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爆!木のお化け軍

「やばい!やばい!やばい!櫻井さんなんで一条君を気絶させたの!?」

「し、仕方ないじゃない!私だってびっくりしたんだから!」

「あたち一回だけならヒールできるよ」

「待ってうさちゃん。なぜか工藤君も倒れてる!男子がいないと木のお化けやっつけられないじゃん!」

「無理、無理、無理!死んじゃう!私達死んじゃう!」


 女子達の慌てふためく声が聞こえる。

 あれ?俺何で倒れてるんだ?

 確か櫻井のニップルに吸い付いて、レロレロしてたはずだが?


 身を起こし辺りを見回す。何この状況。


 木のお化けが大量発生。

 女子二人は、乱れた制服を整えながら右往左往している。

 工藤はどこだ?あ、いた。倒れて何かブツブツと呟いている。


 ふむ、このラインナップで一番気になるのは工藤だな。いったい何を呟いてるんだ?


 俺は工藤の下へ駆け寄り、耳を近づけた。


「ジョシ、ポッチ、レロレロ、レロレロレロ」


 同じ言葉を繰り返す工藤。

 前と同じ症状じゃねーか!!

 マジで何があった!?


「ねぇ、何あのでっかいの……」

「あ、あ、私達がうるさくしたばっかりに……」

「あわわわ。あたちは夢を見てるんだ。そうに違いない!」


 おっと、工藤よかこっちが先だったな。


 迫り来る木のお化けに囲まれて絶望する女子達。目が潤み、足が震えている。

 ん、なんかデカいのがいるな。他の奴らより3倍位デカいんじゃないか?


 この状況、流石にめんどくせーとは言えないか。


 俺は女子達に近付き、櫻井の肩に乗っているうさぎを摘み持ち上げる。


「あああーーー!!やめれー!!やんのかこらー!!って猿じゃないの。びっくりして損した」

「誰が猿だよ、綿をひっこ抜くぞ」

「一条ぐーん!!だずげでーー!!」

「一条君!殴ってごめんねー!良かった目が覚めてー!」


 女子二人に抱きつかれる俺。

 え?最高かこれ?最高かよこれ!!


 俺の広い胸でべそをかく二人。よっぽど怖かったんだな。うんうん。頼れる男は辛いねー全く。わはははは。


 俺は二人の頭を優しく撫でる。


「俺に任せとけ。ほら、泣くなよ二人共。涙で可愛い顔が台無しだぜ」


 取り敢えずカッコつけとこ。俄然やる気出てきたわ。


 俺は優しく二人を引き離し、うさぎを地面に置いた。


「うさぎ、俺は大丈夫だから工藤を頼む」

「はーい」


 工藤のもとに駆け寄るうさぎ。

 さて、俺はこいつらをどうにかするか。


 一匹づつへし折るのもいいが、時間がかかりすぎるな。


「一条君、あの辺が手薄じゃないかしら。あっちから突破する?」

「櫻井さんの言う通りあそこが一番いいかも。あのデカいのとは逆方向だしね」

「あ?何言ってるんだ?全部やっつけるに決まってんだろ」

「「え!?」」


 俺の発言に心底驚く櫻井と木下。

 凡人には理解できねーか。


「流石に無理だよね?私たち守りながらだよ?」

「センセー、物理的に無理だと愚考致します!」

「無理じゃねぇって。地元で100人位のヤンキーに囲まれた時もこんな感じだったぞ」

「え……まって、意味がわからないんですけど。本当に私と同じ時代に生きてる人?」

「それにしたって、木のお化けはもっと多いよ。ヤンキーよりは手強いだろうし」

「そんな事はねぇって。どっちも同じだ。俺にとっては枝豆とずんだもん程度の違いだぞ」

「例え分かりづら。それって結構違うくない?」

「ふむふむ、カレー味のう○こか、う○こ味のカレー的な感じ?」

「そうだ」

「いや、意味分からんし」

「いいから下がってろ!お前らの事は守るからよ」


 100パーセントの自信。100パーセントの安全をお届けします!

