701.卒業~ミハイル
「本当に卒業するんだな。
おめでとう、公女」
ラビアンジェの出奔宣言を受けた日から、数週間後。
麗らかな陽気の中で感慨深げに、そしてどこか寂しげな口調で言ったのは、ラルフだ。
「「公女……おめでとう……ございます」」
目を潤ませ、掠れる声で伝えるのは、ラビアンジェと同じチームメイトの、ローレンとカルティカ。
今日は俺とラビアンジェを含む、最終学年の生徒達の卒業式だ。
ラビアンジェは、目立つ事を避けたのだろう。
式が終わるとすぐに帰宅すべく、校門へと向かっていた。
俺はそんなラビアンジェに、せめて馬車を使えと言う為に追いかけた。
そうして校門には、ラビアンジェの行動を予想してか、この3人が待ち構えていたのだ。
ラビアンジェはチームメイト達から手渡された花束を、両手で抱えて微笑む。
「ラルフ君、ローレン君、カルティカちゃん。
2年間、私とチームを組んでくれて、ありがとう。
とっても楽しかったわ」
「公女……俺も……いや、俺達の方こそ、ありがとう」
「「ありがとうございます!」」
ラルフの言葉の後に、ローレンとカルティカも続く。
「それから来年度、といっても、もう来週になるわね。新3年生に上がると、ミランダリンダ=ファルタン伯爵令嬢が復学するわ」
「ああ、わかっている。
公女に紹介されて、既に顔合わせも終わっている」
んん?
ファルタン嬢が復学?
ファルタン嬢は、ヘインズの元婚約者だ。
聖獣ドラゴレナの加護を受けたせいで、気を病み、何年も休学していた。
そうか、やっと復学を。
昨年、といっても半年程前だ。
何故か、とある山でラビアンジェと出会い、半ばラビアンジェに引きずられていた感はあれど、「フ」や「沼」なる謎ワードで、女子2人は意気投合した。
余談だが、俺は謎ワードについて言及しない事にしている。
何かはわからないが、何かに負ける気がしてならないからだ。
そして今、察した。
ラビアンジェは事前に早期卒業について、チームメイト達に話を通していたのだろう。
「それにこれから個人的に、色々と世話になるからな」
んん?
個人的に?
ラルフの世話になるとは、どういう意味だ?
「そうね。
隊長とも話して、ラルフ君と時々、手合わせするようお願いしておいたわ」
ああ、ラルフの冒険者スキルを上げるように……。
「ファルタン嬢は、ラルフ君に沼る作品のレクチャーをするのを、とっても楽しみにしているみたいね」
んん?
ヌマルって、何だ?
レクチャー?
ラルフよ。
一体これから、何をするつもり……。
「けれど編集長とアッシェ、んんっ、漫画部門に配属された面々が、どう判断するか。
これに関しては、ラルフ君次第になるわ」
「ああ。
だがダリオ、んんっ、ダリさんは……」
待て待て!
ラビアンジェとラルフは一体、何を言い間違えて、何を言い直している?!
既に一家総出で、王家に暇を出したアッシェ公爵家だったり、アッシェ家当主のダリオ=アッシェ公爵の話じゃないよな?!
ラルフよ、まさかダリさんとは……随分気安い感じで呼ぶのは……まさかまさかの……。
「俺の話を聞いて、知り合いにも後援を頼むと言ってくれた」
「そう。
そんなに面白い内容なの?
私も楽しみにしているわ!」
ダリオ、いや、ダリさんとやら!
一体、何に対して、誰に後援を呼びかけたんだ?!
ラビアンジェの言う【面白い内容】というワードが、妙なパワーワードにしか感じられなくなってきただろう!
「「俺も(私も)楽しみにしてるんです!」」
ローレンとカルティカよ、知っているんだな?!
後でこっそり教えて……いや、聞かない方が良いのか?!
そんな気がしないでも、いや、そんな気しかしないな!
「ああ。
だができれば公女には、出来上がったものを、1番に見て欲しいんだ」
「ふふふ、そうなのね。
余計に楽しみよ」
「ああ。
時間がかかるかもしれないが……必ず」
ラルフが真剣な面持ちで、ラビアンジェを見つめる。
「公女……俺は……諦めない」
躊躇いがちに、しかしハッキリと言い切った。
何を諦めないのかは、わからない。
しかしラルフの瞳には、決意が宿っている。
「?」
思わず小首を傾げたラビアンジェもまた、ラルフが何を諦めないのかまで、わかっていないようだ。
そしてその事は、ラルフも予測していたのだろう。
「公女」
ラルフがラビアンジェの左手を取り、右膝と左手の拳を地に着けて腰を落とし、右手を左胸に当てて頭を垂れる。
ラルフが左手でラビアンジェの右手を取り、
左膝と右手の拳を地に着けて腰を落とす。
「俺の決意を、忘れないでくれ」
そう言って、ラビアンジェの手の甲に、ラルフが触れるか触れないかの口づけを落とした。
「……わかったわ」
暫しの沈黙後、そう言ったラビアンジェが、ラルフの決意が何かまで、わかっていたとは思えない。
ただラルフの行動の意味は、正しく受け取ったのだろう。
「ラルフ。
全てを、あなたの行動で示しなさい」
そう告げたラビアンジェは、口づけられた右手を胸に当る。
左手をラルフに差し出して、ラルフを立たせた。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
これにてミハイル視点は終わりです。
気づけば大晦日∑(OωO; )
皆様良いお年をお過ごし下さいm(_ _)m
そして本日、先行投稿しているカクヨムの方では本作本編が完結しております。
もし待てないとか、興味がありましたら、そちらもご覧下さい。
https://kakuyomu.jp/works/16816927863356796443
年が明けてすぐの1/10に本作の書籍版(最終巻)が発売されるので、ぜひm(_ _)m
※WEB版とラストを変え、多々あるオリジナルシーン(月和と影虎の一瞬のラブをわかりやすいところに配置etc)をプロローグから入れております。




