魔王様、チェックメイトです
「魔王様、『チェス』という競技をご存知ですか? その中では最弱の駒である歩兵が、敵地の奥にまで入り込むと他の駒に昇格し最強の女王になることすらできるという……」
「……貴様がそうだとでも、言いたいのか」
自分に剣を突きつける彼女に向かって、魔王はそう問いかける。
攻め滅ぼした人間の国、その中でまだ幼かった者には兵士としての教育を施した。その中で美しく、聡明な少女ノエルは魔王の側近へと成り上がり――そして今、他の側近たちを全て殺した後に魔王へ向かって最後の一撃を与えようとしている。
魔王とて、彼女を警戒しなかったわけではなかった。ただノエルの力量が、魔王のそれを上回っただけ。それを受け入れた彼は最後の悪あがきなどせず、魔王軍の鎧を身に着けたノエルへと苦々し気に尋ねる。
「余をここで殺した後、貴様はどうするつもりだ? 人間たちを救い英雄になるか、それとも我々を殺し復讐を続けるか。貴様の目的は、何だ」
「私の目的は、そんな小さなことではございません。貴方様は知らないでしょうが、私は既に魔王軍の過半数を味方につけています。その兵士たちを引き連れ、私は国を作ります。そうして未発達な国を配下におき……」
「『自分が新たな魔王になる』か。わかっておる、余もそうであったからな」
自分の望みを先に言い当てられ、ノエルは表情を曇らせる。
しかし魔王は諦めたような表情で、乾いた笑みを浮かべると「チェスのことなら、余も知っているぞ」と語り始めた。
「王が騎士やら司祭やらを引き連れ、同じような相手と頭の取り合いをする……全く、今の状況と変わらないじゃないか。余が消えたとして、貴様が新たな魔王になるだけで現状は変わらないだろう。それで、貴様は本当に満足か?」
「っ違う! 私はやり遂げてみせる、この世界を平和に導き……」
「余もそのつもりだったが、その結果がこれだ。まぁ良い、これも運命だ。貴様がどのぐらい、やり遂げられるか地獄から見守ってやろうじゃないか」
言い終えると、魔王は自らノエルの剣を胸に突き刺す。
「余はここでチェックメイトだ。貴様はせいぜい頑張ることだな」
ノエルが驚くのも束の間、そう言い残した魔王はそのまま呆気なく死に至る。
「……私は違う。私は、やり遂げてみせる」
言い聞かせるようなノエルの言葉は、虚空に響く。
そして月日が経ち――
「魔王様、チェックメイトです」
向けられた言葉に、ノエルは嗤った。




