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第7章


 王太子ジョルジュとエリオットは、同じ年で髪の色こそ違っていたが容姿がよく似ていた。それは母親同士が姉妹だからなのだと思っていた。

 ところが母親同士ではなく、父親同士が兄弟だったなんて。

 

「何故そんなわけのわからない結婚をしたんだ。最初から好き合った者同士が結婚すれば良かったのに」

 

 思わずジョルジュがこう漏らすと、セリーアの周りの空気が一気に冷え込んだ感じがした。彼女は女性とは思えないほど低い声でこう言った。

 

「それができればそうしていたことでしょう。当たり前じゃないですか! 

 それが許されなかったから、そんな歪な形を取るしか方法がなかったのですよ。

 そしてその全ての元凶は現国王と先代国王なんですよ」

 

 セーリアのドスの利いた声に怯えたジョルジュは、できるだけ彼女から離れようと、無意識に石壁まで退いた。

 

「国王陛下と亡くなられた王妃様が、幼い頃から婚約されていたことはご存知ですよね?」

 

「もちろんだとも。母上はスレイン侯爵家の長女で、素晴らしい女性だった。

 知性と教養に溢れ、それはそれは美しいくて優しい方だった。母上こそ王妃の鑑だった」

 

「その通りでございます。王妃のシルヴィア様は幼き頃から王太子妃となるために、たゆまぬ努力をなさっていたそうです。

 ところが当時王太子だった陛下は、そんなシルヴィア様を裏切ったのです」

 

「父上が母上を裏切った? さきほど言っていた平民のことか? 

 どうしてなんだ……あんなに仲がよろしかったのに」

 

 信じられない、といった顔でジョルジュがそう呟いた。

 

「ええ、周りの者達も皆驚いたそうですよ。何故あんな完璧なシルヴィア様を蔑ろにして平民の娘などに夢中になるのかとね。

 確かに特待生で学園に入学するほど優秀で、愛らしい容姿をしていたとはいえ、シルヴィア様とでは比較になどならない少女だった……と皆さんおっしゃっていましたね」

 

「何故父上が平民の娘なんかと」

 

「その方は学園の同級生だったそうですよ。

 当時、完璧過ぎるシルヴィア様に陛下はコンプレックスを持っていらしたのでしょう。弟のマークス様にコンプレックスを持っていたように。

 しかし国王陛下は、王位後継者として決して劣っていたわけではなかったそうですよ。ただお二人に比べると少し平凡だっただけなのだそうです。

 人と比べたりしなければ楽だったのに、王太子たるもの誰よりも優秀でなければならない、という思いが陛下はお強かったのでしょう。

 

 だから、自分より優秀な人間を嫌い、自分より劣る者達を側に置いて安心したかったのでしょう。前国王であった父親ように。

 ああ、それは貴方も同じみたいですから、陛下のお気持ちがよくわかるのではないですか?」

 

「グッ!」

 

「そして国王陛下は学園の卒業式にシルヴィア様に婚約破棄をして、その平民の方と結婚すると宣言したのだそうですよ」

 

「まさか、そんなのあり得ない。

 宰相のスレイン侯爵の娘との婚約を破棄するだなんて」

 

「貴方でもわかることが貴方の父親にはわからなかったのですよ。魔女の魅了魔法にかかったわけでもなかったのに。

 無能だった前国王に代わって、国政を一手に引き受けてくれていたスレイン侯爵のご令嬢を、人前で婚約破棄すればどうなるかを理解していなかった。

 そしてそれがどんなに常識から外れているのか、どんなに非人道的なことなのかを」

 

「しかし、その婚約破棄は撤回されたのだろう? 現に父上は母上と結婚されたのたから」

 

「ええ。そうです。しかし、お二人は形式的な結婚でした。何故なら王太子はその娘だけが唯一の相手だといってきかなかったし、既にその娘のお腹には子供がいたからです」

 

「・・・・・」

 

「スレイン侯爵は烈火の如く怒り、宰相の座を下りると宣言されました。

 王太子を溺愛していた国王もさすがに慌てて、侯爵に頭を下げて懇願されたそうです。

 何でも言う事をきくから辞任しないで欲しいと。すると侯爵はこんな条件を出したそうです。

 

