18話 10歳
その後も、幾度となく変身してみたり他の動物にもなろうと試みたが、数日経ってわかってきたこと。
まず、変身する能力には限界があり、リズが鳥に変身することができるのは大体1日に1回限りで、2回目以降は変身してもすぐに人の姿に戻ってしまうということ。
次に、リズが変身できるのは鳥の姿だけで、どう頑張っても他の動物に変身することは出来なかった。
「なんでかしら。やっぱり飛び降りないと効果がでないのかも」
「それは絶対にやめて!」
本当にやりかねないと思ったノアに、リズは強めに注意される。
「お母さまは自分と相性の会う動物でないと変身出来ないって言ってたから、きっとそれに関係するんだと思うんだ」
「相性の良さって、どうすればいいの?」
「そこまではわからないよ」
「そこが大事なんじゃない」
つい、いつもの調子で呆れたようにリズは言ってしまう。
すると、ノアはそれに若干ムスッとした。
「じゃあ、リズが自分で考えてよ」
そう言うと、突然ノアは拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
リズは目をぱちくりさせる。
こんなことで機嫌を悪くするなんて珍しかった。
リズの余計な一言なんて今に始まったことでは無いのに。
「考えるったって1人でどう考えるのよ」
「知らない」
そう一言残すと、ノアは部屋を出てってしまう。
ポツンとリズは部屋に一人取り残された。
「どうしたのかしら?」
やけに気がたっているようにも見えたが、こんな様子のノアは初めてで、ちょっと遅い反抗期?とリズは首を傾げた。
「まあ、考えるよりも行動あるのみよね」
そう言ってリズは、もはや慣れたようにベッドからぴょんっと、飛び降りながら鳥に変身して、開いている窓から飛び立つ。
今のところ、リズが変身していられる時間はだいたい30分くらいだ。
限界が来ると自然と元の、リズの姿に戻ってしまう。
元に戻るタイミングは自分でも何となく分かる。
ただ、分かっていても上空で戻ってしまったらどうすることも出来ないため、今のところ敷地内の庭ぐらいまでしか飛んでいない。
本当は街の方まで飛びたい衝動はあるが、下手をしたら帰れなくなってしまうため、そこは危険なことはしないようにした。
玄関先まで飛んでいくと、門の外に馬車が止まったことに気がつく。
誰かお客さまのようだが、こんな時間に誰だろう。
と思えば、出てきたのは見慣れた姿のウィルトリアとロッジだった。
リズたちの誕生日パーティ以来なので随分と久しぶりの来訪である。
ウィルはもはや慣れたように家の中へと入っていく。
ロッジはそのまま外の馬車の傍で待機しているようで、少し気の抜けた様子で空を見つめながらポツンと待ちぼうけしていた。
そんなロッジの姿を見ていると、ついイタズラ心に火がついてしまった。
リズが目をつけたのはロッジの胸元のハンカチ。
そして、狙いを定めてロッジに向かって飛んでいけば、そのままハンカチを咥えてロッジに捕まる前にとサッと上空へと飛びあがる。
完全に油断していたロッジは「うわっ」と言う声を上げると、驚きでこちらを見上げた。
そして今の正体が鳥である事と、その鳥がくわえているものを認識すれば、バッと自分の胸元を確認して、ようやくそのハンカチが自分のものであると気づいたようだった。
「な、この、返せ!」
と言って届きそうで届かない、鳥が咥えたハンカチに向かってロッジは必死に手を伸ばしてきた。
もうこの時点で、リズは非常に満足していた。
なので、もうそろそろ返しても良い頃合いかなと、少し高度を下げた時だった。ロッジの手が届く範囲になった途端、グイッと勢い良くハンカチを引っ張ったのだ。そのせいでリズごと引っ張られてしまい、慌てて逃げようとしたリズがハンカチを咥えたまま後ろに引っ込んだため、ハンカチを掴んでいたロッジがそのまま前のめりに倒れてしまったのだ。
「うわっ!」と情けない声を上げたロッジは、ハンカチのせいで咄嗟に手が使えずに、そのままバランスを崩してすっ転んでしまう。
リズの方は、その巻き添えをくう前にハンカチを手放したため無事だったが、さすがに悪い事をしたと申し訳なく思いロッジの様子を伺う。
「いたたた」と声を上げてはいたが、見た感じ怪我をした様子は見られなかったため、ひとまずほっとする。
そしてここに長居は無用だと、リズは犯人が自分だとバレる前に急いで逃げ出そうとした時だった。柵を挟んだ敷地内に誰か人がいたことにその時になって気がついた。
見れば荷物を抱えているアンナの姿で、驚いた表情でロッジの姿を見つめている。
ロッジもその視線に気がついたのか、アンナのいる方へ首を動かして目が合えば数秒固まってしまった。
そして慌てて立ち上がると、取り繕うように真面目な顔で会釈をした。
けれど、一部始終を見ていたアンナは残念なものを見る表情だった。
いたたまれなくなったリズは一目散に飛び立って部屋へと帰っていった。