 という雰囲気を出したら納得してくれた。


「……お願いします」

「信じてるよ。一条君!」


 360°辺り一面木のお化け。

 装備無しのゾンビパニック。一般人ならそりゃあ逃げの一択か。

 俺からしたら寧ろ、ヤンキー相手よりもやりやすいぜ。手加減する必要無いからな。


 目を閉じて、大きく息を吸って吐き出す。

 戦の匂いだ。よし、蹂躙してやる。


 俺は武術の達人。

 頭のてっぺんから足の爪先迄、武で満たされている。


 “勁”とはすなわち力にあらず。

 筋肉に頼らず、頭脳に頼らず、技術に頼らない。

 時には激しく、時には緩やかに、時には疾速に、時には緩慢に、肉体と精神の境目を無くし一路で繋がっている状態。


 この状態は武術において基本の基なわけだが、内功と同様に人によってかなり差が出る。簡単に言えば練度の違いだ。

 因みに俺は言わずもがな、完璧な状態である。


 ふぅー。相変わらず仕上がってるぜ俺。


 中腰で半身を捻り、無数の標的に相対する。軽く握られた右手は胸元に、広げた左手を正面に。俺の技は大地の力も利用する。


 地面を引きずる様に動く木のお化け。

 地鳴りの様な音を大量に響かせる。

 その光景はまるで世界の終焉。


 ムーとかいうボケが言ってたエイリアンって、まさか木のお化けの事か?これだけの数だ、やっつければそれなりに世界を救ったことになるんじゃないか?


 ……それは無いか。流石にこのレベル相手に世界が滅ぶわけねーよな。

 まぁ考えてもしゃーない。全員ぶっ飛ばすだけだ。


 雑魚が群れても所詮雑魚。

 白帯が群れたら熟練者には勝てるかもしれないが、達人に勝てないのもまた道理。


 さっさと終わらそ。


 そして俺は木のお化けに向かって、高めた気を打ち出した。


 太極拳奥義、長勁(ちょうけい)(発勁)閃天李(せんてんり)


 風圧ではない衝撃(インパクト)

 長距離、広範囲の見えない衝撃(インパクト)が木のお化けを襲う。


 通り抜けるのは気。

 音もなく、無音の衝撃だけが個々を捉える。


 対面にいた多くの木のお化けが一斉に爆散。攻撃範囲内にいたバカでかい木のお化けも、もれなく爆散した。


 きーもちいいーー!!


 ここまで威力をセーブせずに放ったのは初めてだぜ。

 ん?ヤ○ザの事務所吹っ飛ばした時は全力だったかな。あんま覚えてないけどまぁいいや。

 ストレス発散に最適だなこれ。めちゃくちゃ気持ちいいやん。


「うっひゃっひゃっひゃっーーー!!」


 バン、バアァン!!


「うひひひひー!!」


 バババババアアン!!



 俺が木のお化けを殲滅する傍ら、女子二人は呆然と立ち尽くしていた。


「これは夢よね?」

「うん、夢に違いないのだ」


 俺は自重しないぞ?

 好きなようにやってやらー

 

「だーははははは!めっちゃ気持ちいい!」


 バカアアン!!


「相変わらずデタラメな男だ」

「あ、工藤君。良かった無事で。うさちゃんありがとね」

「いいってこと。でも体動かないから、レンにだっこしてもらってるの」

「助けてくれたんだ。この程度どうってことない。……それにふわふわは大好きだ」

「何か言った?」

「何も言ってない」


「おい工藤!!小さいのが行ったぞ!!分かってるよな?」

「当たり前だ」


 普通サイズに比べて、小さいサイズも混ざっている様だ。

 動きが早く、俺のストレス発散キャノンをすり抜けてくる。


 チッ、まぁいいか。

 雑魚は工藤に任せよう。

 俺はストレス発散で忙しいからな。


 そして工藤は、俺の発信よりも早くナイフを握りしめ、即座に対応した。


 二本のナイフを持ち、まるでバターでも切る様におちびな木のお化けを両断していく。


 おいおい、なんだよそのナイフは。

 ナイフで木が切れるなんておかしいだろ。


 ……やはり内功か。

 おそらく“二冠”位。常人の域は脱してるってわけだ。


 俺は素直に感心した。

 工藤は中々にすげーやつだ。性格はクソだが、こいつの強さは認めざるおえない。


「おらーーー!!!」 


 バカアアン!!