『シルヴィアがこのまま形だけの王妃として一生過ごすのではあまりにも憐れだ。ですから娘にも恋人を作る自由を与えて下さい。

 そして我が侯爵家の人間と王族と繋がりのある者との婚姻を新たに結んで欲しい』と。

 

 そうスレイン侯爵に要求された国王は、次男のマークス王子に侯爵家の次女アネッサ様を娶るよう命じられたのです。その時既にマークス様以外に王族はいませんでしたからね。

 マークス様がどんなに拒否されようが完全無視の王命だったそうですよ。

 しかしこのことをスレイン侯爵は後で死ぬほど後悔されたそうです。

 何故なら彼は、次女のアネッサ様がクライスト侯爵のご子息スティーブ様と思い合っていたことを知らなかったからです」

 

 

 ✽

 

 スレイン侯爵が娘に好きな相手がいたことを知ったのは、結婚式の翌朝に、娘が自殺を図ったと連絡があった時だった。

 アネッサはなんとか一命を取り留めたが、娘に寄り添って泣いていたのが夫であるスタンレー公爵ではなく、クライスト侯爵の令息だった。

 

 

 スレイン侯爵は長女ばかりか、次女までも王族と無理矢理縁を結ばせ、そのせいで彼女を自殺未遂まで追い込んでしまった。

 娘を不幸にしてしまったと侯爵は嘆いた。しかし王族との結婚を今更無いものにはできなかった。そもそもそれは自分が望んだことだったのだから。


 

 しかし彼はここで宰相という地位も侯爵としての誇りも捨て去った。

 そして娘の想い人の父親であるクライスト侯爵と、スタンレー公爵の想い人であるオリヴィエ嬢の父親であるカーティス伯爵に頭を下げた。そして、思い合っている二組のカップルの幸せのために、偽装結婚をしてくれないかと頼み込んだ。

 それがとてつもなく非常識だとわかっていながらも。

 

 すると、両家ともなんとその申し出を受けてくれたのだ。

 カーティス伯爵家の方は元々スタンレー公爵とは身分が違っていたので結婚できるとは思っていなかった。だから、その娘の思いが叶うならと。


 しかし最初クライスト侯爵家の方はさすがに難色を示した。当然のことだ。

 しかしやがてスレイン侯爵家が所有する最大の鉱山を譲り受けることと、生まれてくる子供はきちんと息子の子供と入れ替えることを条件に承諾すると言った。

 

 しかし子供の入れ替えとは、つまりスレイン侯爵の娘アネッサが産んだ子供をクライスト侯爵が引き取り、その反対にカーティス伯爵令嬢オリヴィエが産んだ子供はスタンレー公爵を引き取るということだった。

 これは二人の女性にとっては辛い所業だった。自分の産んだ子を手放さなければならないのだから。

 

 するとスタンレー公爵がこう言ったのだ。

 

「産まれてきた子供はみな兄弟として、クライスト侯爵家で育ててくれないか。

 もちろん養育費はきちんと支払わせてもらう。ただその代わりに家族ぐるみの付き合いをさせて欲しい」

 

 と。 

 それは夫人達のためであり、スタンレー公爵が自分の子供まで再び王家に利用されるのを避けたかったためでもあった。

 

 その結果クライスト侯爵の嫡男のスティーブとカーティス伯爵家のオリヴィエが結婚をした。高位貴族としては珍しくほとんど婚約期間を置かずに。

 

 

「その後はご存知の通り、スタンレー公爵家にはお子様がおできになりませんでしたが、クライスト侯爵家には次々と子供がお生まれになりましたよね。

 年子で男の子が生まれ、それから数年後には女の子がやはり年子でお生まれになった。そしてさらにもうお一人。


 クライスト侯爵家は年々賑やかになり、傍目には幸せに満ち溢れていたそうです。そしてその中にはいつもスタンレー公爵夫妻の姿があったのだそうです。

 どのお子様がどちらのカップルのお子様なのかはわかりませんが、エリオット様がスタンレー公爵様とオリヴィエ様の子であることは間違いないのですよ」

 

 

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