第二話:あんなこといいな、できるかどうかはしらんけど。
「ひぇぇぇ、グロすぎだろ……。」
飛び散った肉片を恐る恐る拾い上げる。
「ぶっちゃけ腹減りすぎててこれ以上無理なんだよなぁ……。」
目が覚めてからかれこれ5時間ほど歩きっぱなしだった。
……………………食うしかないか。
ここねちゃんのぉぉ?簡単!わくわく火起こしたぁいむ!
その1!
木の棒で石をぶっ叩いて粉々にします!
その2!
砕いた石で木にギザギザの溝を作ります!
その3!
チワワの肉片を拭き取った木の棒をめっちゃ回して強く擦ります!
コツは周りに燃えやすい木のクズなんかを置いとくとたくさん燃えるよ!
みんなもやってみてね!
ディス〇バリーチャンネル見といて役に立ったの世界で私だけだろ。
さすがここねちゃんだわ。
負ける気がしない。
……ってかこの犬の肉くっっそまずいやんけ。
温室育ちのお嬢ちゃんにはちょっと厳しいかな、ごめんねわんちゃん。
さて、どうしようか。
無闇矢鱈に歩き回るのは得策ではないと先程の5時間でよく分かった。
そろそろ村の人に助けられてみたいな展開になる予定だったんだが……。
取り敢えず今日寝れる場所を探さないと……。
時間の把握は太陽を見てだいたい分かる。
今はちょうど正午ぐらいだろうか。
日が落ちきるまではまだまだかかるだろう。
やはり歩くしかないのか………………
――――ガサガサ
……また犬か?
ゆっくりと音のなった方を見る
「おい!大丈夫かねぇちゃん!」
あっ!人だ!
となるとずっとあれやりたかったんだよね!
「第一村人発見!!」
「はぁ?……だいじょぶそうだな。」
よく見るとアメリカ人っぽくてイケメンじゃーん。
「いやいやちょっと待って下さいよ、見て?この服、血まみれでしょうが。」
「そう言われるとそうだな……怪我はしてないか?」
「弱肉強食の世界に足を踏み入れただけなので。」
「…………取り敢えず村によって休め。」
「いいんですか!やったぁ~!」
今夜の寝床ゲット〜♪
「おっ、いい女連れて帰ってきたじゃねぇか。」
「あらあら、おべっか使わないで下さいな。」
優しき村人Aさんが村の宿まで案内してくれた。
「狼煙が上がってたから急いで向かったってのに……その調子じゃ村まで一人で来れただろ。」
ため息を付きながら椅子に座り込む村人Aさん、なんか申し訳なくなってきた。
「いやいや、私実はここがどこかすらさっぱりなのですよ。なんせ起きたら森の中でして……。」
「なんだって?」
村人Aさんがまたしかめっ面になってる!
なんかまずかったかな。
「なぁ、こいつ、しばらくここの宿に泊めてやってくれねぇかな?金は俺が出す。」
「いいの!?」
「あぁ、ただしお前に少し確認してほしいことがあってな。」
なんか怪しくない?まぁお金出してくれるなら何でもしますけど……。
そのまま村人Aさんに連れられるまま村の中を歩いていく。
「あぁ、そういえば自己紹介してなかったな。俺はルドルフ、この街の警備をしている。」
「これはこれは、わたくしは足立、ここねと申します。15歳です。以後お見知りおきを。」
「15歳、やけに若いな。なにか仕事は?」
「…………学生、だったのかなぁ……?」
「なに?もしかしてお前どっかのお嬢様か何かじゃないだろうな?」
「いえいえ滅相もない。」
学校はこの世界ではお坊ちゃんお嬢さんが行くもんなんだろうか。
あまり言わないようにしておこう。
「あまり面倒事は起こすなよ?全部俺が対応しなきゃいけなくなるんだ。……ほら、ついたぞ。」
おぉ……でけぇ……。
道中で見てきたどの家よりも豪邸じゃん。
「ルドルフさんのお家?」
「いや、この村の地主様の家だ。」
はぇ〜、なんか地主って悪い人っぽさそう。
なんかされんのかな……。
「いかがなさいましたか、ルドルフ様。」
あっ!メイドさんだ!かわいい!