「…………」


 スパ、スパ、スパ


「凄すぎる」

「この二人は同じ学校に居たんだよね?一体何を学んだらこんなに強くなれるのかしら。絶対に有名人だったはずよね?」

「記憶が無いのが悩ましいぜよ」


 俺と工藤はあっという間に、木のお化け軍を殲滅した。

 やっぱ最初からこうするべきだったな。あースッキリした。


「おい工藤。お前も内功を習得してんだろ?どこで習得したんだ?」

「人に尋ねる時は先に自分が開示しろ」

「あー?まぁいいけど。俺は家が道場でよ、毎日修練してんだよ。因みに俺は“四冠”だぞ」


 工藤は苦虫を噛み潰した様な表情を見せる。

 自分の方が劣ってるのが悔しいのだろう。


「俺も内功は習得している。だがどこで学んだのかは思い出せない」

「おおー、やっぱりそうだったか。すげーなお前。まさか同じ学校で内功習得者がいるとは思わなかったぜ」


 工藤は俺の褒め言葉を受け、さらに眉間にシワを寄せる。プライドの高い奴だ。俺と比較しても勝ち目ねーぞ。


 こうして俺達の小麦畑戦争は幕を閉じた。


 戦場には大量の砕かれた木々が散乱し、戦争の激しさを物語っている。


 風に揺れる小麦達は、何事も無かったかのように、サワサワといつも通りの音を響かせる。


 “終わったのね”……と憔悴しきった顔で呟く櫻井。


 そりゃあそうなるか。

 チュー○ッカもどきを撃退後、俺たちは細心の注意?を払いながら何時間も歩き、遭難確定と思われた矢先、ドローンという希望を見出す。しかしそんな幸せも束の間、大量の木のお化けに囲まれ、絶望の淵に落とされた。


 流石に、日和ってる女子達にはきつすぎるか。平和ボケしすぎなのも問題だな。


『正確には“ドローンという希望を見出した後、一条君が私と櫻井さんにエロい事をしたせいで、大量の木のお化けに囲まれて、絶望の淵に落とされた”だね。一条君が原因だからね?』


 木下が脳内に語りかけてくる。

 うるせー!頭の中にまで喋りかけてくんな!


 俺はエロい事をした。それは確かだ。

 だがそれは、極度のストレスが原因で引き起こされた事故だ。

 あーしなければ、状況はもっと悪くなっていた。それは間違いない。

 

