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82.可愛い孫には嫌われたくない小心婆心

「燻製にする時にスモークで別の香りを付けたいから、半分は草を被せていないの。

後は四隅の殻と身の間を切って水分を飛ばすと身が縮こまって内側に少し反るわ。

身がばらけにくくもなるから、殻から綺麗に外し易いのよ」


 可愛いお孫ちゃんに祖母ちゃんは、微笑みながら全力で説明よ。

 

 けれど、あらあら?


 お孫ちゃんてば、何かを逡巡して口を開こうとしてはやめるのを2度繰り返したわ。


 まあまあ、どうしたのかしら?

まだ説明が足りなかったの?


 何だか訝しげであり、どこか遠慮がちでもあるけれど、憂いのあるお顔も素敵ね。


 マズイわ……そんなお顔を見たら祖母ちゃん……何かが滾っちゃう!


「なるほど。

公女は何故そんなに詳しいんだ?

あのムカデを食べるなんて聞いた事もないし、捌き方も熟練していた。

それにあの草や、ついでに食べられる他の野草も迷いなく採取していただろう?

本来貴族令嬢が知っているような知識じゃないはずだ。

その……失礼だが、無才無能でプライドに凝り固まっているが故に、妃教育どころかあらゆる貴族令嬢の嗜みから逃げていると噂されるような公女が持つ知識ではないと思うんだ」


 とっても遠慮がちに無遠慮な事を質問されたわ?


 ふふふ、質問しておいて、どうしてそんなに不安そうなお顔をするのかしら?


 もちろん悪意が無い事は伝わっているし、こんな質問で傷つく事もないから安心していいのよ。


 でも内情を話す関係ではないのよね、私達。

そんな人からの、そんな質問には私の中で定型文があるの。


「Dクラスがとっても楽しいから、楽しむのに必要な知識は大歓迎なのよ。

妃教育や貴族令嬢の嗜みは楽しくないもの」


 そもそも王子妃や貴族令嬢レベルの教育や嗜みなら既にマスター済み、どころか、ぶっちゃけ前々世が色々込み入った事情持ちの王女だったのよね。


 当時の王女教育に、何なら基本的な王太子教育まで習得しているわ。

1世紀前の知識にはなるけれど。


「それは……」


 あらあら、お顔を曇らせて何か言いたげね。

そういえばここに転移する前に、公女としての責任云々について苦言を呈されていたわ。


 可愛いお孫ちゃんに嫌われ……。


「ふん。

由緒ある四大公爵家の公女が好き嫌いで義務を放棄するのか」

「公子」

「養女とはいえ公女としての責任を果たそうと努力するシエナとは大違いだな」

「あらあら?」


 お孫ちゃんの諌めるような言葉も無視して割って入ったのは、言わずと知れた家格君よ。


 どこぞの婚約者な孫と違って、とっても可愛いお孫ちゃんとお祖母ちゃんの憩いの時間を邪魔するなんて、悪い子ね!


 ちょっとムッとしちゃうわ。

でもお顔はデフォルト、淑女の微笑みよ。


「公子」


 今度の諌めるような低音ボイスは、彼らの背後から現れたラルフ君。


「チッ。

協力するとは言ったが、Dクラスの下級生が調子に乗るな」


 まあまあ。

家格君てば、反抗期まっしぐらに舌打ちしてあっちに行ってしまったわ。


「ミナ嬢、悪いがグループとして行動する時に妙な言いがかりや自分の価値観を公女に押しつけるのはやめて欲しい」

「言いがかりのつもりではないんだが……いや、すまない。

どちらにしても無遠慮だった」


 潔く謝るお孫ちゃんは素敵か!

素敵の塊か!!


 はっ、いけないわ。

前世の人格がフィーバーしているわ。


「あらあら、気にしないでちょうだい。

私が義務を放棄して好きにしているのは間違いないもの。

でもそうね。

好きな部分だけを見て好きに判断してくれれば良いのよ」


 そう言ってお孫ちゃんに近づく。


 少し背の高い耳元に顔を近づけて、1つだけ教えてあげましょうね。


「私の雑学は王家の影さん情報よ。

だからあまり詮索はしないでちょうだいな」


 ハッとしてからの、神妙なお顔になって頷くお孫ちゃん。


 そうね、そう言われたら特殊事情とでも誤解しそうよね。

もちろん嘘はついていないし、むしろ本当の事しか言っていないのだけれど。


 特にお父様が王弟で、お母様が辺境領主なんて特殊な家族構成なら余計に誤解しそうね。

何ならこの身分の義務から全力逃亡する事情も勘違いしてくれるかもしれないわ。


 ごめんなさいね。

可愛いお孫ちゃんにはなるべく嫌われたくない小心な婆心からくる確信犯よ。


 でも前々世は王女、前世は86年生きたお婆ちゃんな私は好きに生きる為になら、お腹を真っ黒にしても何も感じないの。

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