686.素敵魔法具グッズ
「あらあら、とっても幸せなお顔ね。
よっぽど気持ち良かったようで、何よりね」
近くに寄れば寄るほど、うつ伏せのパンツ一丁男の顔色の良さが見て取れる。
蝋で埋もれた背中の魔方陣を、少し観察する。
この魔方陣は、私が学園祭で刻んだ封緘の魔方陣だけれど、しっかり機能しているよう。
元王子の顔色よし、封緘もしっかり効いている、更に満足そうに頷いているバルリーガ嬢。
皆が皆、大満足!
これでこそ、魔法具を作った甲斐があるというものよ!
『言葉の使い方……』
なのに私の内側に宿るアヴォイドの念話が、どうしてか不服そう?
不服そうというより、引いているわ?
思わず首を傾げた、その時。
「……ぅ……ん……ん?
な、なんで?!
ラ、ラララ、ラビアンジェ?!」
元王子がお目覚めね。
寝起きなのに、俊敏な動きで起き上がろうと……。
「ステイ!」
――バシン!
「あぁっ……」
いつの間に?
バルリーガ嬢が長鞭を片手に、女王様的貫禄で元王子へと歩み寄る。
元王子は背中を鞭打たれた瞬間、再び床に沈んだ。
『悲鳴に喜びを載せるとは……器用な子孫だ』
更なるドン引き具合のアヴォイドは、初代国王の子孫だと言いたいみたい。
『素敵な魔法具に、メロメロなのよ』
『意味がわからない』
アヴォイドと念話をしている間にも、バルリーガ嬢は手慣れた様子で、ベッド横の燭台を手に取る。
燭台には、使いかけの蝋がセットされていた。
途端、元王子の視線が燭台に向かう。
視線には、期待が混じっている。
「まさか妻の前で、元婚約者を気にするなんて。
悪い子」
「ち、ちがっ……」
すうっと目を細めるバルリーガ嬢と、焦って再び体を起こそうとする元王子。
――バシン!
「はぅん!」
「ステイ!
駄目な子。
ジョシュア、欲しいのでしょう?
何をすべきか、わかっているわね?
ほら、早くなさい。
他の誰かに使ってしまうわよ?」
「そ、そんな?!
待ってくれ……」
「ステイ!」
――バシン!
「はうぅ!」
「言葉遣い」
「待って下さい、私の麗しいご主人様!
今すぐお点けしますから!」
焦る元王子は、すっかり言葉遣いも調教済みだったなんて!
バルリーガ嬢ったら、私の書いたR18作品をリスペクトしてくれたに違いないわ!
『興奮しちゃうわ!』
『ラビアンジェよ、人によっては違う方の興奮と取りかねん。
自重せよ……』
なんて念話をしている間にも、元王子はゴクリと喉を鳴らし、物欲しそうな目でバルリーガ嬢を見た後、魔法で蝋燭に火を灯す。
ジジッと点いた火が大きくなる様を、元王子は恍惚の表情を浮かべて見始めた。
『……何を見せられているんだ』
『ほら、よく見て?
ここからが、私の魔法具の真骨頂よ』
「ジョシュア、【グッド】」
見せ場をアヴォイドに伝えた時、バルリーガ嬢の言葉に呼応して、鞭が先割れた短鞭へと変化する。
手にした燭台が傾き、蝋が魔方陣の上へと溢れた。
「ああ……気持ちいい!
気持ちいいです、ご主人様!」
「ジョシュア、【ご褒美】よ」
――バシン!
【ご褒美】の言葉と共に、背中に鞭が打ちつけられた。
すると魔法具が起動。
元から背中に盛られていた蝋ごと、蝋が変質しながら水となって溶け、元王子をビシャビシャに濡らす。
二呼吸後、背中の魔方陣が銀色に光り、水を一瞬で吸収した。
『……どんな原理と使い方で、魔方陣を強化しておる……』
『聖水効果風よ!
蝋はディアと隊長の魔法で成長させた椿の油に、隊長の奥様ズの花粉を混ぜているわ!
そこにラグちゃんの魔力で出した水に、ピケのクシャミで出た鼻水を混ぜて、蝋と練り込みつつ、キャスちゃんの抜け毛を寄って蝋芯に使ったの!』
『……は、鼻水?』
『程よく粘性が出て、蝋も固まりやすくなったわ!
鞭は【ザ・鞭】を特別製に改良した物だけれど、ハイヨの蔦を1本混ぜて、蝋と鞭、魔方陣の親和性を高めてあるの。
皆で協力してできた魔法具が、SとMなる素敵浄化強化魔法具グッズとなったのよ!』
『……貴重な素材が……』
『そうでしょう!
なかなか量産できない、とっても貴重な魔法具よ!
しかも蝋の融点は低いから、火傷なし!
むしろパラフィン効果で背中や、飛び散って顔に付いた皮膚が潤って、艶肌効果もあるの!
使用者であるバルリーガ嬢の手に付いたら、それはそれで潤いハンドになっちゃう優れ物!』
『……そ、そうか……落ち着け。
無言で鼻息を荒くしていると、違う意味で興奮していると勘違いされる。
中身はともかく、お前は年頃の少女……』
まあまあ、念話とはいえ、魔法具の説明をしている内に、ついうっかりと興奮してしまったわね。




