706.恋愛婚約~エメアロル国王
「エイナ子爵とは、他言無用の約束なのだよ。
だからティナには教えられないな」
「そうなのね!
とっても楽しみだわ!」
両手をパン、と鳴らして楽しそうに笑うジェナ。
確実に、婚約者であるニルティ公爵の考えを読んでいる。
公爵は公爵で、エイナ子爵と約束していても、ジェナが自分の考えを読み、勝手に解釈する分には良しとしているようだ。
いつも飄々としていて、ともすれば女性との浮名云々の話も一時期はあった。
けれど今は公爵なりに、婚約者のジェナを大切にしている……のだと思う。
ジェナと婚約してから、ここ2年。
公爵の浮名云々は聞かなくなったから。
異母妹のジェナは、トワという作家が書く小説を読むようになってから、恋愛結婚に憧れるようになっていた。
だからジェナは、先々代国王である父上にも、先代国王であるレジルス兄上にも話をして、とある権利をもぎ取った。
僕が国王になった時に、引き継ぎで知った事だ。
それまでは秘密にされていた。
その権利とは、ジェナが王族である事への筋を通せば……つまりジェナ自身がロベニア国に有益だと示せば、ジェナは政略結婚を免除される事。
だからかと思った。
ジェナは恋愛結婚を実現する為、外交に役立ちそうな国内外の礼節や言語を、積極的に学んだ。
学園に入学後は生徒会役員として、他国から留学してくる生徒達とも積極的に交流をはかっている。
また社交界では他国との文化交流に興味関心がある貴族を見定め、国家間の交流を橋渡しして、友好な関係となるよう尽力している。
小さい頃の勉強嫌いなジェナを思い出す。
昔からジェナを知る者も、実は知らない事実だ。
ジェナの利発で要領が良い一面に、大抵の人間は騙されていた。
今のジェナしか知らない人間には、全く想像できないと思う。
そんな勉強嫌いで、なのに要領良く逃げ回るジェナを変えたのは、トワの小説だ。
やっぱりトワは凄い。
そして僕も、トワの小説を読んでいる。
ちなみに【虎和】というロゴが入った、大人向け小説も……いや、この話はよしておこう。
そんなジェナは、いつの頃からか結婚する相手にだけは、ティナという別の愛称を呼ばせたがっていた。
これもトワの小説の影響だと思う。
そんな内容が時々、出てくるから。
長年トワの小説を愛読する公爵も、そうと知らないはずがない。
その上で、ジェナをティナと呼んでいる。
大多数の人間は、政略結婚の為の婚約だと思っているようだ。
けれど違う。
ジェナと公爵の関係は、そういう事だ。
結婚すれば、年の差婚となる。
ジェナは小説に自分を重ねるのが好きで、いつしか年の差婚のジャンルを好むようになった。
もちろん僕同様、トワの小説は全て好んでいるようだけれど。
対して公爵は、あらゆるジャンルを網羅するものの、小説に自分を投影するのは
好まないらしい。
トワの小説は基本的に同じ物を3冊購入するのが、公爵のポリシーだ。
余談だけれど、昔は5冊購入できていたらしい。
トワの小説が人気になってからは、購入制限により、上限が3冊までになっている。
とまあそれはともかく、公爵はジェナと婚約してからは、年の差婚に関しては2冊に留めている。
情報のリーク先は、もちろんジェナ。
2人共、婚約者として仲良くやっているようだ。
国王としてはもちろんだけれど、ジェナの兄としても、このまま2人が幸せな結婚をしてほしいと願っている。
「陛下、皆様。
ロブール公爵の執務室前で、何を立ち話してらっしゃるの?」
「「ベリード公爵」」
僕とジェナの声が重なり、同時に振り向いた。
視線の先には薄紫色の髪に黒い瞳をした、りんとした女性が立っている。
「やあやあ、ベリード公爵。
決して公爵を除け者にしていたわけではないのだよ」
「そうですか。
内緒話でも、そうでなくとも、そろそろ会議の時間です」
「公爵は真面目だな。
今日の会議は、ロブール公爵が妹ちゃんに会いに行ったから、中止でどうだい?
どうせ今日は、ティナを除く私達だけの小会議なんだし」
「ロブール公爵からは、資料を提出いただいております」
ニルティ公爵に、素気なく資料を手渡すベリード公爵は、確かに真面目だ。
ロブール公爵も妹のエイナ子爵が絡まなければ、真面目だったりする。
そんな真面目な公爵達のクッション役が、ニルティ公爵だ。
四大公爵家を三大公爵家とした頃は、どうなるかと思っていた。
けれど三公家の当主達は、バランスの良い関係を保っている。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
ジェシティナの愛称をジェシーにしようかと思ったものの、某男性アイドルの名前になるのでやめました(^_^;)
愛称にすると、シエナやディアと名前が被る事に後から気づくという……。




