If影虎~2人だけの物語②
「トゲツ君。
最近、子守りばかりしているみたいね
疲れてるんじゃない」
「子守りじゃなくて、婚約者との時間を大事にしてんの。
そんな事言うの、先輩くらいですよ」
2つ上の先輩の言葉に、鼻白む。
俺が国立魔法研究所に入った当初から、この女性は距離感が近い。
こうして時折、俺のプライベートに難癖つせてくるんだが、今回は少しカチンときた。
「怒ったのかしら?
先輩として業務に支障が出ないか、心配してるのよ」
「それはどうも」
先輩は俺の心情に気づいたらしく、フォローしようとしたんだろうが、そっけなく返事をして、その場を離れる。
ラビアベルと出会ってから、3年が過ぎた。
当時は13才だったラビも、16才。
ロベニア国では成人だ。
大昔は14才で成人していた。
貴族と一部の富豪は、15才で王立学園に入学するのが一般的だったと聞く。
貴族制度が廃止されるに当たり、王立学園では試験制度を導入。
学力をベースに、各学科毎に魔力や剣技も考慮して、入学の可否が決まるようになった。
ラビと出会ったあの邸は、俺達が出会う前日にラビの物になっていたらしい。
という事は、【ある言葉】をラビが祖父に伝えたという事だ。
ラビに聞いてみたが、秘密にされた。
『いつか教える日がくれば、と願う自分もいるけれど……そうね。
そう、けれど……大事なのは今ですもの。
あなたは、知らなくてもいいわ』
なんて意味深な事を言っていた。
どういう意味かすら、ラビは教えてくれなかった。
それからは、嘘みたいにラビアンジェ=エイナへの執着が薄らいでった。
代わりにラビアベル=ニルティが、何をやってても気になるように。
ちょくちょく会うようになって――まあ、俺がラビの物になったあの邸に通ってたんだが――気づいたら、餌付けされてたんだよな。
魔獣を使った料理をちょくちょく出してくるんだが、どこか懐かしくて、それも絶品。
特に巨大ナマズを使った料理は、自分が釣ってもないのに、誰かと一緒に釣りをしてるイメージまで頭に浮かんだ。
ラビには言ってないが、一瞬、肉にナマズの毒が残ってて、幻覚でも見てんのかと疑ったくらいだ。
ナマズのうな重風や、ナマズ天ぷらのタルタルソースのせ。
他にもたくさんの創作料理に、俺の胃袋はガッツリわし掴み。
ラビの穏やかな性格はもちろん、ダイナミックな行動力にもギャップ萌え。
犯罪じみた年の差だったが、成人したら絶対、婚約を申し込もうと考えるようになった。
で、ラビが16才になった当日。
あらかじめアポを取り、花束と巨大ムカデ、巨大ナマズ、音波狼を自分で狩って、ラビにプロポーズ。
『あらあら?
ずっとお兄さんとして接してくれていたから、今回はてっきり家族愛の方が強いと思っていたのに……』
『あー、さすがに未成年に手は出せねえよ。
ずっと隠してたんだ』
『そうなのね、嬉しい。
もちろんお受けするわ。
けれど今は学生の身だし、今はマンケン部で修行中なの』
『……あ、ああ……マンケン部……まさかのあの画力、んんっ、画伯で……マンケン部……』
『え?
声が小さくて、聞き取れ……』
『いや、何でもない!
若い内は(無謀でも)挑戦するのが大事だよな!』
『何か言外の言葉が聞こえたような?
まあいいわ。
最近、沼る物書き部から泣きの勧誘もされているのだけれど、今回は絵を極めようと思ってお断りしているの』
『ぬ、沼る……』
『どうせならマンケン部の魔法具科を専攻する先輩と、幻覚魔法ではない、魔法具を使ったアニメ――動く漫画も展開したくて』
『そ、そうか。
確かに幻覚魔法で漫画を再現して動かそうとすると、すぐに魔力が尽きるからな。
魔法具か。
そうか、それなら画伯でも……んんっ、いや、素敵な発想でいいな』
という事で最大期限は、ラビが学園を卒業するまでの間、プロポーズは保留とし、ラビは俺の婚約者となった。
とはいえこの時点では、俺とラビの間でだけの婚約にすぎなかった。
なぜなら婚約するにしても結婚するにしても、ニルティ家には大きな障害があったからだ。
その障害が、妹をこよなく愛する、ラビの双子の兄達と……父親だ。
ニルティ家の男達は、妻(母)を早くに亡くしていたからか、どうやら娘(妹)可愛さに、ラビを決して表に出そうとしてこなかったらしい。
初めはロブール家として、正式に婚約の打診をしたが……まさかの無視。
ニルティ家を直接訪問すれば、門前払いが3回。
ラビに泣きついて、4回目にラビとニルティ家を訪問すれば、ラビが席を外した途端、剣と魔法で3方向から襲撃。
もちろん応戦したが、危うく致命傷になりそうな一撃を食らいかけた。
一瞬、緑色にキラキラ光る風が攻撃を防いたような気がしたんだが、気のせいだったのか?
とにかく応戦してる内に、ラビが戻ってきて、高難度の重力操作魔法で俺ごと鎮圧。
ラビがまともに魔法を使う場面を初めて見たが、とんでもない天才魔法師だった。
というわけでラビが17才になる1ヶ月前に、晴れて俺達は正式に婚約者となり、現在に至る。




