表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼令嬢フレデリカ ~絶対浄化の力を持つ美形な叔父と価値を見通す魔眼持ち眼鏡っ子が王都の闇をマネタイズ!~  作者: 雉子鳥幸太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/24

開かずの館③

 館の玄関に着く。

 重厚感のある扉には、美しい紋様の彫刻が施されている。

 鍵を開けようとする手を止め、マーカスさんが振り返った。


「中は自由に見てもらうようにと、旦那様より仰せつかっております。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「は、はい……」


 マーカスさんは「では」と、小さく会釈をして鍵を開けた。

 叔父様は不安げな表情で辺りを見回している。


 マーカスさんが何度か体当たりをしながら扉を押すと、ガゴンッと重苦しい音が響き渡った。

 すぐにカビの臭いと大量の埃に襲われる。


「コホッ、コホッ……すごい埃ですね」

「本当に一度も開けていなかったのですか?」

「……もちろんです、嘘は申しません」


 陽の光に照らされ、館の中へ私達三人の影法師が伸びている。

 薄暗い館の中を覗き込むと、きゅっと肌が引き締まるような感覚を覚えた。


「フ、フレデリカ……こ、これは無理だよぉ……」


 情けない声を出して、叔父様が私の背中にひっついてくる。

 私は小声で「ちょっと叔父様! マーカスさんが見てますってば!」と、肘でぐりぐりと叔父様を押した。


「――私は馬車でお待ちしております。査定が終わりましたら、お声掛けください」

「えっ⁉ あの、ご一緒には……」

「私は何も見ていませんし、知るつもりもございません」


 マーカスさんは丁寧に頭を下げ、「それでは――」と、馬車の方へ戻っていった。


 呆然とその後ろ姿を眺めていた叔父様が、「だめだ、やっぱり変だよ。査定に立ち会わないなんておかしい、絶対に何かあるんだ! も……もしかして、呪いを私達になすりつけるつもりじゃ……」と、声を震わせながら、口元を手で覆い隠した。


「叔父様、しっかりしてください。真夜中ならまだしも、今はお日様も出てます。何も怖いことなんてありませんよ。それにほら、見て下さい――」

「え?」


 私は通路の脇に置かれた大きな壺や、壁に掛かった油絵を指さす。


「ここは200年もの間、閉ざされていたんですよね?」

「そうだけど……」

「ということはですよ、叔父様。ここにある調度品は、単純計算でも『二〇〇年物のヴィンテージ』ということですわ」

「あ――」


 やっと叔父様が、この館の価値に気付いたようだ。

 入り口から見渡すだけでも、数枚の油絵に陶磁器が数点。

 そして、振り子は止まっているが立派な柱時計に、今にも動き出しそうな獅子の置物。


 エントランスだけでこの調子なら、いったいどれだけのお宝が眠っているのか、ふふっ。

 それにしても、やけに館の状態がいいわね……。


「状態にもよるが……これは、とんでもない値が付きそうだ」

「ええ、叔父様。これはチャンスですわ。ロイヤル・ガーデンの一等地だなんて、普通ならお金じゃ買えませんもの」


「まあ、それはそうだけど……」

「恐らくボルタン家にとって、妙な噂が立っている今の状況は、私達の想像以上に不名誉なことなのではないでしょうか。だから、なりふり構わず処分を急いでいるのかと」


「なるほど、それはたしかに一理あるね……」

「そういうことですわ、叔父様。さ、宝探しを始めましょう」

「よ……よしっ、わかった!」


 と、まずは、一階から調べていくことにしたのだが……。


「あの、叔父様?」

「何だい、フレデリカ?」

「……なぜ、私の後ろに?」


 叔父様がパッと私の肩から両手を離す。


「えっ⁉ あ、いやぁ……そ、そう、この絵が気になってねぇ……うん、良い絵だ」


 廊下の壁に掛けられた肖像画を見て、叔父様が大袈裟に何度も頷く。


「……こういう女性が好みなのですか?」

「へ?」


 所々にひび割れがあるが、淡い青色のドレスを着た栗色の髪の美しい女性が描かれている。

 私は少し眼鏡をずらした。


・肖像画 エミリア・ボルタン(18) 7,500(ゴル)

 

 うぅん、さすがに高額だ。

 ま、こんなに素敵な肖像画ですもの……当たり前よね。

 むしろ、お父様の怒りの値段より上で安心したわ。


「だって、この方……たぶん、ボルタン家のご令嬢ですよ」

「えっ、あー……。うん、とても美しい女性だね」


 叔父様は照れ隠しなのか、腕組みをして顎に親指を当てながら「ふむ、これはこれは……」と私の質問をやり過ごそうとしている。

 私はやれやれと内心で肩を竦めながら、「叔父様、行きますよ」と先を促した。


 しばらく二人で館内を見て回っていたのだが、外観から見た印象よりも中が広い。

 この分だと、全部見て終わる頃には日が暮れてしまいそうだ。


「叔父様、時間が掛かりますし、ここからは二手に分かれませんか?」

「えっ?」


「あとで、一階の階段前で落ち合いましょう。では――」


 ぐっと腕を掴まれる。

 振り向くと、叔父様が困り顔で笑みを浮かべていた。


「叔父様?」

「……ん?」


 振りほどこうとしても、叔父様は妙な笑みを浮かべたまま手を離そうとしない。


「えっと……叔父様、時間がありませんわ」

「そうだね、フレデリカ。でも折角の初仕事なわけだし、最後まで二人でやり遂げようじゃないか」


「私の話、聞いていただけましたか?」

「大丈夫、マーカスさんは一流の執事だからね。待つと言ったらいつまでも待ってくれるよ」


「でも……」

「ね?」と、天使のような笑みを浮かべる。


「……わかりました、一緒に回りましょう」


 叔父様って、意外と頑固なのよね。

 まぁ、仕方ないか。叔父様あってのお仕事なわけだし……。

 

 結局、私はびびりまくった叔父様を連れ、再び館内を回ることになった。


 さて、あんまり視すぎると明日の体調が心配だけど……やるしかないわね。

 静かに呼吸を整え、私は館に入って初めて眼鏡を外した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