

 叔父様のオフィスに戻り、二人で紅茶を飲みながら情報を整理することにした。


「ねぇ、叔父様。私が小さい頃、家に黒い靄が出るって言ってたの覚えてますか?」

「ああ、そういえば良く怖がっていたね……。いつも帰り際にフレデリカのことが心配だったのを覚えてる」


「え? あ、そ、そうだったんですね……ありがとうございます」

「ははは、お礼なんて。心配して当然さ、僕たちは家族だよ? たとえ血が繋がってなくともね……」


 寂しげな目を伏せたまま、叔父様はカップに口をつけた。


 ん?

 ちょっと待って……。


 いま、さらっと大事なことを言ったような気が……。

 あれ? 考えがまとまらない! え? え?


「それより、やっぱりこの件は手を引いた方がいいんじゃないのかな?」

「あ、えっと、うーん……実は少し気になっていることがあって……」


「ん? 何だい?」

「叔父様は……その、自分に凄い力があるとか……特別な何かがある……なんて、感じたことはありませんか?」


 恐る恐る尋ねると、叔父様は首を傾げながら「ん~」と、斜め上を見上げる。


「凄い力……凄い力……。自分で言うのは気が引けるけど……、平均的よりも恵まれた容姿をしているとは思うかな? あはは」と、照れくさそうに頭を撫でた。


「そ、それは……否定できませんね。いや、そうじゃなくて、こう……もっとスピリチュアルな……」

「霊能力とかそういうことかい? あーだめだめ、私は昔からそういうのが一番苦手でね……」


 叔父様は苦笑しながら手を左右に振った。


 どうしよう……。

 呪いを解いてもらうには、やっぱり叔父様に魔眼のことも、全部打ち明けた方がいいよね……。



 このまま、黙ったまま協力してもらうのは、何だか利用しているみたいで嫌だ。

 きっと、叔父様は何も言わずに協力してくれるだろう。

 

 でも、この先、ずっと隠したままなんて耐えられない。

 叔父様に……嘘はつきたくない。


――怖い。

 魔眼のことは、今までお母様以外の誰にも話したことはない。


 打ち明けたら、何かが変わってしまうかも知れない。

 二度と打ち明ける前には戻れない。


 叔父様だって、自分の能力のことは知らない……。

 知りたくないかも。


 言うべきじゃないのかも……。

 でも、この先、本当に家族として支え合っていくには、共有すべき事実だわ。


 母が亡くなる少し前に言った言葉が蘇る。


『フレデリカ、私たちオストラムの一族の人生はね……他の人達よりも、とーっても短いの。だからね、行動する前に悩むのなんて贅沢よ……悩むなら行動した後に悩みなさい。ふふっ、デザート感覚ってやつね』


 そうよね、お母様……ありがとう。

 覚悟は決まったわ。


「あの、叔父様、今から言うことは……すべて本当のことです――」



    * * *



 ――裏山の沼。


「シッ、いるぞ……」


 ハロルドが、そっと背の高い草の隙間から様子を伺いながら言った。

 私と叔父様は、顔を見合わせて頷く。


 きっと、宝石を沈めた連中だわ。

 オルローズ家に雇われた者か、それとも直属の臣下なのか……。


 ハロルドは覗くのをやめ、私達の側に座り直した。


「なあ、なんか大事になってねぇか……。もう、あいつらに頼んでその呪いの宝石ってやつを持って帰ってもらえばいいんじゃねぇの?」

「馬鹿ね、そう簡単なら悩んでないわよ!」

「ちょっ、フレデリカ……声、声……」


 叔父様に声の大きさを指摘され、私は慌てて口元に手を当てた。


「ごめんなさい……」

「ったく、見つかったらどうすんだよ……」


 その時、ハロルドの背後の草が二つに分かれ、冷めた目をした金髪の男が現れた。


「こんな山中で、誰に見つかる心配をしてるのかな?」

「ひっ⁉」


 慌てて後ろを向くと、すでにもう一人の黒髪の男が道を塞いでいた。


「あー、ほら、例の……」


 黒髪の男は金髪の男に向けて、叔父様を顎で示した。


「……」


 金髪の男は顎を触りながら、「ふむ……、悪いが全員こっちに出てきてくれるか?」と言った。


 全員で沼の前まで行く。

 眼鏡をずらして視ると、黒い大蛇はあの時と変わらず、沼の上でとぐろを巻いていた。


「お、オレ達をどうする気だ!」


 威勢良く啖呵を切ったハロルドに、叔父様が無言で小さく首を振った。

 そして、叔父様は金髪の男に向かって口を開いた。


「何かお邪魔をしてしまったのなら、お詫び申し上げます。私達は何も見ていませんし、何も聞いていません。何も知りたくもありませんし、知りたいとも思いません。ですから、どうかお見逃しを」


 そう言って、丁寧に頭を下げた。


「こりゃ驚いたな……。ひとつ聞くが……なぜ、そこまで俺達を警戒する?」


 叔父様はすっと指先を金髪の男の腰元に向けた。

 そこには革製のホルダーに入った短剣があった。


「ん? 武器が怖いからか?」

「いえ、その紋章ですよ」


 ハッと金髪の男が目を少し見開いたように見えた。


「ははは! なるほどな……俺としたことが、すっかり忘れていた。だが、本当にそれだけか? 他に何か知っているように見えるのは、俺の気のせいかな?」

「本当に何も知りません」


「まあいい、オストラム商会のジェレミー、だったかな?」

「⁉」


 なぜ、叔父様のことを――⁉


「そっちは、姪のフレデリカ・オストラム。ギルマン男爵家の一人娘だな。なぜ、旧姓を名乗っているのかは知らんが……まあ、これ以上詮索するつもりはない」


 金髪の男はゆっくりと私達の間を歩く。

 そして、ハロルドの顎を雑に掴んで、じっと目を見つめた。


「うぅっ、やめろ……」

「……で、坊主、お前はどこかで見たような……まあ、いいか」と言って、パッと手を離した。


 私は彼等を知りたいと念じた。


・ヨハン・アルベルト

 オルローズ家に仕える騎士。主に汚れ仕事を任されており、裏執事と呼ばれている。


・ベイツ・オルコン

 並外れた剣術の腕だけで雇われている。短気。


 この人達……危険だわ。

 どうしよう、このままじゃ……。


「お前達のことは、ちょっと調べさせてもらった」

「へへ、俺が調べたんだぜ」


 黒髪の方の男、ベイツが得意げに笑う。

 ヨハンがベイツに黙れと言うように鋭い目を向けた。

 ベイツは小さく両手を挙げ、ヨハンから離れる。


「で? 王都の何でも屋がここで何をしている?」

「農園の主人から依頼を受けました。水がおかしいと。それだけです」


 叔父様は端的に答える。


「そうか、水がねぇ……。で、何かわかったのかな?」

「いえ、何も」


「では、お嬢さんに聞こうか。なぜ、俺達のことを知っている? どうも、短剣で知ったとは思えなくてねぇ……」

「い、いえ、誤解です……私達は何も……」


「隠しても無駄だぞ? 痛い目に遭いたくないだろう……」


 ヨハンが近づいてきて、少し顎を上げたまま、私を見下ろした。


「やめろ! フレデリカに触れるな!」

「あ?」


 その時、ヨハンの胸元から黒い靄が溢れ出してきた。


 ――え⁉

 あ、あれは……。


「もし、フレデリカに指一本でも触れたら……あなたを絶対に許さない!」


 普段の温厚な叔父様からは想像もつかない怒声だった。

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