 疲れ果てた女子と一匹を横目に、俺は判断を下した。


 ……今日はここまでだな。これ以上移動したところで進展は見られないだろう。


 終末の小麦畑にて、俺達は全会一致で野宿する事が決まった。


ーーー


「工藤君、ドローン出来そう?」

「あぁ、明日の昼頃には出来上がりそうだ」


 櫻井の問いかけに答える工藤。

 上向きに広げた右手には、まだ到底ドローンとは呼べないフォルムの機械部品がころがっている。


 櫻井は“明日の昼頃”という言葉に、明らかに残念そうな顔浮かべるも、直ぐに表情を改める。


「頼ってばかりでごめんね。何か出来る事があったら声かけて。私何でも手伝うわ」


 工藤は頷き、続けて要望を口にした。


「それなら、焚き火から火の付いた木の棒を持ってきてくれないか?」


 工藤の要望に、櫻井はクエスチョンマークを浮かべる。


「え?これを何に使うの?危ないわよ。火傷しちゃう……」


 櫻井は言葉では否定しながらも、しっかりと工藤の下に木の棒を届ける。


「別に……ただの露払いだよ」


 そう言いながら工藤は木の棒を受け取り、そのまま高温に熱されて真っ赤に染まる端部を、櫻井の顔の横に持ってきた。


 櫻井が『え!?』っと驚きを口にした瞬間、何かが木の棒に突っ込んできた。


 ベシッとぶつかり、ジュウっと身を焦がす何か。


「きゃ!!何!?虫!?」


 櫻井はその場から一歩横に飛ぶと、焼けた何かに視線を落とす。


 俺と木下も気になり、一緒にその物体を覗き込んだ。


「キモッ!何これ?」

「ヒル?」

「ヒッ!ヒイィィィ!!私ナメクジ系無理ーーーー!」


 見た目はヒル。

 ヒルよりちょっとでかい気がする。


 ヒルはウネウネと体を動かし、火傷の痛みに身を悶えてる。そして、その火傷が致命傷だった様で、そのまま動かなくなった。


「し、死んだ?」

「気持ち悪い……工藤君、助けてくれて本当にありがとう」

「……まだいるぞ。あと二匹。このヒル……普通じゃないな」


 工藤の言葉に凍りつく櫻井。

 櫻井は無意識に工藤に体を寄せて、守りを固める。


「なんだよ」

「私も守ってちょんまげ」

「あぁ?ヒルごときに何ビビってんだよ。ほら、離れろ!」

「嫌!私は一条君に守ってもらうの!」


 俺の背中にピッタリとくっつく木下。

 柔らかいし温かい……離れなくてよし!!

 ……じゃなくて!う、動けん!なんでこいつこんなに力がつえーんだよ!


「おらーー!!」

「きゃーーー!」


 ふぅ、俺が本気を出せばこんなもんよ。

 木下には悪いが離れてもらうぜ。そもそも、くっついてたら助けられねーだろ。


 木下が俺を睨みつける。


 まぁ、守ってやるから許せ。


「それで?工藤!ヒルはどこにいんだよ!?」

「は?なんでお前は気付かないんだ?本当に“四冠”なのか?サーチしたら簡単に分かるだろ」


 “気”を拡散させて周囲を索敵していたのか。

 めちゃくちゃ高等技術じゃねーか!全然簡単じゃねーよ! 


「いちいち小動物に気を使ってられるか!俺はそんな事する必要ねーんだよ!」

「お前……そんなんじゃ誰も守れないぞ?」


 あぁ?何言ってんだこいつ?

 少し内功が使えるからって調子乗りやがって。温厚な俺でも流石にキレるぞ。


「馬鹿が……誰が何も守れないって?」


 それは一瞬だった。

 先程同様、飛び出して来たヒル。

 工藤はそれを対処すべく動こうとしたが、事態は既に片付いていた。


「あくびが出るぜ」


 俺は右手で掴んだヒルを握り潰す。


 工藤とはリソースの使い方が違う。

 俺は体全体の、細胞一つ一つに気を集中させて、そこからさらに圧縮している。


 形意拳奥伝(けいいけんおくでん)

 “方位盤石(ほういばんじゃく)武皇の理(ぶこうのことわり)


 五感の全てもハイパーブーストされており、耳で聞き、目で見て余裕でした。という状態である。


「誰も守れないだと?ふざけたことぬかしてんじゃねーぞ」


 俺は工藤に睨みを利かせて威嚇する。


 しかし工藤はその程度では怯まなかった。

 ちっ、と小さく舌打ちするとその場に座り込み、ドローン作成に専念し始めた。


「あと一匹だ。お前が片付けろ」


 え?

 それは話が違うってばよ。


 工藤の発言に戸惑う俺。

 不味い。俺は索敵が苦手なんだよ。

 でもそんな事は言えねーしな。俺のプライドが許さねー


「ま、待て工藤……ここはお前に花を持たしてやる。うん、俺っていい奴だからよ。お前に見せ場を譲ってやるってばよ」

「俺はお前に“片付けろ”と言ったんだ。忙しいから喋りかけるな」


 そう言うと工藤は、体を回転させ俺に背を向けた。


 俺に勝てないからって拗ねてやがる。

 ガキかよ!