「例のぼうずに用がある、後こいつの服、着替えさせてやってくれ。」
あ、そういえばまだ血まみれのパジャマのままだった。
「お名前をお伺いしても?」
「あっ、ここねです!」
「ではここね様、こちらへ。」
すっごい腰が低いなぁ、まぁメイドってそんなもんなんだろうけど。
案内されるがままにお屋敷の中を歩き回る。
なんだか宗教的な内装だな、転生だとかなんだとかは怖いから伏せておこうか。
「ここね様っ!こちらでございますよっ!」
「あぁっ!すいませんすいません。」
豪邸はこれだから困る、地図でも置いとけ。
「うわぁぁ……すっごいかわいい……。」
渡されたのは純白のフリフリのお嬢様みたいなドレス。
「こちらは地主様のお子様が使ってらっしゃったものです。サイズが合わなければお教え下さい。」
「いえ、多分ぴったりですっ!あの、鏡ってあります?」
「こちらへ。」
「どれどれ〜?」
わくわくしながら鏡の前へと向かった私は驚愕した。
「え!なんで!?」
「どうかなさいました?」
「あっ、いえ……なんでも…………。」
髪の毛が、真っ白になってる…………。
そっか、異世界風に合わせてくれたのかな、いやでも黒髪の人も見かけたし、うぅん……。
ま、かわいいからいっか!
ドレスともいい感じにマッチしてるし!
「準備が整いましたら応接室までご案内しますが、大丈夫でしょうか?」
「あ、はい、お願いします!」
うーん……どうしたものか……。
出されたコーヒーがひじょーっにまずい。
酸味しかない。
「ここね、殿といったかね。わざわざお出でいただきすまない。私の名はドラ・エモだ。」
「ぶはっっっ……」
「?、どうかしたかね?」
ドラ○もんやんけ。
確かに見た目もよく見たら似てる気がしてきた…………。
「…………いえいえこちらこそ貴重なお時間をいただきまして誠に感謝しておりまする。」
肩の震えをどうにか誤魔化しながら挨拶する。
まぁ、思ったよりすごい優しそうな人で安心したっちゃしたからいいか。
「さて……早速本題に入らせていただくが……。」
「そちらの、男の子のことですよね?」
私がこの部屋に入る前からソファーに少年が寝かされていた。
私はその顔に朧気ながら見覚えがある。
「あぁ、そうだ。この子は今日朝森の中で気絶しているのが見つかった。聞く話によるとあなたも同じ境遇だったそうで。」
「えぇ、それに私、この子に見覚えがあります。」
「そうか。ここね殿は気絶する前のことは覚えているかい?」
「いえ、自分の家で寝て起きたら森の中でした。」
「それはなんと不可解な。不安だったろう。」
テンション瀑上がりだったなんて言えない。
「この子についてはなにか知っているかい?」
「いえ、ほとんど分かりません。しかしその子の着ている服からして、私と同郷であることは間違いないです。」
「そうか……ここね殿も今日は疲れたろう。またこの子が目覚めたら話を聞くことにしよう。しばらくの間ここに泊まって行きなさい。」
「いいんですか!?」
「あなたのような可憐な少女を、宿に一人で泊めさせるなんてことは出来まい。それにここにはたくさんの空き部屋がある、遠慮なく使うといい。」
なんてイケメンなんだ、ドラエモさん…………。
そんなことよりもさっきの男の子が来ていた服、あれうちの学校の制服だった…………。
しかもあの子、多分おんなじクラスの子だ、入学式でちらっと見た気がする。
この世界に来たのは私だけじゃない、そのことがこんな1日目で分かって良かった。
とにかく疲れた。
考えるのは明日にして今日はもう休もう。
――――月も隠れ、水のような夜闇がひたひたと体の中に侵食してくる。
この森では物音一つ許されない。
そこにあるのは棒を引きずる音だけだ。
――パキッ
「…………?」
見つかった哀れな命がまた一つ。