 どうする!?どうする!?

 あんな小さい生き物、俺には探せないぞ。

 つーかヒルを索敵するって、どういうことやねん!変態やんこいつ。こいつただの変態やん!!


「一条君……大丈夫?」

「一条君なら大丈夫だしょ。だってあの一条君だよ?“あくびが出るぜ”とか言ってカッコつけてたんだから。楽勝だよ。そうだよね一条君?」


 俺が動揺してるのに気付いたのか、心配そうに寄り添う櫻井。

 一方で木下は、不気味な笑みを浮かべながら俺に問いかける。


「あれあれー、どうしたのかな?かな?なんで何も答えないのー。一条君らしくないなー。ほら“あくびが出るぜ”キリッって言ってよ」


 くっ、こいつわざと……


 完全に俺で遊んでやがる。

 さっき振りほどいたのを根に持っているのか!?


 ぐぬぬ、だが俺は死んでも出来ないとは言わんぞ!何か方法を考えるんだ!


 木下はニヤニヤと笑い、俺の心をもて遊ぶ。


「は、はぁーー?ヨユーだっつーの。何?俺を疑ってんのか?」

「えー?疑うわけ無いじゃん。あれだけ工藤君を煽ったんだから、やれるに決まってるでしょ。そうでしょ?」

「た、たりめーよ。俺に不可能はない。さぁて、ヒルはどこに隠れてるのかなー」


 出てこい!ヒル!出てこい!

 なんで急に怖気づいてんだよ。さっきまでの勢いはどうした!ぴょーんと飛び出せよ!


「もし……もしだよ?一条君がヒルを退治出来なかった場合、罰として私の言う事何でも一つ聞くってのはどうかな?」

「何でそうなる!」

「もしもの話だって!勿論私は退治出来ると思ってるよ。でもさ、万が一もあり得るじゃん。その時は工藤君の心を傷付けた責任と、私達を危険に晒した責任を取ってもらわないと」

「なんでお前の言う事を聞かなくちゃなんねーんだよ。その権利は工藤にある」

「俺を巻き込むな。勝手にやってろ」

「一条君に責任は無いと思うけど……」


「だめだめー!一条君には責任を取ってもらいます!私がそう決めたの!部外者は口を出さないで!」

「部外者ではないだろ。話が根本から変わってくるぞ」


 とはいえピンチには変わりない。

 クソッ!何で俺がヒル退治なんかしなきゃなんねーんだよ。

 多少強引だけど、あたり一面吹き飛ばすか!?


 夜は深く。焚き火から周囲3メートルを超えると、そこはもう真っ暗闇である。


 これ探すの100パー無理やん。


 俺だって索敵くらい出来る。だがヒルを見つけるとなるとそう簡単にはいかない。

 それこそ変態の所業である。


 俺の焦りを感じとったのか。木下の笑顔も深みを増していく。


 俺の頬に一筋の汗が流れる。

 そして俺は適当なことを口走っていた。


「おや、ヒルの野郎遠ざかってるな。俺は去るものは追わずだ。あー残念!やっつけたかったなー」

「嘘だ!一条君は嘘をついてる!」

「ガハハハ。お前の思い通りにはさせん」


 木下の悔しがる表情に俺は満足すると共に、頭を悩ませる。


 時間は稼いだ。しかし嘘はいずれバレる。

 早く処理しないと、俺は木下の言う事を何でも一つ聞かなくちゃいけない。


 部外者の工藤と櫻井は、既に俺と木下を無視して二人で雑談に興じている。俺に仲間は居ないのか……?


 背中に伝わる寒気。

 振り返るとそこには、俺を凝視する木下の姿が。


「ひっ!」


 思わず声が漏れる。


「うふふふ。嘘は良くないなー。本当のこと言いなよー」


 こいつ怖えぇぇぇ!!


 木下は目の玉を動かさず、俺の顔一点だけを見つめる。放心状態にも見えるがそうじゃない。獲物を逃さないという強さも感じさせる。


 お、俺が追い詰められている?


「だ、だから。ヒルは逃げたんだって……」

「嘘だ!!!!!」


 木下の声が空気を揺らす。

 木下の喝は周囲の音ごと消し去った。


 ヒッ、ヒィィィィィ!!この女やべぇ。完全に目がパキってるぞ。つーか何で鉈持ってんだ!?

 あ、錯覚か。


「すみませんでした!!嘘をついてました!!俺にヒルは探せません!!」


 一刻も早く謝るべきだ。俺は直感的にそう感じた。そして土下座をした。

 初めからそうすべきだったんだ。今優先すべきはプライドじゃない!

 とにかく今は木下を怒らせてはならない。


「むふふふー。それでいいのだよ」


 木下は俺が謝ると、直ぐに上機嫌になった。


 ふぅー、なんとか凌いだか。

 地面に擦れたおでこが痛いぜ。


 土下座したせいで、おでこが地面に擦れてしまったが、致し方なし。


 そして俺は、地面に沿った視界から、木材の下に隠れている黒い物体を見つけた。


 ヒル……こんなところに隠れてやがったのか。


 木下の大声に当てられたせいか、泡を吹いて気絶している。

 分かるぞその気持ち。あれはやばかったよな。少しばかり同情するぜ。


 俺は立ち上がりながらヒルを踏み潰し、目標を達成した。


「やったー!これで一条君は今後、私の言う事聞かなきゃダメだかんね」


 今後!?さっきと言ってること違うじゃねーか!こいつ口を開くたびに言ってることが変わってるぞ!?


 しかしそんな不満も、木下の笑顔をみると不思議と許せてしまう。 


 こいつマジで……

 こんな笑顔反則だろ。


「まぁ、今回は俺の負けだ。しゃーねーから言う事聞いてやるよ。ただし1回だけだぞ」


 俺はそう言って、木下の頭に優しく手を置いた。


「えへへ」


 木下は照れくさそうに笑う。


 その瞬間、俺の脳裏に電撃が走った。


 こいつは俺が守らないとダメだ。


 櫻井に視線を移すと、同じ感覚に陥った。


 この二人は俺が守らないとダメだ。


 目の前にいる女性が危機に瀕した場合、助けるのは当たり前だが、この感覚はそれとは全く異なる。


 大切な人。


 そう、俺にとってこの二人は大切な人に感じる。……恐らく工藤も。やっぱ知らん!工藤は一人で生きろ!


 なぜそう感じるのか、俺にも分からない。


 謎の惑星に放り出された俺達は、行き場のない不安を押し殺す様に身を寄せ合う。

 少しでも心を軽くする為、他人と夜を共にする。


 こんな理不尽な事はない。

 こんな不条理な事はない。

 こんな絶望的な事はそうそうない。

 なんで俺がこんな目に?

 普通なら精神崩壊するレベルの境遇だ。


 けどなんだろう……この不思議な感じは。

 どこか懐かしく思えるこの状況。

 木下、櫻井、工藤、この三人と共に歩む旅路は心地よく、まるで昔馴染みの親友と一緒にいるみてーだ。


 赤の他人であることは間違いねーはずだが……

 いや、もしかして俺達は以前から……


「それでヒルはどうするの?」

「あぁ、それなら今退治したところだ。ほら」

「げぇ、キモッ!」


 この気持ちがなんなのかは、今はまだわからない。

 だが一つだけ分かったこと。いや、感じる事がある。

 俺達は一緒にいなきゃ駄目って事だ。


 はっ、やってやろうじゃねぇか。

 ムー、てめぇの期待に応えてやるよ。

 必ず記憶を取り戻し、エイリアンを駆逐してやる。そして地球に帰る!!


 このメンバーなら、それが出来る気がしてきた。俺は決意を新たに、気を引き締めるので、あった。

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